第十八話 形にする男
年明け、フェリシオンに戻ったボドの中には、珍しく妙な決意めいたものが残っていた。
「今年こそ、何か形にしろよ」
馬車の中でカインに言われた一言が、思いのほか長く尾を引いていた。
服屋通いも、界隈での顔売りも、それなりに続けてきた。だが、それらは結局のところ、何かを「している」という実感を得るための行動であって、何かを「成した」わけではなかった。その違いに、ボドは今更ながら気づき始めていた。
「レオン、今度、楽団関係の集まりとかないか」
店に顔を出すなり、ボドはそう切り出した。
「集まり?」
「楽団組みたいんだよ、俺」
レオンは特に驚いた様子もなく、棚の整理をしながら答えた。
「ああ、それなら、来週ちょうど、有志の集まりがあるよ。楽器持ってる人間が適当に集まって、その場で組んだり演奏したりする感じの」
「行く」
いつもの即答だった。
当日、会場に着いたボドは、持参したギターを片手に、少し緊張した面持ちで輪の中に加わった。
「あ、アッシュさんもやるんですか」
トビアスがそう声をかけてくる。
「まあな」
久々に人前でギターを弾く感覚だった。実際、弦を弾き始めると、周りの人間の何人かが、感心したような顔をした。
「お、うまいっすね」
「手先だけは器用なんだよ、こいつ」
隣で、トビアスが軽口を叩く。ボドは特に否定せず、内心では悪い気がしていなかった。
だが、うまくいったのは、そこまでだった。
誰かがリズムを刻み始め、周りが自然と音を合わせていく中で、ボドだけが、微妙にタイミングがずれていた。
「あれ、ちょっとテンポ、こっちに合わせてもらってもいいですか」
演奏を止めて、リーダー格らしい男がそう声をかけてきた。
「悪い」
軽く謝りつつ、次の演奏では意識して合わせようとしたが、今度は音の強弱の付け方が浮いてしまう。個人としての技術はあるのに、誰かと「一緒に」やるとなると、途端に噛み合わなくなる。それがボドの弾き方の癖だった。
「ソロで弾く分には、めちゃくちゃうまいんですけどね」
休憩中、隣に座った別の演奏者が、悪気なくそう評した。
「まあ、そういうタイプもいるよな」
その言い方には、称賛と、やんわりとした指摘の両方が入り混じっていた。ボドはそれを、称賛の部分だけ受け取ることにした。
「今度、また誘っていいですか」
「もちろん」
その日、ボドは特に楽団を組むまでには至らなかったが、「また誘っていい」という一言だけを持ち帰り、それを十分な成果として受け止めていた。
帰り道、レオンにその日の首尾を聞かれた。
「どうだった」
「まあ、悪くなかった」
「楽団組めそう?」
「そのうち」
レオンは特に深追いせず、軽く笑っただけだった。
その「そのうち」が、この先どれだけ長く続くことになるのか、この時のボドはまだ知らない。




