第十七話 残った三人
馬車が見えなくなるまで見送ったあと、ハンス、ジーク、ゴランツの三人は、当然のようにまたハンスの家へ戻ってきた。
「なんか、静かになったな」
ゴランツがそう言いながら、炬燵に足を突っ込んだ。
「毎年思うけど、あいつら帰るとほんと静かになるよな、この時期」
ハンスがそう言って、湯呑みに茶を注いだ。
「アッシュさん、今年もあんな感じかー」
ジークが誰に言うでもなく、そう呟いた。
「アッシュさんって呼び方、お前ら今年けっこう気に入ってただろ」
「いや、まあ、単純に面白かったから」
「本人、めちゃくちゃ嫌がってたもんな」
三人で顔を見合わせ、小さく笑った。
「でもさ」
ハンスが、少し声のトーンを落として続けた。
「あいつ、フェリシオンで何やってんだろうな、実際」
「服屋の常連、って言ってたけど」
「それだけで生活できてるとは思えねえよな」
「まあ、カインが一緒にいるし、そこまで無茶なことにはなってないだろ」
ゴランツがそう言うと、ハンスは湯呑みを両手で包みながら、少し考えるような顔をした。
「あいつ、昔からそうじゃん。何か一つ夢中になると、周り見えなくなるっていうか」
「絵の表彰状の話とか、いまだに大事に持ってる時点でな」
ジークがそう言って笑った。
「悪い奴じゃないんだけどな」
「悪くはないよ。ただ、面倒くさいだけで」
「それは同意」
三人が揃って頷いた。
「まあでも」
ハンスがぽつりと言った。
「あいつなりに、なんか見つけようとしてるんじゃねえの、向こうで」
「見つかるといいけどな」
ゴランツがそう言いながら、湯呑みを傾けた。
「見つかんなかったら、また来年ここで愚痴聞かされるだけだろ」
「それはそれで、まあいつも通りだけどな」
三人は顔を見合わせ、また小さく笑った。
窓の外では、正月らしい静かな空気が、いつまでも町を包んでいた。ボドがいない間の地元は、いつもより少しだけ、落ち着いた時間が流れていた。
「にしても」
ジークが、思い出したように言った。
「あいつの本名、あっちじゃ誰も知らないんだろ」
「だろうな。知られたくないみたいだし」
「アッシュって名乗るくらいだから、よっぽど気に入ってんだろうな、その名前」
「まあ、本人が満足してるならいいんじゃねえの」
ハンスがそう言って、話を締めくくった。
三人はそれからしばらく、特に意味のない世間話を続けた。ボドがいない間の地元は、賑やかさこそ少し欠けていたが、それはそれで、悪くない時間だった。




