第十二話 手が痛いわ
賭博場:現代日本でいうパチンコ屋みたいなもの。庶民が気軽に入れる場所。
回胴機:現代日本でいうパチスロみたいなもの。
「なあ、今日暇か」
カインからそう声をかけられたのは、珍しくフェリシオンでの仕事がない昼下がりだった。
「暇っちゃ暇」
「賭博場行こうぜ。ちょっと勝った金あるから」
その一言で、ボドの中の何かが即座に反応した。
「男の趣味は結局これだよな」
「何の話だよ」
「楽団か賭博。それ以外は正直B級だと思ってる」
「意味わかんねえこと言ってねえで、行くのか行かないのか」
「行く」
二つ返事だった。金の心配より先に、体が動いていた。
フェリシオンの賭博場は、地元メルダのものよりも一回り規模が大きい。ずらりと並んだ回胴機の前に、昼間から多くの客が張り付いている。老若男女、身なりも様々だったが、みな一様に画面の絵柄に集中していた。
「俺、今日は勝てる気がする」
「毎回それ言ってるよな、お前」
カインが呆れたように言いながらも、隣の台に腰を下ろした。二人並んで、回胴機に金を投じ始める。
最初の数回は、悪くない滑り出しだった。小さな当たりが続き、ボドの機嫌は上向いていた。
「見ろ、絶好調!」
「まだ大した額じゃねえだろ」
だが、潮目が変わるのは早かった。当たりが途切れ、投じた分がそのまま吸い込まれていく。二十回、三十回と回すうちに、手元の金は目に見えて減っていった。
「おかしい! さっきまで来てたのに」
(なんでだよ……)
「そういうもんだろ、これ」
カインの方も、状況は似たようなものだった。ただ、彼はある程度のところで見切りをつけ、腕を組んで盤面を眺めるだけになっていた。
「もう終わりにしとけよ、キリねえぞ」
「あと一回だけ」
「さっきもそれ言ってたじゃん」
「今度は本当にあと一回」
結果は、変わらなかった。
最後の一枚を投じた瞬間、盤面が虚しく回転を止める。当たりの絵柄は、どこにも揃わなかった。
ボドは無言のまま、拳を握り、目の前の台を思い切り殴りつけた。
鈍い音が響いた。
「いって……!」
殴った本人が、真っ先に顔をしかめた。
「手が痛いわ!」
「お前が殴ったんだろうが」
カインが半分笑いながら突っ込んだ。
「うるさい。台が悪い」
「お前のヒキが悪いんだよ」
「うるせえ」
「つーかその手、今夜使えなかったら、リゼットでプレイできないな」
「関係ねえだろ、それとこれとは」
「関係あるだろ、利き手だぞ」
「俺は器用だから左手でもヤレるしいいんだよ」
周りの客が、何事かとちらりとこちらを見たが、すぐに興味を失って自分の台に視線を戻した。この手の光景は、この店では特に珍しいものでもなかった。
結局、その日の二人の手元に残ったのは、行きよりも大幅に軽くなった財布だけだった。
「なあ、次勝ったらどうする」
賭博場を出てすぐ、ボドがそう言い出した。
「まだ次の話してんのかよ」
「勝ったら、レオンのとこで服買おうと思ってて」
「勝ってから言えよ、そういうのは」
ボドは何も言い返さず、痛む手を軽く振りながら、赤くなった拳をポケットに隠した。
ようは台パンして手を痛めたって感じです。
パチスロを無理やり異世界化したら分かりにくさが増した・・・。




