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薔薇園で逢いましょう


 -どうしよう。どうしてここに王太子様が?


 ステラアーチェは動揺を隠し切れずに唇をキュッと結んで、握る手に無意識に力が入っていた。昨夜の事が脳裏に鮮明に思い浮かび、カシアスを見れずに視線を斜め下にさ迷わせた。


 -それに、顔が熱い。きっと赤くなってるわ。


 「とても、綺麗に咲いているね。ここの薔薇の世話は、いつも君が?」


 白薔薇に触れるカシアスの姿は、どう見ても1枚の絵のように見えてしまう。お願いだから薔薇だけを見ていて、私を見ないで。どうしてかわからず、ステラアーチェは体が勝手に竦んでしまう。


 「昨夜は、怖がらせてしまったかな?」


 「は··い、?」


 「全く喋ってくれないものだから、嫌われてしまったのかと」


 けれど、それも仕方が無いと、カシアスは長い睫毛を伏せた。あの時の行動は些か強引であった事は、己も自覚していた。しかし、どう見てもステラアーチェの反応を見る限りでは、そんな様子では無くて、むしろ···。


 「い、いえ。あの、そうでは無くて」


 -言えない。あまりの綺麗な光景に、王太子様に見蕩れていただなんて。


 「では、どうして先程から私を見ようとしてくれないのか、聞いても?」


 -!、あぁ。どうしよう···本当に。


 我ながら意地悪な問いかけだった。

 ステラアーチェの反応を見れば手に取るようにわかる感情。カシアスは知りたかった。己の事を、ステラアーチェがどんな風に思っているのかを。


 「っ、も、申し訳ありません!急用を思い出しましたので、私はこれで!?」


 グイッ!。


 -えっ?


 「待って、逃げないで」


 どきどきと甘い音を奏でる心臓の音。

 カシアスの質問に胸を掻き乱される感覚が走り、いても立っても居られない感情に薔薇園から出ようと、否、カシアスから逃げようとしてしまったステラアーチェ。が、それはカシアスに腕を掴まれてしまった事により、叶わなくなってしまう。


 「!?···いいい、いけません!!こんなッッ!誰かに見られてしまったら、離してください!」


 気がついた瞬間には、ステラアーチェはカシアスの腕の中へと閉じ込められてしまっていた。薔薇のような甘い香りが鼻を掠めて、服の上からでもわかる鍛え上げられた体の感触。伝わる体温と、背中に回された腕の感覚。ステラアーチェは混乱して暴れるけれど、カシアスにとっては小鳥が暴れているような感覚で、ビクともしていない。


 「暴れないで。私は、君にどんなに拒否されようとも、諦めるつもりは無いからそのつもりで」


 甘い香りと優しい声色が耳元に響いた。

 背中をあやす様にぽんぽんと優しい手つきで叩かれて、次第に落ち着きを取り戻していくステラアーチェは、ゆっくりと顔を上げて王太子、カシアスを見つめた。


 ステラアーチェはカシアスの告白に瞳を揺らし、白い頬は紅をさしたかのように赤く染めていた。


 「いつか君が私を好きになってくれたなら、この唇に私の想いをのせよう」


 ステラアーチェの瑞々しいさくらんぼのように赤い唇に、カシアスは親指でスっとなぞった。


 「その前に、君が星の王国の姫だと言う証拠が必要になるけれど、それも、どうにか出来そうだし···、あとは君が私を好きになってくれたなら」


 あぁ、どうか、そんな切ない目で私を見ないで。まるで、いや、本当に童話のような出来事に、ステラアーチェの頭はパンク寸前だった。


 『君が私を好きになってくれたなら』


 抱き締めながら囁かれた言葉が、頭から離れない。王子様であり、容姿端麗であり、人としても尊敬出来る人であり、そんな凄い人をステラアーチェは好きになって良いのかと。逆に私で良いのかと、不安になって行く。


 「言っておくが、私は諦めが悪い。だから覚悟しておいて欲しい。私が君を妻に迎えるまでは。もちろん、妻になっても手放す気は無いからそのつもりで」


 「お、王太子、様っ!?」


 こんなに大胆な求愛なのに、更にステラアーチェは耳を疑いたくなるような言葉が聞こえた。


 「ペガサスが見つかれば、それは君が星の王国の王女としての証になる」


 -ペガサスですって!?

 

 「そうすればきっと···」


 ちょっと、待って!

 そんなステラアーチェの心の声とは裏腹に、カシアスはより一層の優しい力で嬉しげに彼女を抱き締めていた。





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