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黒銀の王女の物語。  作者: 潤ナナ
第一章。
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第10話 真珠と姿絵の母。

 

 ◇◇◇


 10月になった。

 今日も学園の三階に『二粒の真珠』が来ている。美術室に用があるのだ。




 遡る事一週間前。『凱旋パレード』のあった日の事。


 お昼過ぎに皇宮で『叙勲式』と言う式典が行われた。

 数人の士官の都軍と国軍の方と下士官の方が勲章を受け取っている。


 そして「ファテノーク王国ぅー第一王女ぉー、アンリエット・プラティーヌ・ド・ファテノークぅー。並びにぃー、ファテノーク王国ノォーミク侯爵御息女ぉーフェリシエンヌ・ブランシュ・ド・ノォーミクぅー、前へぇー」と、式典官の呼び出しがある。

 玉座の前で揃って跪き臣下(では無いが)の礼をとる。

 ―――――おおおおおおおーーー。。。



「美しい…」「なんて可憐な」「二粒の真珠とは言い得て妙」「しかし可愛らしい「って、少なくとも黒銀の方は見た目通りではないぞ王者のソレだ。凄かった謁見。」「ああ、件の跳ね橋もな。」

「「「その話し詳しくっ」」」


 と、どよめく式典会場。


 普通の祭典等では無い事だった。それは皇帝手ずから勲章をアンリエットに直接、下賜したのだ。

 全く持って前例の無い皇帝の行為だ。


 そうして皇帝手ずからアンリエットの胸に勲章を付けたのである。

 ―――――――おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!


「皆のもの聞け。本来であれば他国、しかもその王女…、おそらく成人する四年後に国の主たる王女に成ろう者にこう言った物を下賜…。賜る事等無い。今回、『明月章』を姫に与える。我が国に於いて『騎士爵(シュヴァリエ)』を賜った。と言うことだ。まだ12にも成らぬ少女、に騎士の称号である。

 前列が無い事だらけだ。従って可能な限りこの者等の望みを叶えたいと考えるが皆などうか。」


 会場は静かになる。

 暫く、ほんの数秒の後「異義等ありませぬ」「良いお考えですわ」「肯定で」「異義など…」「異義無し!」と口々に上がる。ウンウンと首肯するもの等々…。


 横に控える宰相が「皆、肯定のようです皇帝だけに。ぷっ。」と言って皇帝にグーで叩かれた。


「ウム。皆の賛同も得た。望みを言うが良い!」

 暫く考え込んでいる様子のアンリエットだったのだが、横からフェリシエンヌが言い出した。


「アンリちゃんアンリちゃん!この間言ってた『お花摘み』のぉー。。。」

「こ、こんなトコでお花摘みとか言わないのっ。フェーは何時もそんなんだから…。。。」

「言っちゃいなよぉ。アンリちゃん!」


「遠慮せず言うが良い。」

 皇帝はアンリエットに促した。


「では、言います。欲しいのは『製紙技術』です。」

「ソレで良いのか。そんなんで良いのか?ウムッ。では製紙ぎじゅ…」


「へ、陛下お待ちを、お待ちを。」

「なんだ宰相。不可能か?」

「いいえ、そう言う事では無く『製紙技術』と言うより、高級紙は国の基幹産業の一つ。軽々しく余所の国になどに…。」


「だが宰相よ。考えよ『軽々と』敵を屠ったのは誰か?」

「そ、それは…。。。」

「では、皆に問う。『軽々と』この帝都を救った少女に我、帝国は『軽々と』製紙技術を分け与えようではないか!賛成の者は挙手せよ!」

 皆笑って手を高く上に挙げたのだった。


「…フム?…大臣。手を挙げて居らぬ様であったが反対か?」

 大臣と呼ばれた男は一歩前に出て、言うのだった。


「貿易産業を司る者ですが、個人的な観点からの具申を御許し頂ければ………」

「良い許す!」


「では…、私心ではありますが製紙技術とはあまりに。っと思うのであります……。」

「…続けよ。」


「その技術だけとは報酬が少な過ぎると考えます。これだけの恩にそれだけと言うのは少ないのでは?」

「確かに。では、製紙技術は良しとして他には?」


「有りません」

 アンリ即答である。


「では改めて此方で考える」と皇帝陛下はその事について留保した。「個人的に頼みがある」と言う陛下が話し始めた。


「じつはなー…」

 と皇帝陛下は小さな声で切り出した。


「…言いにくいがーその頼み、とは其方達の『姿絵』がー、欲しいのだ」

 ぶちゃけた皇帝陛下。

 そして会場は、「私だって欲しい」「皇帝だからって」「皇帝ばっかズリー」「っんだよー自分ばっか」と言う声が異口同音に叫ばれた。


 この時ばかりは不敬罪で牢に入れられた者は居なかったのである。


「ところで、何故、製紙技術か?」

 と言う陛下の問いに、

「ウチの国の厠の紙、品質悪いの!だから皆は、『綿』を使うのだけれど、綿は下水管が詰まりやすいって、あまり使わせてくれないのっ!」

 フェルシエンヌが、そう答えた。

 尤も、紙でも詰まるんだよ?

 と言うツッコミはなかったが………。



 ◇◇◇


 知っての通り『アデリーヌ学園』は『ブレ城』と棟続きである。


 『ブレ』と言うのは帝都の名であるのだが、『ブレ城』と言うのは通称であって本当は『シルヴェストル城』と言うのだ。

 だが、市井の人々は皆『ブレ城』と言う。

 何時しか、貴族も皇族迄も通称である『ブレ城』と呼ぶ様に成っていたのだと言う。


 で、その学園が城の一部であったとしても、全ての階で出入り出来る訳では無い。防犯上の都合やら何やらあるのだ。

 出入口が有るのは一階の図書室。

 ここは帝国図書館も兼ねており一応入れる時間が決まっている。

 もう一ヶ所がこの三階である。


 先週、陛下が所望したアンリとフェーの『姿絵』を三階の美術室で描く事に成った。


 当初、二人の授業後、つまり放課後だが、ブレ城内で描いて貰う予定であった。


 実際、最初の日は城内で行ったのだが、一旦学園を出て城の跳ね橋を渡り正門の門番に身分証を見せ案内する衛士に連れられて…。姿絵を描く時間が無くなってしまう。


 そこで美術室を使う事に成ったのだ。

 ホントは陛下が姿絵を描かれている二人を眺めて居たかった。らしいのだが…。

 らしい。と言うのは、編入生ルシールからの情報だ。

 先週の終わりから絵師に描いて貰っている。休息日以外、毎日放課後の一時間、と言う約束で。



 で、何故かルシールが今、ここに居る。

 何で居るの?と聞くと「だってここ、私んチだよ?」と言う。

 まあ、学園自体、城の一部っちゃー、一部?だ。


「リュシちゃん、座ってて退屈じゃないのぉ?」

「『リュシ』じゃなく『ルシール』よ。退屈じゃあ無いです。楽しいし。」

 と鼻歌を鳴らしながら眺めるのであった。

 時々、絵師に質問していた。


「この色の顔料は何処で採れるの?」とか「沢山の線を描いて良く色塗れるわね」「どの位の収入が有るの?」等々……。


 絵師が、目を細めルシールを暫く見つめ。


「お嬢さん、お名前は?」

 絵師は少女が第二皇女とは知らないのだが、答えを聞かず続けて言った。


「…もし違っていたら謝ります。あなたはリュシー様の所縁の方ですか?」

 大きく目を見開き驚くルシール。


「そ、その通りです。リュシーは母です」

「やはりそうでしたか…、そのあま色の髪といい…目鼻立ちはリュシー様の様でしたもので…」

 絵師の話しは要約すると、


 若い頃、絵を学ぶ傍ら、小銭を稼ぐ為、似顔絵師の真似事をしていた。

 そんな時、偶々自分に気付いた絵師の郷里の子爵様夫妻。

 御夫妻は御二人で幼年学舎の講師兼経営をしていた為、そこに通っていた絵師の事を覚えていたのだ。

 そして子爵御夫妻は困っているのだと言う。成人した子爵の娘リュシーの縁談話しが10件以上有り、娘の姿絵を送らなければならない。


 そんな沢山の姿絵を作成する資金が無く困っていると言う事だった。

 絵師も子爵の懐具合を知っていたし、絵師自身その娘美姫であるリュシーの美しさを見知って居たので描く事にした。


 結局、縁談はどう言う訳か全て流れ数年後、リュシーは、身分違いだと言う貴族達を押切り帝国皇太子のお妃様に収まった。

 身分の事もあって第二皇妃であったリュシー。


 皇太子とリュシーは二人の子どもとの家族絵をこの自分に描かせてくれた。

 と言う話しだった。


 絵師さんの視線はルシールに向けられては居たのだが、ルシールでは無く今は亡きリュシーを見ているのだ。そう、アンリは思った。



「お日様の光の様な人だったのねぇ。きっとリュシちゃんのぉお母様は」

「え?フェリシエンヌ様は私の名と母の名の意味が『光』って知ってるの?私のセカンドネーム、エリアーヌが『太陽の娘』って意味も…」

「え?そーなのぉ」

 何気に鋭いフェーである。


 その後、アンリエットとフェリシエンヌの双子の真珠姫の姿絵を完成させた絵師さんは、


「これは私が描きたいから描くんです」

 と言い『ルシールとリュシーの二人の並んだ絵』も描いたのである。

 ルシール王女お気に入りの絵に成った事は、ここに記す迄も無い。



◇◇◇


 数日後…。



 跳ね橋に立つアンリエットとフェリシエンヌ。そしてルシールの三人。

 皇帝陛下の時と同じく、衛士数人とこの場所に来ていた。


「ルシー、行きますね。」

「はい、お願いします。」

 こうして跳ね橋の上で、『異層』へと移ったのである。


「リュシちゃん、そっくり!」

 フェリシエンヌの言うのも無理は無い、ルシールに似た、あの貴婦人が、そこに立っていたのだから…。


「…あの方が、わたしの?」

 目に涙を浮かべ、おそらく母であろう貴婦人を見詰めるルシール。

 だが、ルシールは知っている。あの母を姿絵でしか知らない自分。

 そして、まだ赤子でしかなかったルシールだけを知っているだろう母。それも、想い出の中の母で、本当のリュシー妃の魂では無いのだから…………。

 言葉を交わす事は無いであろう。ふれ合う事も無いのだ…。



 三人は、夕暮れの跳ね橋の上で、ほんの短い時間只、立っていた。


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