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第七十七話~魔族領・迷宮編~

太刀と大剣の強化の差が酷い件について

私の使ってる武器はどうなるんでしょう。使用率1%の音が出る武器なんですけどね?

「いたた……こ、ここはどこだ?」


 隠しスイッチらしきものを押してしまった俺は、ダンジョンの奥深くに落ちてしまった。だぶん、あのスイッチが隠しエリアの入り口の条件だったのだろう。俺が落ちてきた穴はまだ空いている物の、戻ろうとすると何か見えない壁にでも阻まれているかのように進むことが出来ない。先に進むしかないようだ。

【鬼才】スキルを使ったせいでまだ痛む頭を押さえつつ辺りを見回すと、何か文章が刻まれた扉があるだけで他には何もない。つまり、あの如何にも隠しボスとの最後の戦いといったあの部屋に進まなければいけない訳だが………


「流石に一人で行くのは無謀だよなぁ」


 一度でも失敗して【成功】スキルのステータスが切れてしまえば、素のステータスが初期値以下の俺は一瞬で溶けてしまう。

 かといって、待てども暮らせどもルナ達がここに落ちてくる様子はない。一人だけしか入れないとかそういった制限でもあるのだろうか?


 ただ待っているのも仕方がないのでとりあえず扉に書かれた文章を読んでみる。


「え~と、何々? 『神は星の力をかき集め、それぞれを結び繋げて12の神器を作り上げた。しかし、全ての星を使うには余りに星が多すぎた。神は余った星を一つにまとめて地上へと廃棄した。しかし、棄てられた星々もまた、結び繋がり神器へと代わる。棄てられし者は天へと帰ろうとするが、12の均衡が崩れる時、天の調和が崩れる時。神は棄てられし者の帰還を許すことはない。これは揺り籠。棄てられし者を封じる場所。討伐せんとする勇者よ。12の力を合わせその力を示せ』……なんだこれ?」

 

 とりあえず、星の力と12の数字から思い浮かぶのは黄道十二星座だな。そして、神器っていうくらいだから、十二星座を模した武器や防具の類があるっていうところだろう。だけど、棄てられて余った星ってどういうことだ? 

 でも、この【棄てられし者の揺り籠】のダンジョンの本当の揺り籠とはこの場所の事で、棄てられし者っていうのはアンデッドモンスターじゃなくてここのボスの事だったんだな。というか俺12の力なんてそんなもの持ってないんだけど。


 いよいよ困ったことになってきた。神だなんて大層な名前が出てきている上に調和が崩れるとか意味深な言葉が入っているし、これってもしかしたら終盤とかの大きなイベント用のエリアとかじゃないのか? じゃあなんで入れたんだって話だけど……俺、ここから出られるのだろうか。


 迷っていても仕方がないのでボールを取り出してジャグリングを開始する。【ジャグリング】スキルが発動することでDEXにプラス補正がかかり、更に【ジャグリング】スキルが【成功】したことによって更に【成功】スキルのステータスプラス補正が入る。


 あの要竜と同等かそれ以上のボスキャラが出てきてもおかしくないんだ。出来るだけ戦う準備はしっかりと整えておいたほうが良い。ただ、装備の方はレプラに作ってもらったDEXを大きく上げる代わりに他のステータスが下がる装備しか持っていないのでこのままなのが不安材料だ。こんなことになるんだったらちゃんとした装備が欲しくなってくる。

 ない物ねだりをしていても仕方がないのでジャグリングに集中する。たっぷり1分はジャグリングしただろうか。秒間2回は成功スキルが発動するから、連鎖ボーナス込みで全ステータスが240加算された計算だ。準備が万端に整ったところで扉を開ける。


 扉を開けてまず目についたのは左右に設置された一対の蛇の銅像。台座には『ここは揺り籠。蛇使い座の眠る場所』と書かれている。そうか! 蛇使い座は十二星座と同様に黄道にありながらも十二星座に含まれない星座だ。それならば石板に書かれた12と1という含みのある文章にも納得がいく。それに13番目って数字は色々不吉な数字だし、この揺り籠から出て12と1が13になったら不吉な事になるって解釈なら……この調和の崩壊ってのにもつながる。


……なんだか開けたくないなぁこれ……。絶対大変な事になるのは目に見えてるし。それでも退路も他に道も無いわけで、ここから出るには進むしかない。まさしく詰みだ。なんだか決まったレールの上を歩かされているような気分になりながら更に奥へと足を進めると、長い城髭を蓄えた老人がロッキングチェアに揺られながら眠っている姿が見えた。あれがこの揺り籠の本当の意味での棄てられし者なのか?


 蛇使い座だなんて言うから蛇のモンスターがボスなのかと思ったけど、蛇使い(・・)なのだから蛇という訳ではないのか。よく見ると眠っている老人の手には白と黒の二匹の蛇が巻き付いた杖が握られている。やっぱりこの老人が蛇使い座の存在で確定だろう。

 更によく調べようと一歩前に出るとゆっくりと老人は目を開いた。

 

「………何者だ」

「お、起きた!? ……失礼しました。俺は、いえ私はメイといいます。貴方こそ何者ですか……?」

「そうか……儂は……誰だったかのう? ……嗚呼そうじゃ。儂の名はアスクレピオース……大した持て成しもできんがゆっくりしていくと良い」


思ったよりも普通の老人? 驚きながらも必死に冷静を装い丁寧にそう尋ねたら、老人は寝ぼけまなこのままに答えてくれた。戦闘に移行するようにも見えないし、もしかして特に何もなく出られるんじゃないか?


「いえ、連れが外で待っていますので。ここから出たいのですが出口はどこでしょうか?」

「外……? 出口……ここから出たいだとぉ!?」

「なっ!?」


 いきなり血相を変えてアスクレピオースを名乗る老人は立ち上がった。まるで何かに怒りを燃やしているような様子に驚きながらも万が一を考えステップを使い距離を取る。

 短剣も再度取り出したのだが、そんな俺の事など気にも留めずに老人は上を見上げて激昂する。


「そうじゃ。思い出したぞ! 儂の居場所はこのような地の底ではない。儂は帰る。元居た宙へと変えるのじゃ!」 

 

〈〈アスクレピオ―スの目覚めにより、緊急クエスト【天の調和と棄てられし者】が発令されました。残り時間は2:00:00です。〉


 今度はなんだ!? 慌てて確認すると、受けてもいないのに受注クエストの項目に新たにクエストが追加されている。内容を見ると、時間内にアスクレピオ―スを止めないと天の調和が失われて、12の天の力も人族領を守る星の輝きも全てが失われるとのこと。

 12の天の力ってのはよくわからないが、人族領を守る星の輝きってのは覚えがある。要竜がいたあの森に最も近かったあの主教国家。あそこの掲げていた宗教が星の輝きを信仰していたはずだ。

 つまり、時間以内に倒さないとヒューマンの種族単位でヤバいってことか? ……マズくないか?

 

「帰るのだ! 在るべき場所へと帰るのだ!」

「させるか! 【フラッシュポーカー】!」

「ぐおぉ!?」


 杖を掲げて何かをやろうとするアスクレピオ―スに対してトランプを投擲し、フラッシュポーカーを発動させて動きを止める。

 

「小僧! 邪魔をするならば貴様から始末するまで!」

「いったい何を……蛇が!?」


 アスクレピオ―スが横薙ぎに杖を振るうと何処からともなく無数の蛇が現れる。しかもただの蛇じゃない。人間代の大きさをした巨大な蛇だ。中にはどこからどう見ても毒蛇らしいドギツイ体色をした個体もいるし、恐らく噛まれるだけでもアウトだろう。

 端からかみつこうと襲ってくる蛇を【的確急所】スキルを使ってから切り捨てる。数は多くても、かみつき攻撃のような単調な攻撃なら問題なく避けられる。これなら問題なく戦えると思ったのだが、そう簡単にはいかなかった。

 再度杖が振るわれると、杖に巻き付いた白蛇の目が輝き俺がさっき斬った蛇のHPを回復させた。こいつ、味方の回復技を持っているのか!?


 再度短剣を振るい近寄ってくる蛇エネミーたちを斬る。斬る。斬る。


 しかし、なんど斬りつけてもHPが1でも残っているとアスクレピオ―スがいる限り瞬時に回復させてしまう。

 かといって蛇エネミーを無視してアスクレピオ―スに近づこうとしても蛇エネミー達が道を阻む。


 さっきみんなと戦った揺り籠の主も同じように大量のアンデッドを召還してきたが、今回は毒や回復もあるせいで難易度が段違いだ。まるでタンクや後方に位置する魔法使いの立ち位置を潰すような動き。まるで攻略組のパーティー構成を潰すような敵ばかりが出てきているような気がするのは俺の気のせいか?

 いや、そんなことよりもだ。この部屋に入る前にたっぷりと成功スキルを稼いだお陰で俺のステータスは飛躍的に増加していたはずだ。それこそ、STRやINTに極振りしているサオリやモルガーナを大きく上回るほどに。にもかかわらずこの蛇を斬りつけてどうだった? クリティカルも発生していたというのにHPを削り切ることが出来なかった。


 ゲーム内の種族の今後に影響するような大きな失敗ペナルティやこの無限湧きであろうモンスターの異常な高ステータス……まさか、本当にラストダンジョンクラスのエリアボスなのか?

 思わず顔が引きつるが、それこそ失敗するわけには行かない。幸いにも敵が大量に現れるという事は何度でもクリティカル攻撃によって【成功】スキルを誘発させることが出来る。落ち着いてステータスを上げて行けばここのレベルにも追いつけるはずだ。

 チラリとアスクレピオ―スの様子を見ると、何か魔法陣のような物を描き始めている。描く速さはゆっくりではあるが、もしかしなくても完成させたらダメなヤツだ。

 急ぎ攻撃を続ける事数十発。遂に蛇エネミーを一匹倒すことに成功した。


「よし! この調子でいけば! 近づける!」


 斬りつけながらアスクレピオ―スに向かいステップスキルを用いて走り出す。近づくたびに湧いてくる蛇エネミーの湧きが増えているような気がするが構いはしない。ボスを倒せば全部終わりだ!

 壁となり道を塞ぐ蛇を攻撃するたびに成功が重なり、ついにクリティカル込みで一撃で蛇エネミーを倒せるようにまでステータスは増加した。だが、距離が残り半分にまでなった所で再度杖が振るわれる。今度は杖に巻き付く黒い蛇の目が輝いたと思ったら、HPが0になったはずの蛇エネミーたちがゆっくりと起き上がった。しかも、HPが完全に最大値に戻った形でだ。

 

「嘘だろ!?」


 まさか蘇生!? いや、HPの増え方が回復して最大値に戻ったというよりも新たなHPバーに切り替わったといった方が正しい。それに短剣の傷跡が残っているし、動きもどちらかと言うとアンデッドのそれに近い。

 もしかしてアスクレピオ―スの杖は回復だけじゃなくて死霊魔法でアンデッドにもできるのか? 復活した個体を倒してみると今度は砂のように消えて行った。やっぱりアンデッドっぽい。これはもう倒した死体をアンデッドに変えられるで確定だ。

それなら一度倒した後にアンデッドとなった蛇エネミーをもう一度倒す必要があるってことか? しかも無限湧きの状況で? 一言言わせてくれ。これ考えた奴馬鹿じゃねぇの!?


 アスクレピオ―スに手が出せなくなったので、引き際にフラッシュポーカーを使って軽く怯ませてからもう一度蛇潰しに移る。


 斬る。復活する。再度斬って止め。斬る。復活する。斬る。

 斬る。復活する。再度斬って止め。斬る。HPちょっと残る。回復される。

 斬る。復活する。再度斬って(以降同じ行動が続く)___


あぁもう! 埒が明かねぇ!

 

 倒す手順が一手増えたせいで、倒す蛇の数よりも湧いてくる蛇の数が上回ってしまった。たまらずアスクレピオ―スから距離を取ると、心なしか湧き量が減った気がする。確かめる為にもう少し離れてみると、今度は目に見えて湧いてくる蛇エネミーの数が減った。

なる程。アスクレピオ―スとの距離でも蛇エネミーの難易度は変わってくると。たぶん、タンクが距離を詰めればその分後方の魔法使いが辛くなる奴だな。俺の中で攻略組潰しのゲームバランスが生まれ始めていることが確信に変わる。簡単にクリアされたら悔しいってか? 笑えないな。


って、そんな事を考えている場合じゃない。残り時間を確認すると1:30:12といつの間にか30分も消費されていた。おかしい。戦闘が始まってから10分も立っていないぞ?


………もしかして、アスクレピオ―スがさっきから描いているあの魔法陣が原因か? あの魔法陣が完成に近づくほどに時間が加速していくとか。だとすればこの蛇エネミーの相手をしながらあの魔法陣の作成も邪魔しないといけないのか。ここまでくると悪質すぎていっそ笑えてくる。正直ソロでやる難易度じゃないな。半分やけになりながらも、プレっシャーを振り払うように笑う。


「面白れぇ! やってやろうじゃねぇか!」


覚悟を決めるためにステップスキルを使って大きく距離を取る。蛇に守られながら魔法陣を描くアスクレピオ―スをにらみながら一度深呼吸で気持ちと息を整える。

この際頭痛がどうとか言っている場合じゃない。この無理ゲーをクリアするにはこっちも相応のスキルを発動させないと勝てる訳がない。


「【鬼才】スキル、発動!」


発動させた瞬間、全てが遅くスローモーションに変わっていく。はいよってくる蛇も、魔法陣を描くアスクレピオ―スも、自分自身も全てがだ。


だけど、自分自身の動きもスローに認識されるようになったおかげで、【成功】スキルによって尋常じゃなく強化されたAGIステータスを御することができるようになった。全てがスローの世界で、俺だけが通常の感覚に近い速度で移動できる。


道中の蛇エネミーを全て切り捨てながら、ステップスキルも使って最速で移動する。これならば死霊魔法を発動させて蛇エネミーをアンデッドに変えるよりも先にアスクレピオ―スの元にたどり着ける。

距離を詰めいよいよ目と鼻の先というほどの位置まで来たところで、アスクレピオ―スが杖を振ろうとしている動作が見えた。蛇エネミーを召還したときの振り方とも、アンデッド化させたときとも違う杖の振るう動作に何か背中がゾワリとする感覚に襲われた。

 

「何をしようとしているかは知らないが、そんなことはさせねぇよ! 【フラッシュポーカー】!」

「_____!  ?」


遅すぎて何を言っているかわからないが、兎に角相手の魔法の発動を邪魔する事には成功した。驚いてのけぞっているアスクレピオ―スの腹部に短剣を一閃。だけど、アスクレピオ―スのHPバーの減少は微々たるものだ。そりゃあ無限湧きの蛇エネミーでさえ最初は一撃で倒せなかったんだ。親玉が無限湧きモンスターよりもHPが多い事は最初から予想している。ここからは根気の勝負だ。


腹に突き刺す。腕を斬る。手を切る。足に突き刺す。首を切り裂く。これでもまだ死なない。


 折角倒した蛇エネミーたちも追加で沸いてついに囲まれてしまったのでそっちの対応もしながら更に攻撃を続けていく。

 

【クリティカル:成功!】【連鎖!】 【クリティカル:成功!】【連鎖!】

【クリティカル:成功!】【連鎖!】 【クリティカル:成功!】【連鎖!】___

 

 成功スキルの発生サイクルが更に速まっていく。【鬼才】スキルで感覚を強化した認知力をAGIの上昇が上回り始めてきた。【鬼才】スキルの残り時間はあとどれくらいだ? スキルが切れた瞬間、自分のステータスについていけなくなって即刻アウトだぞ。


「早く、おわってくれぇぇぇぇ!」


願望交じりに叫びながら首を切り払った時、【鬼才】スキルの効果時間終了と共についに時が来た。


【即死:成功!】


「そんな………この、儂が……憎き12の奴らも、忌々しい地の器もいないというのに……」


 即死が発動し、アスクレピオ―スの首が吹き飛びHPバーが0になる。クエストクリアのファンファーレが聞こえる中、凄まじい程の頭痛に襲われ俺は意識を手放した。

 


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