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第十話

そんな運営いる訳無い。でもそこはスルーの方向でお願いします。それでも良ければお付き合いください。


 ゴブリン騒動の後 残るウサギを何とかした俺らはギルドに戻って依頼の完了を告げた。30体のウサギを倒したことで1万ガメツを入手。そしてS評価を取ったことによりルーキーを卒業。Fランクに昇進出来た。Dまでは高評価を取ればポンポン上がっていくらしい。

 今はギルドの酒場エリアの丸テーブルで、向かい側に座るアニーに得られた所持金のうち半分を渡す。暫定でもパーティー組むならここら辺はしっかり分けておかないと後々面倒になるからね。


「おいおい。流石に初心者から報酬の半分も取れねぇって。そうだな。短剣代分として1000ガメツ。それだけで十分だ」


 そう言って渡した5000ガメツのうち1000ガメツを取っていく。初心者の身をしてはありがたい。アニーが戻してきた4000ガメツを合わせ9000ガメツを懐にしまう。……ガメツガメツうるさいな。どんだけガメツイんだよ俺は。


「さて、初めての依頼お疲れさん。俺としては予想以上の成果を上げていたと思うが、どうだった?」

「コントローラー不要のVRMMOなんて、モドキといえど今の時代で出来たことに感動を覚えているよ。まるで本当に剣が舞い踊ってアートしてるあのアニメの中にいるような気分だった」

「ウサギを素手で捕まえて淡々と短剣で斬りつける事は剣が舞い踊ってる内に入るのか」


うるさいな。例えだよ。


「まぁ確かに、すごいよな。どんなに大手のゲーム会社でも今の技術じゃ出来るのかって疑問を覚えるくらいにはな」


 そう言って真剣な顔をするアニー。確かにそうだ。脳波うんぬんを読み取ってアバターを動かす? そんな技術があったら今頃世界中でニュースに流れて話題の中心になっているはずだ。それなのに、学校でせんせーに聞くまでそんなもの聞いたこともなかった。


「俺は今日家に帰ったら覚えのない検証が当選したとかでこのゲームが送られてきた。それまでこんなゲームネットでも何も聞いたことがない。アニー。このゲームは一体何なんだ?」

「俺も同じだ。家に帰ったら覚えのない当選通知とともにこいつが置いてあった。面白いことにどいつもこいつも皆身に覚えがないらしい。で、このゲームがそうやって出回り始めたのは大体一か月前だ。一応これでも俺は最古参プレイヤーなんだぜ? プレイ日数一か月だけどな」


 そう言って皮肉げに笑う。だとしても不振に思うプレイヤーは要る筈だろう? いや、そういう事に寛容というか鈍感な奴を標的に送ったことも考えられるか。俺も警察に届け出とかしなかったし。むしろ喜々として電源を入れていた。……プレイ我慢してたせんせーより我慢弱かったのか俺。軽くへこむわ。


 「ちょっと待ってくれ。いくら一か月前だとしても、いや一か月も立っているからこそ分からない。普通こんなゲームが届いてプレイしたらある程度のスレや動画が投稿されて話題にでてもおかしくないだろ? それすら出てないのはおかしくないか?」


「あぁそうだ。実際に俺もネット情報を探したし、なんならスレも立てた。だが、このゲームに関する情報は一軒もヒットしなかった。そして立てたスレも立てた瞬間になぜか削除された」

「は?」


「情報を流そうとすると削除されるんだよ。運営によってな。ムキになったプレイヤーの一人が丸二日延々とスレ立てをしたんだが全て潰された。だが、運営も根気負けしたらしくそいつに一通のメールが届いたんだと。その内容なんだが


 ぶっちゃけこのゲームは何処にも許可とって無いです。公けになるとめんど…社会を騒がすことになるので、このゲームの情報に関するネット情報は全て削除させていただきます。このゲームの話はこのゲームの中でのみ行ってくださいってな」


 えぇ……。騒動になるのが面倒だからって更に面倒な事をしてるのかこの運営。力の入れどころが違うだろう。その実行力があることも恐ろしいわ。


「このゲーム。そういう力の入れどころを間違えてるって部分が結構あるぞ? 最初の頃はステータスの情報や効果も自分で調べろって感じだったんだが、大多数のプレイヤーがこれは酷いって騒いだら『騒がれるのが煩わしい』て理由で補正詳細の項目が追加されたし」


補正詳細だけ親切設計だと思ったらそんな裏話があったのか。


「まぁ、酷い部分もまだ多数あるし怪しいって事には変わりない。でも、誰も警察に届け出たりはしない。一度このゲームをプレイしてしまえば分かるだろ? いかにもって感じのヘルメット被って限りなく没入型VRMMOに近いこのゲームに手放し難い魅力があるってことが。ここのプレイヤー。いや、このゲームが届いた奴らはそんな人間の集まりなのさ」


「だがこれだけは覚えとけ。怪しいことには変わりはない。いつか何かしらよくない事が起こるだろうって事は」


 確かにな。どんなに怪しくても、これを体験して手放せるのはゲーム好きじゃあ無い。

 こうやって忠告はしても辞めたり、辞めるよう強要しないアニーを見ればわかるだろう。


「ご忠告どうも。俺も気を付けながらプレーすることにするよ。俺、学生だからこれくらいで今日は落ちるわ。今日は助かったよ。アニー」

「こっちもなかなか楽しい時間だった。あぁ最後に一つ。お前んち、今菓子とかおいてあるか? チョコレートとか」

いきなりなんで菓子の話だ? 確かクッキーがあったような…… でもなんでそんなことを最後に確認してくるんだ? 疑問に思っていると、同情するような目をしながらこう言ってきた。

「あ~、なんだ。このゲーム身体自体は動かさずに頭だけで動かすだろ? 普通は歩く、座るってな行動は身体が覚えている行動だから脳への負担は無いに等しい。だが、身体を動かす必要が無く、脳内の思考だけでどうにかするのがこのゲームだ」

それを聞いて嫌な予感がしてきた。それってつまり滅茶苦茶脳ミソ酷使してる状態ってことだろ? それなら……

「察しが良くて助かる。だから慣れない序盤。特に初日は、とてつもなく頭がつかれる。電源落とした瞬間、死を覚悟する頭痛が襲ってくるぞ」


 だから、糖分とってゆっくり寝ろ。そう言われビビりながらログアウトした。



「落ち着け。アニーが言うには電源を切らない限り緊張の糸は切れないらしい。だからログアウトしてもまだ頭痛は無い。切るぞ。電源切るぞ……!」


カチッ☆(電源OFFの音)


「いってぇぇぇぇええええええええええ!!!!???」


もはや頭痛に耐え切れず、そのまま気絶した。



~~~



「いてて… おはよう……」


 まだズキズキと痛む頭を押さえながら、起床する。食卓には既に父さんはいない。もう出勤したんだろう。俺も早く登校しないと遅刻になってしまう。


「朝日、昨日はどうしたの? ずっと部屋で一人でブツブツと不気味だったわよ。 挙句に夜中に奇声を上げるし…… ノイローゼ?」


 母さんが病院に連れていこうかと本気で悩んでいる。音声は普通にヘルメットに内蔵してあるマイクから拾われているだけだったんだろう。結構叫んでたし、そりゃ心配されるわ。


「別に独り言を言ってたんじゃないよ。なんて言えばいいかな。ずっとゲームでボイスチャットをしていたんだけどつい熱が入っちゃってさ。次からはもう少し抑える様に気を付けるよ。あ、ごめんコーヒー砂糖多めで入れてもらっていい?」

「良かったわ~。あんた特に取柄無いしパッとしないから学校で友達いなくて遂に架空の友達とおしゃべりでもするようになったのかと心配したわ」

「別にそこまで酷くないですけど!?」



 そんなやり取りの後、急いで学校に向かった。ギリギリ滑り込みセーフで遅刻は回避できた。生徒指導の先生がめっちゃ不機嫌そうだ。すいませんでした。


「アイタタ… 皆~朝のHRの時間で~す。席について~…」


 教室に入り朝のHRの時間、斉藤せんせーがふらふらと入ってきた。見るからに眠そうでそれプラス頭を押さえてる。あぁこれは誘惑に勝てなったんだな。危なそうだって忠告したのに。いや俺人の事言えないけど。心配したらしいクラスメートの一人が挙手して質問する。


「先生具合悪いんですか~?」

「心配してくれてありがと~。でも大丈夫。ただの寝不足だから。昨日ちょっと徹夜でネトゲ…じゃなくてお仕事! 授業の準備とかいろいろお仕事してたらいつの間にか朝になってて~。やっぱり教育者として? 身を粉にして行動する尊さの実践的な? うんうん。お仕事大変だったわ~ マジ学校来るとき死ぬかと思ったわ~」


 お仕事レベリングですねわかります。心配してた奴らも良かったいつもの先生だって感じでいつも通りの雰囲気に戻った。

しかし一睡もせずにやってたのかこの残念教師。途中で切り上げた俺でさえ頭痛がヤバかったのにこの人どうなってんだ?HRが終わったらとっちめなきゃな。



「せんせー。昨日の件で話があるんですけど」

「つ、辻君!? ちちち違うの! 誘惑に勝てなかったとかそう言う事じゃなくてね? 君も興味を持ってたっぽいし、もしかしたら私以外にも届いてる生徒がいるかと思ったから、ええと~…そう! 巡回! 念の為ゲームの中を巡回してたの! お祭りの時期にも先生達巡回してるでしょ?  それのネトゲ版! ね?ね? 」


 先生は悪くないのと言い訳をひたすら重ねている。いくらなんでも巡回で完徹ってやりすぎじゃないですかねぇ? と突っ込んでやってもいいが、このせんせーすでに言い訳のキャパオーバーっぽいし勘弁してやる。


「どうせ教頭先生辺りに絞られてるんでしょう? 俺に言い訳しなくてもいいですよ。で、せんせーはなんの種族選んだんですか? 昨日はヒューマンの始まりの町にはいませんでしたけど」

「なんで教頭先生に怒られたこと知ってるの?! って、辻君もあのゲーム届いちゃったの? しかもやっちゃったの? むふふ~ダメだよ~? 怪しいゲームに手を出しちゃ~。 これは先生、教育的指導するしかないんじゃないかな~?」

「自分の事棚に上げてんじゃないですよこの残念教師。確かに俺もプレイしちゃいましたけどその件で言えばせんせーも同罪ですよ。で、どうなんですか? ちなみに俺はヒューマンです。先輩プレイヤーにいろいろ教えてもらって今は短剣使いやってます」

「う、私先生なのに……。 でもいいもん。ふっふっふ。ヒューマンで短剣使い? さすがクラス内ナンバーワン地味メンね! ありきたりすぎてロマンが足りないわ! 私は高貴なるエルフにして偉大なる魔法使いよ!」


 地味メン言うな。朝も似たようなこと言われて気にしてるんだから。ていうか、せんせーも十分よくあるテンプレ選んでんじゃん……。しかも自分で「高貴なる」って……。でもここで褒めないと絶対へそ曲げるしな~。ワースッゴーイサスガデスー。


「なんとなく馬鹿にされた気が… コホン。でもそっか。辻君はヒューマンを選んだってことはまだ会えそうにないね。私も先輩プレイヤーとかにいろいろ聞いて回ったんだけど始めたばかりのレベルだとあまり外に出るのはお進められなくて。でもその内絶対辻君見つけるからね! 辻君のキャラ名教えて! レベルを上げたらすぐ見つけに行くから。パーティー組もうよ! ってなんでそんな露骨に嫌そうな顔するの?!」


「だってせんせー残念なとこあるから……。俺が前衛らしく敵の引き付けしたとしてもヘイトかっ攫って行きそうで」

「そんなことしないよ! これでももう「ウォーキングディザスター」って二つ名も付けられたんだよ! 強プレイヤーの仲間入りしてるんだよ!」


 日本語だと歩く災厄。いや、自然災害? それ二つ名っていうか遠回しにヤバい奴って思われてないか? この人一日で何やらかしたんだ?


「せんせー、一体何やらかしたんだ?」

「敵を見つけ次第サーチ&デストロイ! 手持ちで一番でっかい魔法をぶっ放してるよ! ちょっと山火事になって騒ぎになったけど、売名にもなったしいっぱいレベル上がったし何より気持ちいい! 一石二鳥、いや三鳥だったかな!」


 完璧ヤバい奴だった。しかも山火事って火属性の魔法使ってたの? 確かエルフの初期位置って森のはずじゃ… いやそれ以前にエルフって風とか水魔法って説明されなかったっけ? 経験値は良かったらしいけど、考え無しなのか効率考えた結果なのか……。いやただの残念教師だもんな。


「とにかく、ゲームで遊ぶのはいいですけどせんせー授業とか会議があるんでしょう? 次の日…いやこの人日付変更が当たり前だもんな。後の事も考えて、節度をもって遊んでください」


「はーい!」




この人本当に大丈夫だろうか?






次たぶん明日投稿します。

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