表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

家名の恥

 外に出れなくなってから3日後、私は自室のベッドに寝転がっていた。やる事がないのだ。

 別に自室から出ればやる事がないわけではないのだが、屋敷内を歩いていると、父とすれ違うたびに舌打ちされ、幾人かの使用人からは、背中を指されて笑われる。

 やられる度に私は自室に戻り泣きじゃくっていたのだった。それももう疲れてしまった。

 私が何をしたんだと、声を大にして言いたい。でも無駄だとわかっている。

 ミルヴェーレン家は昔から栄えていた魔術師の家系であり、現在父も、族長を務める程優秀な魔術師として、名を馳せている。そのミルヴァ―レン家の娘が儀式で失敗したと広まったらどうだろうか。恥をかくのは私でなく父の方だ。父はプライドの高い人間だ。優秀ゆえに自分の事を周囲の優秀でない人間を見下している。道端の石ころと同じように。

 だから、父が私を見下すのも無理はない。何故なら、私が覚えた魔法は魔術師として成立しない魔法だから。

 魔術師に必要なのは、高い魔力とそれをコントロールする力。両方の能力値が高ければ高いほど、優秀な魔術師として世に名を残せる。そして覚える魔法が希少であればある程、能力値を生かす事ができる。

 だが、私の魔法はどうだろうか。魔法を使うのに必要なMPの最大値を消費し、STRに加算する魔法。魔術師の覚える魔法ではない。剣術家や拳闘士が覚えるであろう魔法。

 魔術師としての価値は……存在しない。

 自分でそれを認識したとき、ふと何かが切れたかのように、涙が溢れ出る。

 あれだけ泣いたのに、この涙はどこから来るのだろうか。

 私の心はずっと泣いている。


「――――――だ。――――して―――おけ」

「――――した。―――――――――します」

 私はいつの間にか寝ていたようで、自室の前から聞こえる話し声が、私の意識を覚醒させる。

 もぞもぞと芋虫のようにうごめき、ベッドから這い出すと、興味本位で入り口のドアに耳をあてる。

「しかし、本当によろしいのですか族長様。レイラ様はまだ5歳なのですよ?」

 5つ離れた妹の名が出たことに、私は動揺し、思考が停止する。

 しかし、止まった思考は父の言葉で粉砕される。

「かまわん。レイラもルクシア共々魔術の才がなければ、ミルヴァーレン家の恥になる」

「でしたら! リスティ様の名はどうなるのです!? 族長様の為に全てを投げ出したあの方も、家の恥だとおっしゃるのですか!?」

「無論だ。いくら優れた魔術師であろうと、後世に続かないのでは意味がないだろう。さっさとレイラを儀式の間まで連れてこい」

「族長様!! この……クソッ!」

 父が去った後、使用人が悪態をつき、この場から離れていく。でも私は、この場から動くことができない。

 なぜ私はドアに耳をあてたのだろうか。ずっとベッドで横になっていれば良かったのに。

 父は私を、妹を、あまつさえ自分の妻である母を否定しようとしている。

 2年前に亡くなった母は、父に嫁ぐ前、王家につかえていた宮廷魔道士だったという。そんな地位を投げ捨て、小さな部族に嫁いだ母は、何を考えこの道を選んだのだろうか。

 力なく扉にもたれ、三度私は涙を流す。理由はたくさんあり過ぎる。ただ静かに、悲しみを自分から吐き出す。

 その日私は、涙が零れ切り、意識を失うまで悲しみを自分の中から消していった。

書き上げて投稿したと思ったら投稿するの忘れてました

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ