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夜の訪問

「お疲れ様でーす」

「おつかれー」

「また明日ねー」


そんなこんなでバイトが終わり、同じ時間に上がる岸部さんと一緒に店を出た。途中まで一緒に歩いたのち、いつものところで別れ、俺はそこから自転車で数分の距離を駆け抜けた。

自転車を漕ぎながら俺はチラリと神様の方を見た。神様は、バイト中はほとんど無言で、時々『それ美味しいんですか?』と聞くぐらいだった。意外と言うことを聞くらしい。

そんな神様の横顔を見て思う。

黙ってれば可愛いのに。

と、思っていると、視線に気づいたのか神様がこちらを見てきたので、慌てて視線を反らした。


「…今、見てました?」

「ミテナイヨ」

「そのカタコトは見てたんですね。人の横顔を黙って見るなんて盗撮と同じですよ。視姦です。犯罪ですよ」

「そこまで言うことないだろ。それなら世の男性はほとんどが犯罪者だろ」

「そんなことないですよ。昔から言うじゃないですか。イケメンなら許されるって」


そう言った神様は、俺の顔を見ながらニマニマと憎たらしい笑みを浮かべた。


「どーせ俺はイケメンじゃないさ。できることならイケメンに生まれたかったよ」

「生まれた瞬間から人間の運命は決まってるんですよね」

「うっさいっての。人間、顔だけじゃ生きていけないの。なんやかんやでみんな平等なの……って」


ダラダラと漕いでいた自転車の前方に見えてきた我が家。その我が家の玄関の前に、よく知った顔が立っていた。


「……景?」


あの着物姿は見間違えようがない。景の旅館の制服の着物だ。景の私服は清楚で落ち着いた感じの服装が多いが、あの着物姿で来るということは、急ぎの用事でもあったのだろうか? でも携帯にも連絡は来てなかったし…。

少しだけ急いで駐輪場に自転車を止めると、階段をカンコンと上がって景の元へと近づいた。

気がついていたのか、階段を登りきると景と目があった。視線を下に向けると手にはビニール袋に入ったタッパが透けて見えた。


「修ちゃん、おかえり」

「あ、ただいま。どうかした?」

「えっと、これ」


そう言って手に持っていたビニール袋を胸の位置まで上げて見せてきた。


「お父さんが修ちゃんのところに持って行ってあげなさいって」

「おじさんが?」


景のお父さんは景に甘い。もう溺愛していて景のお母さんに怒られてるくらい甘い。

そんなおじさんが夜遅くに一人娘をお使いに出すのだろうか?

そーゆー意味では、景は嘘をつくのが下手だと言える。

景の目をまっすぐ見ていると、眉の両端が下がって困ったような笑みを浮かべた。


「本当は?」

「…なんでバレちゃうかなぁ。ちょっと修ちゃんに話があって。入ってもいい?」


断る理由もない俺は、景を家の中に招き入れた。

元々物が少ないから、急な来客があっても何の問題もないぐらいは片付いてる。


「急に来ちゃってごめんね」

「いいって。で、どうかした?」

「なんか今日の修ちゃんの様子が変だったから気になって…。帰りもすぐに帰っちゃうし、授業中とかもソワソワしてたし。もしかして具合悪いのかと思って」

「あー…」


思い当たるフシがいろいろとありすぎる。見る人から見れば、今日の俺は不審に映ったのか。


「朝だって、あんな手の込んだ冗談を言うなんて、修ちゃんらしくないし。何かあったの?」


真剣に心配してくれているようで、景のほうが泣きそうな顔になっている。

心配性というか面倒見がいいというか。

景なら信じてくれるかな。


「実はさ、朝に神様が見えるって言ったじゃん。あれ、本当なんだ」

「そんなこと言って、また嘘とかっていうんでしょ?」

「いや、これが本当なんだ」

「……修ちゃん?」


真剣な眼差しを向けると、少し不審な顔をしつつも信じてくれたようで、『それで?』と景は言った。


「昨日の夜の事なんだけど…」


かくかくじかじかうんぬんかんぬん。

俺は景に、ここに神様がいること、その神様が恋愛の神様だということ、そして景が葵のことを好きだということを知ってしまったことなどなどを伝えた。


「作り話…にしては出来すぎてるわよね」

「なんかごめん」

「修ちゃんが悪いわけじゃないわよ。その、そこにいる神様のせいなんでしょ? あーあ。それにしても修ちゃんにバレちゃったのはちょっと痛いかな」

「葵のこと?」

「そ。誰にも言うつもりはなかったんだけどね」

「こんな時に聞くのもなんだけど、葵のどこがいいの? あ、別に葵のどこが悪いってわけじゃないけど…」

「いいのよ。葵ちゃんってば、女の子にだらし無さすぎるし。あのなんか放っておけない危なっかしさが見てられないのよ。心配っていうか。昔から優しい子だったから、その優しさを女遊びに使ってるっていうのが間違ってるのよ」


少し頬を膨らませてプリプリと言う景。


「放っておけないのよ」

「えっ?」

「その、なんていうか、構いたくなるっていうか、母性本能が働くっていうか……」


俺のことをチラッと見て、頬を少し赤く染める景。

今まではこんなことを言わなかったので、俺は素直に驚いてしまった。


「修ちゃんにはバレちゃったんだから、ちょっとは惚気け(のろけ)てもいいでしょ? 信じられないけど、修ちゃんも秘密を話してくれたんだし、その神様のことで困ったことがあったら相談に乗るからね」


そう言って景はニコッと笑った。

その笑みに、俺は少し安心して微笑みを返した。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

感想とか書いていただけると嬉しいです。


そこまで長くならないため、それなりにテンポよく進んでおります。


次回もお楽しみに!

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