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ボクはロリなスライムじゃないよ。イケメンになりたいだけなんだ  作者: アザとー
『姉貴』と書いて向かうところ敵なし
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 メインの馬車につける大きな車輪が四枚、荷馬車につける頑丈な車輪が十二枚……イェの口利きで、村中の工房が手分けをして製作することになった。それでも、最低一週間。 その間の宿は、農繁期の農家が快く引き受けてくれた。宿泊の対価としてサクテが彼らに言い渡したことは唯一つ。

「『働かざるもの食うべからず』。オマンマが食いたきゃあ、牛馬のように働きな!」

 イェ家を仮宿としたスラスラとヤヲも、当然のように農作業の手伝いに借り出される。後に残されたユリは、所在無く庭先に座っていた。

「そんなところで何してるんだい。」

 洗濯物を干しに来たサクテが声をかける。

「仕事、できる、無い。役立たない。置いていかれた。」

「あんたをここに残したのは、警備セキュリティーの問題で……」

 言いかけた言葉を飲み込んで、サクテが明るく笑った。

「あんたには、アタシの仕事を手伝ってもらわなくちゃならないんでね。まずは、この洗濯物を干す! それから、子守り! ウチの子守りはハードだよぉ。できるかい?」

「できる! 仕事!」

「よし、じゃあついておいで! びっしびし働いてもらうよ。」

……サクテは、なんだか懐かしい匂いがする。

「母、匂い。」

 ユリが小さく笑った。


「その苗を、あっちの畦に運んでおくれ。」

「えええ、また俺かよぉ。」

 スライムは、今や人生最大のモテ期だった。

 いや、正確にはギガントの姿が、であるが……

「これで全部か?」

 ぎっしりと苗を詰めた木箱を一度にがばっと持ち上げる姿は、農夫達の賞賛と羨望の的であった。

「兄ちゃん、ウチに婿に来ないかねぇ。」

「いや、ウチの娘のほうが可愛いぞ。ぜひウチに……」

「お前ンちの娘って、この前生まれたばっかじゃねえか!」

 明るいからかいの言葉の中で、スライムは大きな溜息をつく。

「ったく、面倒くせ……えふふふっ!」

 ドン、ドン、ドン、と連続した衝撃に咽ながら振り向くと、小さなノームの子供達がしがみつくようにぶら下がっていた。

「おじちゃん、柔らかくない~。」

「ぽよぽよ、ふわふわない~。」

 不服そうな子供達はそれでも、ギガントの大きな手のひらに摘み上げられるとくすぐったそうな笑い声をこぼす。

「何しに来た。母ちゃんは一緒じゃねぇのか?」

「母ちゃん、いっしょ~。」

「おじちゃんのカノジョ、いっしょ~。」

「かのっ! ジョじゃねえしっ!」

 ぽんぽんと身軽に飛び降りた子供達を追いかける視線が、銀髪の少女に囚われた。

 街娘のようにこざっぱりと、一つに髪をまとめた彼女は幼いながらも、少しだけ大人びて見える。エプロンドレスの足元に小さな子供達を従え、大きな弁当包みを持った姿は簡素で色気無いものだが、それがかえって幸せの象徴であるようにも思えた。

「オツカレサマ、アナタ。」

(違う! 妄想! 幻聴! 聞き間違い!)

「オフロ、ゴハン、アタシ?」

「だめだ、こんなにはっきり幻聴が聞こえるなんて……働きすぎに違いない。」

「幻聴、違う。スラスラ、喜ぶ。教わった。」

「ぅ姉貴いいいいっ!」

 どさり、どさりと弁当包みを下ろしたサクテが、からからと笑う。

「いい加減にしてくれよ。こんなことがヤヲに知れたら……」

「あのハンサム君かい? 文句を言ったら、沈めてやるよ。」

「ヤヲをあんまり甞めるなよ。あいつは強いぞ。」

「へえ? 演習試合で、あんたに負けたって聞いたけど?」

「あれは一種の偽装フェイクだ。攻撃を避けて見せることで、単純なあいつは頭に血がのぼって、『攻撃を当てること』に夢中になってしまった。そうなれば太刀筋を読むのはたやすい。」

「あんたの得意技だね。」

「ああ。そうでもしなきゃ、まっとうにやり合って俺が勝てるわけがねぇだろうよ。」

「つまり、インチキだね?」

「もちろん、インチキだ。」

「だ、そうだよ。ハンサム君。」

 スラスラの背後で、何かがフシュコーと立ち上る音が聞こえた。

「あれ? まさか、ヤヲさんが居たりするのかなぁ……」

「そのまさかですよ。卑怯者スライム?」

「おっ、お前だってインチキしたじゃないかよ! 魔法まで使いやがって、最終的に勝ったのはお前なんだからいいだろ!」

「そういうことじゃありません! 私のことまで騙すとは!」

「仕方ないだろ! トレースって言うのは、体格や骨格を写すものであって、経験値の差はどうにもできねぇンだよ。真正面から打ち合ったりしたら、痛いことになるだろ!」

「大丈夫です。今から痛い思いをさせてあげますよ。」

 ユリが二人の間に割って入った。

「やめる。」

 その簡素だが愛くるしい『奥さん』風ファッションに、ヤヲの妄想が暴走する。

「ヤヲ、怒りすぎ。(もうぅ、ユリのダンナサマなんだから、いい加減認めてよね。お兄ちゃん!)」

「……やはり、ぷちりと潰したほうがいいみたいですね。」

 その様子に、サクテは満足そうに頷く。

「うん、うん、『仲良き事はウツクシキかな』。」


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