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弁当包みが畦に広げられ、カフスーウ(ライスを握り固めたもの)とお茶が並ぶ。子供達がぴょこぴょこと畝の間を走り、張りのあるサクテの声が畑の上に響き渡った。
「野郎ども! お茶の時間だよ!」
わらわらと集まって来た仲間達にまぎれて、スラスラとヤヲも輪座の中に座る。剣を振りなれてはいても、鍬を振ったことの無い隊員たちは、どこか誇らしげに新たなマメを自慢しあっている。農夫も負けじと、分厚く堅い手のひらを開き合っていた。
「いい光景だろ?」
明るい笑いと、たくましい生命力にあふれた賑わいの中、スラスラは傍らに座った少女に笑いかける。
「『農』は国の礎だ。農民が元気だってなぁ、国が健全な証拠だな。」
「ノーニウィヨ、小さい。」
「大きい小さいは問題じゃねえよ。『国』なんてのは所詮器だ。どんなに立派な器だって、中身が腐っていちゃぁ意味がねぇだろうよ。その点、この国の中身は腐っちゃいねぇ。民がああして笑って暮らせる、いい国だ……」
ふと寂しげに見えた彼の表情に不安を感じて、小さな手が無骨なギガントの手のひらに重なった。
「スラスラ、悲しい、ある?」
「あ? 俺だって悲しいことの一つや二つ、あるさ。」
「ユリ、聞く。」
「誰かに聞かせるほどの話じゃぁねぇよ。それより、カフスーウだ! このガッツリでかいのは、姉貴が作ったもんだろ。やたらちびっこいこれは、ガキどもが手伝ったのか? で、こっちのきっちり握られているのは……」
「ユリ、作った。」
「マヂかよ。カフスーウを作るなんて、どんだけ庶民的な姫サンだよ。」
綺麗な三角に形作られたそれをいくつか取り上げ、立ち上がろうとしたスライムをユリが引き止める。
「どこ、行く。」
「どこか人のいないところで食ってくるよ。お前も来るか?」
「食べる、ここ。」
「勘弁しろよ。俺が人前で飯を食わねぇのは、お前も知ってるんだろ?」
助けを求めて向けた彼の視線を、ヤヲはわざとらしく横向いて拒否する。
「食事、皆。楽しい。」
「ううう、まあ、一般的にはな。」
「楽しい。悲しい、忘れる。」
「あああ、本っ当に面倒くせぇな……」
スライムは「はぁ」と天を仰いだ。
「俺から歩み寄る……か。」
ギガントの姿のまま片膝を付き、胸に手を当てた軍隊式の最敬礼は、明るい畑の中では異質で、みなの注目を浴びるには十分すぎるぐらいだ。
「これから幾星霜を共にする、その証として、この僕を食の卓の末席に加えていただきたく……」
「大層な挨拶はいいから、さっさと食えよ。」
明るい野次が飛んだ。
「そうだ、さっさと毒見してくれよ。その……ユリ様のカフスーウをよぉ。」
見れば、大きな重の中でユリのカフスーウだけが明らかに減っていない。
「お前ら、この前のフセチィージを食わなかったのかよ。」
「いや、姫サンって言うと、ねぇ……」
「キャラ的に、ねぇ……」
「それにしたって、カフスーウだぜ。誰が作ったってこんなもん……」
ギガントのまま、かぱっと無造作に頬張った彼は、それが舌に触れた瞬間、慄然とした。
「か……神だ。堅くなく、柔らかくなく、舌先でほろりと崩れるこの食感……敢えて具を入れないゆえに感じる塩加減は飯の甘みを引き立たせ、次の一口への食欲を掻きたてる。誰でも作れる料理であるがゆえに、最も奥深い……って、おい!」
次々と重に伸びる手に、スライムは慌てた声を出す。
「いまさらずるいぞ! ユリのカフスーウは俺のモンだ!」
「冗談じゃないぞ後輩!」
「美味い物はまず先輩に食わせるのが、新入りの礼儀だろうが!」
「ンな礼儀があるかよ! 美味いモンは早いモン勝ちだっ!」
畦で繰り広げられる大争奪戦の中、ユリがちょいちょいとスラスラの袖を引いた。
「楽しい?」
「ああ。悲しいのなんか、忘れちまったよ。」
ぐいっとユリを抱えあげた彼は、その小さな耳にだけ届くように小さく囁いた。
「ありがとう……な。」




