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 相当数を切り捨てたはずなのに、ウィプスの群れは減っているようには見えない。間断なく剣を奮う腕は、疲れで微かに震え始めている。

それでも二人は互いに背中を預けて、襲い来る火の塊と戦い続けていた。

 ぼっと燃え上がった炎が、ギガントの腕をかすめる。

「熱っち!」

 ギガントは情けないスライムの声で叫んだ。

「おい、ヤヲ、新発見だ!」

 ちり、と金髪の先を焦がされながら、ヤヲが答える。

「なんですか?」

「俺は、熱いのも嫌いだ!」

「余裕ですね?」

「逆だよ! もう口でも動かさねえと、やってらんねぇ。」

「そうですね、私もですよ。」

 少し離れて高みの見物を楽しんでいたミョネは、その言葉ににやりと笑った。

「へえ、じゃあ、楽にしてあげるよ。そろそろ飽きてきたし?」

「大ボス登場だってよ。」

「『マヂで勘弁』って感じですね。」

 剣化した腕をクロスに構えるミョネの、その柔らかに揺れる谷間を見たスラスラは諦めの笑みを浮かべた。

「人生最後の眺めとしちゃあ、巨乳ってのも悪くねぇけどさ……」

 まぶたの裏に、さらりと揺れる銀髪が浮かぶ。

「……スラスラ!」

「ははっ、幻聴まで聞こえてきやがった。」

 しかし、声は再び、はっきりとした輪郭を持って彼の耳に響いた。

「スラスラ! どこ!」

「ユリっ? ここだ!」

 その声を待っていたかのように、鬨が迷宮内に響き、ウィプスたちが統制を失って乱れ飛ぶ。ばさり、ばさりと剣振るう音が重なり、あちこちでウィプスの断末が聞こえた。

「な、なんなのさ!」

 ミョネの狼狽の一瞬を、二人の男は見逃したりはしない。右と左に飛び別れ、ただ疲れきった腕の重みだけを利用して剣閃を振りぬく。

「くっ、無駄っ!」

 両手を開いて双方の剣を受け止めたその腕が、メリッとかすかに歪んだ。

「っきゃああああああ!」

 ミョネは苦痛の悲鳴を上げ、その刀身には微かなひびが走る。

「よくも、よくもおおおおお」

 刃毀れる腕を押さえた女は、逃げ出しざまに、怒りを含んだ早口で呟いた。

「テモーノ=アル=ネセト(全てを焼き尽くせ)」

 ぼっ、ぼっと無作為にウィプスが炎を吐き出し、二人の男に飛び掛る。

「やっべぇ。もう腕が上がんねぇ。」

「実を言うと、私もです。」

 よろりと力なく座り込んだ目の前で、突然、炎の塊が真っ二つに裂けた。

「隊長! 大丈夫ですか。」

 先陣を切った若者が力強く微笑む。

「おい、スライム、お前はついでだからな!」

「ユリ様のために仕方なく、だからな!」

 次々と駆けつけた兵達は口々に言い訳の言葉を吐きながらも、その腕だけは勇ましく、ウィプス達を切り伏せてゆく。

 さらにおくれて、がちゃがちゃと黒い甲冑を揺らして駆け寄る乙女……

「スラスラ!」

 彼女は大きく腕を広げたヤヲをスルーして、半ば形の崩れかけたギガントに飛びついた。

「うっわ、馬鹿! 危ねぇだろうが!」

 スライムは素早く弾力のある形に戻り、その勢いを全身で受け止める。

 細身とはいえ、大人のユリは小さい姿より重たい。スラスラは大きく窪み、たゆたゆと揺れた。

「大きい、忘れてた。」

「平気だ。女一人抱き止めれねぇほど、ひ弱じゃねぇよ。」

 くぼんだ勢いそのままに抱き寄せれば、乙女は安堵の溜息を漏らし、その全体重を男の腕に預ける。

「スラスラ、無事。ヤヲ、無事。良い。」

「まだ、無事じゃねえぞ。昔、ある賢者が言った。『遠足は、玄関に入るまでが遠足だ』と。」

 スライムは、両手を広げたままで固まっている哀れな男に声をかけた。

「おい、隊長! 俺の理想は解ってんだろ。」

 その声と使命感が、男に正気を思い出させる。

「『一兵たりとて欠くことなく』ですね。」

「号令を。」

「頭の撃退に成功した以上、深追いは禁物! 脱出を最優先とする! 全軍、撤退!」

 伸びやかな自信に満ちたその声に、勝ち鬨が上がった。


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