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◆◆◆

「ユリ様を狙う者がいる?」

「ああ。つまり、街の出口全てには、既に網が張られていると思って間違いねぇ。四面楚歌ってやつだ。」

「逃げ場が無いって事ですか?」

「陸路はな。だが、まだ上と下がある。」

「解りました。すぐに飛べる者を手配……」

「馬鹿か、敵の頭上をひょろひょろ飛んでたら、格好の的だろうがよ。俺なら、下を使う。」

「下?」

「おかしいと思わねぇのか? なぜキスンナーが『迷宮』と呼ばれるのか。」

「すいません、歴史は疎くて……」

「お前、国語も苦手だろ……まあいいや。この街には爺さんの古い知り合いがいる。もう隠居してはいるが、ユリの身分を聞けば協力してくれるさ。『下』に関しては俺に任せておけ。」

「では脱出の手はずを……」

「待て待て! 何でお前は結論を急ぐかなぁ……ここで逃げたとしても、敵サンはしつこく追ってくるだろうよ。それならむしろ、燻りだす!」

 ヤヲが怪訝な顔をした。

「何も、一矢報いようって訳じゃない。この先のことを考えると、敵の正体ぐらいは知っておきたいからな。」

「この先……」

「心配するな。姫サンに近づかないって約束は守る。『俺』を除隊してくれ。」

 スライムがぐいっと伸びをした。

「そこらで適当にトレースして……別人として再入隊させてもらうさ。」

「なぜそこまで……」

「一緒にいるって約束しちまったしな。それに、ユリに教えてやりたいことが一つだけある……」

「教える?」

「別に、エロい事じゃねぇぞ。もっと大事なことだ。」

 その表情は、相変わらずヤヲには読めなかった。

「俺は、あいつの『寝台』だからな。」

 ただ、何時に無く低い声が、その悲壮な決意を伝えた。

                                     ◆◆◆

(くそっ! 裏目に出たか。)

 あれ以来、ヤヲとの接触は一切無い。無骨な彼の演技力を懸念してのことだったのだが、計画に狂いが生じた今となっては、悔やまれるばかりだ。

 スライムは苦々しい思いで、ユリの部屋の扉を開いた。

「やっぱり……起きてたな。」

 寝巻き姿でベッドに腰掛ける少女は、胸にしっかりと極彩色の絵草子マンガを抱えている。

「面白いだろ、それ?」

 言いながらずるりと這い寄る姿に、ユリは何の反応も示さなかった。

 ただ、書物を抱きしめる腕が優しく、まるで『誰か』に祈り縋っているように見えることだけが、スラスラの心を後押しする。

「俺はお前の『寝台』だ。信じろ。」

 言い置いてから、扉の外を意識して声を張る。

「ミョネ、俺の着替えを用意しろ。スライムのままじゃ、歩きにくくてしょうがねぇ。」

 ばたばたと走り出す足音を聞いたスライムは、ずり、と小さな体に張り付いた。

「ユリ、お前も着替えろ。お兄ちゃんに、とっておきの起爆剤ニトロをプレゼントしてやろう。」

 くすくすと笑いながら、スライムが小さな少女を飲み込んだ。



ボツシーンなんですがおまけってことで


褐色の乳をたゆんと揺らしながら、ミョネが暗い路地を走り抜けていく。

 その後ろに続く黒い甲冑の男は、ヤヲと同じ姿をしていた。

「ユリ、大丈夫か?」

 男の腕の中に抱えられた少女は、ヤヲと同じ声に不満げな声を出す。

「スラスラ、声。」

「ん? ああ、すごいだろ。声帯液の動かし方によっちゃあ、女の声だって出せるぞ。」

「違う。声。」

 スライムは、彼女が求めているものにやっと気がついた。

 声帯液を本来の形に戻し、ミョネに聞かれないように小さな声でささやく。

「ごめんな。お前をこんな、怖い目に合わせるはずじゃなかったんだ。」

「怖い、無い。スラスラ、居る。」

「ンな頼られたって、中身は最弱スライムだぞ。あんまりあてにするなよ。」

「……スラスラ、居る。」

 小さな手のひらが、ぎゅっと黒い甲冑を掴んだ。


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