13
ユリの護衛長ヤヲ=ケネセッスは、傷による朦朧とした意識の中、小さな主に対する妄想の中をさまよっていた。
銀髪をツインテールに結い上げた幼い妹が、眠っている自分を揺り起こそうとしている。
「ヤヲ(もー、お兄ちゃんってば!)」
「すみません。あと十分、眠らせてください。」
「ヤヲ(約束してたでしょ! 今日は大事な日だよっ{゜э゜})」
その小さな背後から、逆光に隠れた男の姿が。そして、声が!
「仕方ねぇよ、ユリ。大事な妹を奪うカレシの顔なんか、見たくも無いだろうよ……」
「お兄ちゃんは、許しませんからねっ!」
ダダ漏れの妄想と共に飛び起きたヤヲは、『大きな』ユリとスライムに抱え起こされていることに気がついた。
「やべぇぞ。打ち所が悪かったらしい……」
もしスライムに表情があるとしたら、それはきっと憐憫の色を表していたに違いない。
「大丈夫。ヤヲ、いつも。」
「いつも……なのか?」
憐憫が、さげすみに変わったような気がした。
「ととと、ともかく、戦況はどうなっているのですか!」
あわてて取り繕った声を出すと、スライムの体の表面ににやりとした笑いが象られる。
「終わったよ、全部……な。」
ムルノーの微かな悲鳴が聞こえた気がした。
「ああ、アレは気にすんな。自業自得ってやつだ。そうそう、ユリのチョーカーも回収しておいたぞ。まあ、もう使うことも無いだろうがな……」
スラスラは、形良く成熟したユリの姿に目を移す。
「?」
美しい銀の髪がさらりと揺れ、微かなあどけなさを残す瞳が何の疑いも無くスライムをみる。だが、その体の線は凶暴なまでの色香を放ち、文字通り、彼を『骨抜き』にするほどだった。
(待たせないって、こういうことか……)
幼い姿の時には感じなかった欲情を、強く感じる。
「ユリ、その……『婚姻』の話だけどなぁ……」
期待にときめく心臓液を押さえながら、スライムは振り向く。
ユリは相変わらずの無表情で、チョーカーを首に巻きつけている最中だった。
「何してるんだよ!」
閉じられた魔力はしゅわしゅわと空中に散らばり、まろく、艶やかな女体はみるみる縮んでゆく。
「あああ、もったいない……」
ぺたりと地面に這い蹲るスライムの目の前には、無垢な銀髪の『少女』が立っていた。
「なんでわざわざ、その姿に?」
「スラスラ、こっち、好き。」
「あのなぁ、俺はロリコンじゃないって言ってるだろ。」
あまりにも無防備なそのやり取りに、ヤヲの胸中が微かにざわめいた。
(鍵は……私の手元にあった……)
囚われている間の主は、ずっと小さな子供の姿だったはず……
「ユリ様、『婚姻』とは?」
「一緒、寝た。」
「ほう……」
ヤヲの脳内補完が始まる……
「ずっと、抱いた(一晩中、優しくされちゃったし?)。」
小さな妹は『ぽ』と頬染めた。
「責任、取る(責任、取ってあげちゃおうかなぁ……なんて?)。」
「こんな子供に……『鬼畜』と書いてスライム、ですね。」
陽光のように輝く笑顔はそのままに、ヤヲの表情から『温度』が消えた。
「誤解! 絶対に誤解があるぞ。こんな、まっ平らな体に食指が動くほど……」
ユリの眉毛が、1ミリほどハの字に動く。
「巨乳、好き?」
だぼっと肌蹴た簡易着の胸元から、白い胸元がのぞく。
「うう……」
『変身』の瞬間に焼きついた、オトナの体がスラスラの脳液内に鮮やかに甦った。
(確かに、デカくは無かった。だが、アレはアレで……)
形良く控えめに膨らんだアレは、細身で小柄な体には好ましいサイズだ。
「いや、むしろ、でかいだけよりも、バランス的に好みっつーか……」
「この、無節操が!」
「待て、ヤヲ! 誤解だ。」
「ほう? どう誤解なのか説明していただきましょうかねぇ、害虫?」
辺りに、スライムの悲痛な叫び声が響いた。
「俺は、ロリコンじゃねええええええええ!」




