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 ユリの護衛長ヤヲ=ケネセッスは、傷による朦朧とした意識の中、小さな主に対する妄想の中をさまよっていた。

 銀髪をツインテールに結い上げた幼い妹が、眠っている自分を揺り起こそうとしている。

「ヤヲ(もー、お兄ちゃんってば!)」

「すみません。あと十分、眠らせてください。」

「ヤヲ(約束してたでしょ! 今日は大事な日だよっ{゜э゜})」

 その小さな背後から、逆光に隠れた男の姿が。そして、声が!

「仕方ねぇよ、ユリ。大事な妹を奪うカレシの顔なんか、見たくも無いだろうよ……」


「お兄ちゃんは、許しませんからねっ!」

 ダダ漏れの妄想と共に飛び起きたヤヲは、『大きな』ユリとスライムに抱え起こされていることに気がついた。

「やべぇぞ。打ち所が悪かったらしい……」

 もしスライムに表情があるとしたら、それはきっと憐憫の色を表していたに違いない。

「大丈夫。ヤヲ、いつも。」

「いつも……なのか?」

 憐憫が、さげすみに変わったような気がした。

「ととと、ともかく、戦況はどうなっているのですか!」

 あわてて取り繕った声を出すと、スライムの体の表面ににやりとした笑いが象られる。

「終わったよ、全部……な。」

 ムルノーの微かな悲鳴が聞こえた気がした。

「ああ、アレは気にすんな。自業自得ってやつだ。そうそう、ユリのチョーカーも回収しておいたぞ。まあ、もう使うことも無いだろうがな……」

 スラスラは、形良く成熟したユリの姿に目を移す。

「?」

 美しい銀の髪がさらりと揺れ、微かなあどけなさを残す瞳が何の疑いも無くスライムをみる。だが、その体の線は凶暴なまでの色香を放ち、文字通り、彼を『骨抜き』にするほどだった。

(待たせないって、こういうことか……)

 幼い姿の時には感じなかった欲情を、強く感じる。

「ユリ、その……『婚姻』の話だけどなぁ……」

 期待にときめく心臓液を押さえながら、スライムは振り向く。

 ユリは相変わらずの無表情で、チョーカーを首に巻きつけている最中だった。

「何してるんだよ!」

 閉じられた魔力はしゅわしゅわと空中に散らばり、まろく、艶やかな女体はみるみる縮んでゆく。

「あああ、もったいない……」

 ぺたりと地面に這い蹲るスライムの目の前には、無垢な銀髪の『少女』が立っていた。

「なんでわざわざ、その姿に?」

「スラスラ、こっち、好き。」

「あのなぁ、俺はロリコンじゃないって言ってるだろ。」

 あまりにも無防備なそのやり取りに、ヤヲの胸中が微かにざわめいた。

(鍵は……私の手元にあった……)

 囚われている間の主は、ずっと小さな子供の姿だったはず……

「ユリ様、『婚姻』とは?」

「一緒、寝た。」

「ほう……」

 ヤヲの脳内補完が始まる……

「ずっと、抱いた(一晩中、優しくされちゃったし?)。」

 小さな妹は『ぽ』と頬染めた。

「責任、取る(責任、取ってあげちゃおうかなぁ……なんて?)。」

「こんな子供に……『鬼畜』と書いてスライム、ですね。」

 陽光のように輝く笑顔はそのままに、ヤヲの表情から『温度』が消えた。

「誤解! 絶対に誤解があるぞ。こんな、まっ平らな体に食指が動くほど……」

 ユリの眉毛が、1ミリほどハの字に動く。

「巨乳、好き?」

 だぼっと肌蹴た簡易着ローブの胸元から、白い胸元がのぞく。

「うう……」

『変身』の瞬間に焼きついた、オトナの体がスラスラの脳液内に鮮やかに甦った。

(確かに、デカくは無かった。だが、アレはアレで……)

 形良く控えめに膨らんだアレは、細身で小柄な体には好ましいサイズだ。

「いや、むしろ、でかいだけよりも、バランス的に好みっつーか……」

「この、無節操スライムが!」

「待て、ヤヲ! 誤解だ。」

「ほう? どう誤解なのか説明していただきましょうかねぇ、害虫ロリコン?」

 辺りに、スライムの悲痛な叫び声が響いた。

「俺は、ロリコンじゃねええええええええ!」


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