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 ギガントの巨体が黒い魔風に巻き上げられる。風の合間を縫うように走る得体の知れない闇がバクンと音を立て、生物、無生物の分けすらなく、ごぼり、ごぼりと空間ごと飲み下してゆく。

 怯えるスライムの目の前に、ギガントが救いを求めて手を伸ばした。

「ひいいいいい……」

……ばくん、ボトリ……

 腕だけを地面に落として、ギガントは文字通り『消える』。

「ユリっ、やりすぎだ!」

 スライムに抱きしめられたその女は、少女の姿と変わらぬ無邪気なしぐさで首をかしげた。

「手加減、した。」

「手加減って、ヤヲは……」

 荒れ狂う闇の中で金色の髪が揺れた。

「心配ありません。この闇は謂わばユリ様の化身。私に害をなすわけが無いでしょう。」

 パタパタとカラダのホコリを払いながら近づくその男は……無傷には見えなかった。

 丈夫が売り物のヌニン鋼で作られた甲冑は大きく割れ、額からは一筋の血河が伝い落ちている。

「ヤヲ! お前からも言ってくれ、これはいくらなんでも……」

「……スラスラ、ユリ様が城の口さがない連中に何と呼ばれているか、知っていますか?」

「はぁ? 今はそんな事……」

「いいえ、あなたがこれからもユリ様のお傍にいるつもりなら、聞きなさい。ユリ様の二つ名は『血に塗れた月』……」

 不吉なそのあだ名に震えながらも、スラスラはユリの体を手放しはしなかった。

「ユリ様が初めて人を殺めたのは、ほんの小さな子供の時分。暗殺者を寝室ごと吹き飛ばし、味方にも死者を出しました。それからも、ユリ様を狙うものは後を絶たず、ユリ様はご自身を守るために、幾度と無くこうして戦ってきた……」

……彼女の強大な魔力を恐れて、それを諫める者すらいなかった……今までは。

「そんなユリ様の全てを受け入れ、受け止めることがあなたにはできるのですか?」

「はぁ……面倒臭ぇな……」

「それでも受け入れていただかなくては! ユリ様はあなたのことを……」

「カフクヌゥン=ケ=ウェチク(お兄ちゃん、うるさい!)」

 ヤヲが魔力に高々と突き上げられ、きらりと彼方へ吹き飛ばされる。

「あー、ヤヲが……」

「ハーフエルフ、丈夫。平気。」

 銀の視線が一瞬だけクルリとスライムを見つめ、するりと地面に落とされた。 

「ああ、もう……本当に面倒臭ぇ。」

 スラスラは体の表面をズルンと突き出して、腕の形を作る。ヤヲをトレースした記憶で作られたそれは、透き通った表面の色こそスライムだが、きちんとした五本の指で銀髪をわしわしと掻き撫でた。

「全てを受け入れるなんて無理だぞ。お前だってそうだろう? だから、嫌なことがあったら、言えよな。」

「傍、居る?」

 驚きに跳ね上がった瞳が、スライムの眼球液と見詰め合った。

「まあ、本当に傍に居ることしか出来ないがな。」

「良い。感謝。」

「とりあえず、もう暴れる必要は無い。魔力を……しまえるな?」

「イ=ジーユフ=ヤナーヲ(わが身に戻れ)」

 闇が払われ、月明かりが崩れ落ちた城を照らした。

 大きく荒れ果てた大地に無数のギガントたちが転がり、あちこちでうめき声が聞こえる。

血と、魔力の残り香が強く匂い立ち、吐き気を催すほどだ。

 その中に這い蹲るムナノーの姿もあった。

「あんた、悪運強いな。」

 スライムと、その腕に守られた乙女を見上げる表情には、さすがに笑顔は無い。体中は泥と血に塗れ、今にも泣き出しそうに歪んだ顔の中で、瞳だけが恐怖に見開かれている。

「た……助け……」

「ヌフタ=イ=ヴツ(血に染まりし)……」

「待て待て待て! 何を考えてるっ!」

 ぼふんと抱き寄せるように呪文をさえぎられ、ユリは不満そうに2ミリほど口角を下げた。

「頭、つぶす。戦闘、終了。」

「確かに正しい! 正しいんだが、命乞いをしている相手を殺すのは、世論とか、心証とか、そういう問題が……」

「難しい。」

「……後でゆっくり教えてやるよ。とりあえず、話ぐらいは聞いてやれ。」

 ぼろぼろに汚れた男は、涙を流しながら額を地面に擦り付けた。

「頼む、助けてくれ。ギガントなど、好きなだけ殺せばいい。だが、私だけは……」

 スライムの中で、ごぼりと不快感があわ立つ。

「行こう、ユリ。こんなやつ、お前が手を下す価値も無い。」

「ゆ、許してくれるのか?」

「見捨てたんだよ。残りの命乞いは、せいぜい、そこの奴らにでもするんだな。」

「そこの……?」

 顔を上げたムルノーは、傷ついたギガントたちが暗いまなざしで自分を睨んでいることに、初めて気がついた。


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