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仮宿に決めたビルの一室を覗き込んで、スライムは彼に声をかけることを少しためらった。
拘束されたミョネの食事を世話するヤヲは実にかいがいしい。皿の上を一さじすくって、ミョネの口元に差し出す。
「はい、あ~んしてください。」
「ばばば馬鹿っ! 子供じゃないんだから、自分で食べるよ!」
「皿に顔を突っ込んでですか? そんなみっともないまねはさせませんよ。」
「うう……」
ミョネは頬を紅に染め、少し俯き加減であ~んと口を差し出した。ヤヲはニコニコと笑顔で、さじをその唇に近づける。
「なんか、恥ずかしいんだけど……」
「夜はあんなにダイタンなのに、そのギャップがまた良いですね。」
「……馬鹿。」
スライムは本当に、心底申し訳無く声を上げた。
「お楽しみのところ、本当に悪いンだけどよ……」
ミョネがぴきっと固まり、鼻の先まで真っ赤になる。ヤヲは不機嫌そうに鼻の頭にしわを寄せた。
「俺はやめろって言ったんだぞ……」
スライムの背後からもぞっと歩み出た雨合羽姿の少女は頭の先から足の先まで泥にまみれている。
「ユううううううううリさまああああ!」
悲痛な悲鳴が室内にこだました。
「ああああああ! 擦り傷まで作って……スラスラ、あなたがついていながら、これはどういうことですか!」
「絵草子で見た『水走りの術』ができるって言い張ってな、水溜りを爆走しやがった。」
「理論、可能。」
「右足が沈む前に左足を……ってあれだろ。あれはスピードだけじゃだめだ。水かきのような、ある程度浮力のある足の形をしていないと、水面を蹴り上げる力が……」
「馬鹿なことを言っていないで! まずは入浴の準備……いや、怪我の手当てが先ですね!」
ヤヲががばっと小さな少女を抱き上げる。
「スラスラ、ミョネに食事を! お願いできますか?」
「手配さえしてくれれば、俺がユリの面倒を見る。お前がミョネの世話をしてやれよ。」
「だめです。あなたにユリ様を任せておくと、ろくなことにならない。」
泥に汚れた銀髪がふわりと揺れた。わざとらしく甘えた声でユリがヤヲにしがみつく。
「ヤヲ。(お兄ちゃん、お膝、痛いよぉ(ノД`)・゜)」
「お兄ちゃんがついていますよおおおおお!」
だああああっと走り去るヤヲを見送って、スライムがちょっと体をすくめる。
「ユリのやつ……まあ、俺にも覚えがある。許してやってくれ。」
「何がだよ!」
ミョネが身をすくめて、それでも攻撃的な視線だけはスライムからはずさない。
……まるで、野良猫のようだ。傷つき、薄汚れても決して瞳に宿したプライドを消さない、美しい獣のような……
「なるほどね。ヤヲがやられちまうはずだよ。」
人見知りの激しい獣が自分にだけ心を許し、擦り寄ってくるのはどれほどに愛くるしく見えるものだろう。おまけに、あの金髪の男は世話を焼きたがるきらいがある。そう思えば、あの溺愛っぷりも頷けるというものだ。
「だけど、俺は隊長ドノと違って、お優しくないんでな。」
ずるりとした体が、褐色の肌に触れた。




