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君と僕が統べる夜  作者: 愛猫


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第1巻「夜の王と、月のない少女」

プロローグ ――夜は、終わらない

第1話 「月のない少女」

第2話 「アリス」

第3話 「夜獣」

第4話 「王冠」

第5話 「二人の契約」

第6話 「裏切り者」

第7話 「月城アリス」

第8話 「君と僕」

第9話 「百年前」

第10話 「本当の敵」

第11話 「白い夜」

第12話 「君と僕が統べる夜」

エピローグ

プロローグ ――夜は、終わらない


世界から「朝」が消えて、百年。


人々はそれを《永夜》と呼んでいた。


太陽の代わりに空を照らすのは、巨大な銀色の月。


しかし、その月は満ちることも欠けることもない。


そして、夜が深くなるほど、人間の影から《夜獣》と呼ばれる怪物が生まれる。


人々は巨大な壁都市《ノクティス》に閉じこもり、夜獣を狩る《夜狩士》たちによって、かろうじて生き延びていた。


――そんな世界の片隅に、一人の少年がいた。


名は、黒瀬ヨル。


16歳。


夜狩士養成学院の落ちこぼれ。


ヨルには、ひとつだけ奇妙な特徴があった。


彼の影には――


「……王冠?」


誰にも見えないはずの王冠が、いつも浮かんでいた。


そして。


その王冠が初めて、声を発した。


『――やっと見つけた』


第1話 「月のない少女」


夜狩士養成学院。


実技試験。


巨大な夜獣を前に、訓練生たちが次々と武器を構える。


「《銀槍》展開!」


「右から来るぞ!」


「撃てえええっ!」


光の矢が夜獣を貫く。


歓声。


だが、その中でヨルだけは武器を構えていなかった。


教官が怒鳴る。


「黒瀬! 貴様は何をしている!」


「……俺の武器、ないんです」


「持っているだろう!」


「これ?」


ヨルが腰から抜いたのは――


ただの古びたナイフ。


周囲から笑い声が起こる。


「また黒瀬かよ」


「落ちこぼれ」


「どうして学院にいるんだ?」


ヨルは苦笑する。


「まあまあ。俺もそう思う」


しかし、その瞬間。


夜獣がヨルへ突進する。


誰もが悲鳴を上げる。


ヨルは動かない。


――いや。


動けなかった。


恐怖で足がすくんでいる。


夜獣の爪が振り下ろされる。


その瞬間。


一人の少女が空から落ちてきた。


銀色の髪。


黒い軍服。


赤い瞳。


彼女は夜獣の首を一刀で斬り落とす。


ズシャッ。


少女はヨルを見る。


「……あなた」


「え?」


「どうして生きてるの?」


ヨルは首を傾げる。


「質問の意味がわからない」


少女はヨルの影を見る。


そして、目を見開く。


「……嘘」


「?」


少女の顔から血の気が引く。


「その影……」


「俺の?」


「あなたの影に――」


少女は震えながら呟く。


「《王冠》がある」


第2話 「アリス」


少女の名は、月城アリス。


学院でも有名な天才夜狩士だった。


ヨルを屋上へ連れていく。


「質問するわ」


「どうぞ」


「あなたは《夜王》なの?」


「……何それ」


アリスは驚く。


「知らない?」


「知らない」


「では、なぜあなたの影に《王冠》があるの?」


ヨルは自分の足元を見る。


そこには、いつもの自分の影。


何もない。


「見えないけど」


「……そう」


アリスはしばらく黙る。


そして言う。


「百年前、この世界を永夜に変えた存在がいる」


「それが?」


「《夜王》」


ヨルの表情が変わる。


「じゃあ、そいつが朝を奪ったのか」


「そう伝えられている」


「……なら、そいつを倒せば朝が戻る?」


「理論上は」


「じゃあ倒そう」


アリスは固まる。


「……簡単に言わないで」


「だって朝、見てみたいだろ?」


アリスは答えない。


ヨルは笑う。


「俺、朝を知らないんだ」


「……私も」


二人は月を見上げる。


そのとき。


学院中に警報が鳴り響いた。


《緊急警報。夜獣群が学院内へ侵入》


アリスが剣を抜く。


「行くわよ」


「俺も?」


「あなたを一人にしたら、また死にかけるでしょう」


「心配してくれてる?」


「監視」


「はいはい」


二人は走り出す。


第3話 「夜獣」


夜獣群との戦闘。


ヨルは逃げることしかできない。


アリスが次々と夜獣を倒す。


しかし、その数は異常だった。


「おかしい……」


「何が?」


「夜獣は普通、こんなに群れない」


アリスが空を見る。


月が――赤く染まっている。


「誰かが呼んでる」


「誰を?」


「夜獣を」


その瞬間。


学院の時計塔から声が響く。


『――王を返せ』


全員が凍りつく。


『――我らが王を』


『――黒瀬ヨルを』


ヨルが振り返る。


「……俺?」


夜獣たちが、一斉にヨルへ向かって走り出す。


アリスが叫ぶ。


「逃げて!」


だが、ヨルは逃げない。


「……なんで俺なんだよ」


夜獣が襲いかかる。


ヨルの影が――


笑った。


第4話 「王冠」


ヨルの影から黒い腕が伸びる。


夜獣を掴む。


バキッ。


夜獣が消滅する。


「……え?」


ヨル自身が一番驚いている。


影の中から声。


『命じろ』


「誰だ、お前」


『お前自身だ』


「意味わかんない」


『ならば教えてやる』


影がヨルの姿になる。


しかし、その顔はヨルと違う。


長い黒髪。


金色の瞳。


頭には黒い王冠。


『我は――』


『夜王《クロノス》』


アリスが震える。


「……ありえない」


クロノスは笑う。


『久しいな、月の娘』


アリスの表情が凍る。


「……私を知ってる?」


『当然だ』


「私はあなたを知らない」


『そうだろうな』


クロノスはヨルを見る。


『お前の中から、記憶を奪ったのだから』


第5話 「二人の契約」


アリスはヨルを問い詰める。


「あなた……何者なの?」


「俺だって聞きたいよ!」


クロノスは告げる。


「ヨルには《夜王の器》がある」


しかし完全な夜王ではない。


王として覚醒するには、もう一人が必要。


その人物こそ――


アリス。


「私?」


『月の血を継ぐ者』


アリスの家系は、かつて夜王と戦った《月姫》の一族だった。


つまり。


ヨル=夜。


アリス=月。


二人が契約することで、本来の力が完成する。


アリスは拒絶する。


「私は、夜王を倒すために生きてきた」


ヨルを見る。


「なのに……あなたが夜王?」


ヨルは静かに答える。


「俺は、俺だ」


「……」


「朝を奪ったのが俺なら、俺が取り戻す」


アリスが目を見開く。


「自分自身を倒してでも?」


「ああ」


ヨルは手を差し出す。


「手伝ってくれ」


アリスは迷う。


そして、その手を取る。


「……一つだけ約束して」


「何?」


「もしあなたが本当に夜王になったら――」


剣を抜く。


「私が殺す」


ヨルは笑う。


「頼む」


二人の手に、黒と銀の紋章が浮かぶ。


契約成立。


第6話 「裏切り者」


学院の教師たちが二人を拘束しようとする。


「黒瀬ヨルを処分する!」


「待ってください!」


アリスが立ちはだかる。


「彼はまだ何もしていない!」


「夜王の器を持つ時点で危険だ!」


その中で、学院長だけが静かに笑っていた。


「……なるほど」


ヨルを見る。


「やはり、お前だったか」


ヨルが睨む。


「俺を知ってるのか?」


学院長は答える。


「百年前からな」


そして、学院長の影から巨大な夜獣が現れる。


「学院長……?」


「この世界は、朝を必要としていない」


「何を……」


「永遠の夜こそ、人類の完成形だ」


学院長は《夜教団》の一員だった。


彼らは夜王を復活させるため、百年間暗躍していた。


今回の夜獣襲撃も、ヨルを覚醒させるためだった。


第7話 「月城アリス」


学院長の攻撃。


アリスが応戦する。


しかし学院長は強い。


「月の力など、所詮は夜王の前では無意味だ」


アリスは吹き飛ばされる。


ヨルが駆け寄る。


「アリス!」


「来ないで!」


「でも!」


「あなたが力を使ったら――」


アリスの目に恐怖が浮かぶ。


「あなたの中の《王》が目覚める」


ヨルは拳を握る。


「じゃあ、どうすればいい」


「……私を信じて」


アリスが立ち上がる。


「あなたは王にならなくていい」


「……」


「あなたは、あなたのままでいて」


二人の紋章が光る。


ヨルの影が巨大化する。


しかし今回は――


王冠が現れない。


第8話 「君と僕」


アリスが叫ぶ。


「夜は、あなたのもの!」


ヨルが答える。


「月は、お前のもの!」


二人の力が融合する。


《月蝕契約》。


黒い炎と銀の光が学院長を包む。


学院長は笑う。


「そんな力……」


ヨルが拳を握る。


「俺たちは、王になるんじゃない」


アリスが続ける。


「夜を終わらせるんじゃない」


二人。


「――夜を、俺たちのものにする!」


一撃。


学院長撃破。


だが、その直後。


空に巨大な亀裂が走る。


アリスが呟く。


「……まずい」


「何が?」


「今の力で、《門》が開いた」


第9話 「百年前」


亀裂の向こう。


そこには、百年前の世界が映る。


ヨルは見る。


そこにいたのは――


自分。


いや。


自分によく似た少年。


そして、その隣には――


アリス。


百年前の二人。


ヨルは絶句する。


「……俺たち?」


アリスも動けない。


映像の中で、少年が少女に言う。


『約束しよう』


『うん』


『俺が夜を支配する』


『私が月を支える』


『そしていつか――』


映像が途切れる。


ヨルは頭を抱える。


「……なんだよ、これ」


クロノスが言う。


『真実だ』


「俺は……百年前から生きてたのか?」


『違う』


「じゃあ何だよ!」


『転生だ』


ヨルとアリスは、百年前の夜王と月姫の生まれ変わりだった。


第10話 「本当の敵」


クロノスが告げる。


『永夜を作ったのは、我ではない』


「……え?」


『我は止めようとした』


百年前。


世界には《暁神》と呼ばれる存在がいた。


暁神は、人間の争いを終わらせるため、世界から「昼」を奪おうとした。


昼がなくなれば、人間は争わなくなる。


夜王と月姫は、それを止めようとした。


だが失敗した。


そして二人は転生する。


「じゃあ……」


ヨルが問う。


「夜王は悪じゃなかった?」


『そうだ』


アリスが震える。


「なら、今もどこかに……」


クロノスは空を見る。


『暁神はまだ存在する』


その瞬間。


学院の上空に巨大な白い目が開く。


声が響く。


『――見つけた』


第11話 「白い夜」


世界中の夜獣が動き出す。


しかし、彼らが向かう先はヨルではない。


――空。


白い光が街を包む。


「眩しい……」


ヨルは初めて、太陽に似た光を見る。


しかし、それは温かくない。


「これが……朝?」


アリスが首を振る。


「違う」


白い光に触れた人々が、次々と動かなくなる。


感情を失っていく。


笑わない。


泣かない。


怒らない。


ただ、静かに空を見る。


アリスが叫ぶ。


「人間から心を奪ってる!」


ヨルは剣を握る。


「ふざけんな」


彼の影に、王冠が現れる。


今までとは違う。


完全な黒い王冠。


クロノスが告げる。


『選べ』


『人間を救うため、王となるか』


『それとも――』


ヨルは王冠を掴む。


「どっちも嫌だ」


王冠を握り潰す。


「俺は、王じゃなくていい」


アリスの手を取る。


「こいつと一緒に戦う」


第12話 「君と僕が統べる夜」


暁神が姿を現す。


白い翼。


巨大な人型。


顔はない。


ただ、一つの巨大な目だけがある。


『愚かな子らよ』


『夜は恐怖を生む』


『昼は争いを生む』


『ならば、心を消せばいい』


ヨルが叫ぶ。


「それのどこが人間だ!」


アリスも剣を構える。


「悲しみも、怒りも、憎しみも――」


「全部、俺たちが生きてる証だ!」


二人の紋章が輝く。


黒と銀。


夜と月。


二人の力が一つになる。


《終夜月蝕》。


世界中の夜が、一瞬だけ静止する。


そして。


ヨルの影から無数の手が伸びる。


アリスの光がその手を照らす。


夜と月が、初めて同じ方向を向く。


暁神の光が砕ける。


だが――


完全には倒せない。


暁神の一部が逃げる。


『――また会おう』


『次に目覚めるとき』


『この世界の夜は、終わる』


消える。


静寂。


ヨルとアリスは倒れ込む。


「……勝った?」


「たぶん」


「朝、来るかな」


アリスは空を見る。


月はまだある。


「……まだみたい」


ヨルは笑う。


「そっか」


「残念?」


「いや」


ヨルがアリスを見る。


「一緒に見に行けるなら、いつでもいい」


アリスは少しだけ笑う。


「……そう」


エピローグ


事件から三日後。


学院は半壊。


ヨルは当然のように反省室へ。


「なんで俺だけ!」


アリスは窓の外から笑っている。


「あなたが学院を半分壊したから」


「お前も一緒にやっただろ!」


「私は三割」


「誤差だろ!」


二人が笑う。


その夜。


誰もいない校舎の地下。


封印された巨大な扉。


その向こうから――


声がする。


『王は、目覚めた』


『月も、目覚めた』


『ならば――』


赤い瞳が開く。


『第三の鍵を、起こせ』

次巻予告


第2巻「第三の少女」


ヨルとアリスの前に現れた、謎の少女。


彼女の名前は――白雪ミナ。


「あなたたち、まだ知らないんだね」


「この世界には、《夜王》が一人じゃないってことを」


そして判明する。


夜には、


三人の王がいる。


黒の王。


月の王。


そして――


白の王。


三人が揃ったとき、永夜は終わる。


しかし。


そのためには、三人のうち一人が死ななければならない。

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