軍師のスパルタ忍者塾と、全自動地形ハメ(真・完全確定版)
(前半の、精霊たちとオニキスによる最凶の鬼軍曹式罵倒特訓、およびそれによって死をも恐れぬ冷徹で残虐な集団が出来上がった描写からの続き)
*
そんな演習場の熱狂から離れた、頑丈な作戦室。
そこでは、リクを中心に、リアや各将軍たちによる最終協議が、極めて冷静に執り行われていた。
机の上に広げられた大きな地図には、前線であるグラディス砦の周辺地形が、精霊の見張り網によって隅々まで克明に描き出されている。
「勇者様、人間たちの隔離はすべて完了いたしました。電波を遮断する特殊な壁で囲まれた安全な檻の中に、全人口を収容し終えています」
エルフの将軍ガルディエルが、感嘆の息を漏らしながら地図を指差した。
「よくやってくれました。これで操られる恐れのある危ない身内は、すべて安全に隔離し終えました。残った俺たちだけで、ここからはただの一斉清掃を開始します」
リクは静かに頷き、その隣で解剖用の分厚い書面をまとめていた魔術師のクロエへと視線を向けた。
「クロエ、一年前に生け捕りにしたあの岩人形の調べはどうなりましたか」
クロエは真剣な表情で、これまでの詳細な記録を机に広げた。
「ええ、完璧に丸裸にしたわよ! あの人形、周囲の綺麗な魔力を強引に貪り食いながら、大気汚染のない私たちの部屋では、たった十日間しか生きられなかったわ。十日を過ぎた瞬間、体内の結晶が耐えきれなくなって、内側からボロボロに自壊して完全に砂に戻ったのよ。敵の親玉にとっては、とんでもない大赤字の使い捨て品ね」
「十日、ですか。姿形は見えずとも、敵の焦る理由がよく分かりました」
リクは冷徹に笑みを浮かべ、地図の上に何本もの新しい線を書き加えた。
「だからこそ、敵の親玉は一年前に大気汚染の黒い霧を急激に濃くして、世界環境そのものを汚染して書き換える方に切り替えてきたわけです。そして、その汚染の拡大が、この二年目にしてちょうど俺たちの防衛線に到達する――すべては計算通りです」
ドワーフの族長ブロッグが、自慢の髭を撫でながら不敵に笑う。
「おうよ、二年間かけて解剖データを元に作った罠の設置も完璧だ。陸の重い奴には落とし穴、地中の奴には超高粘着ゲル。空の奴には局地竜巻の檻だ」
「敵が罠を学習して避けたその瞬間に、避けた先の地面そのものが、新しい罠へと自動で書き換わる仕組みも二年間で完全に調整し終えました。ね、リク?」
エルフの女王リアが、可憐で冷酷な笑みを浮かべながら、リクの隣へと一歩歩み寄った。
書類をトントンと揃えてリクに手渡すリア。
その瞬間、二人の指先が、ほんのわずかに触れ合った。
「っ……」
リクの背筋が、一瞬だけ硬くなる。
この二年の月日の間に、二人の関係はただの契約相手から、少しずつ、けれど確実に変化していた。
あの一夜の泥酔以来、リクが夜遅くまで執務室で根を詰めていると、リアが「女王の強制命令」と称して、自ら淹れたお茶を持って寄り添うのが日常の風景になっていた。
他種族の将軍たちの前では完璧に冷徹な「軍師」と「女王」を演じている二人だが、こうして不意に肌が触れ合うと、どうしてもあの特別な夜の温もりを思い出してしまうのだ。
リアはリクの微かな硬直に気づくと、いたずらっぽく、けれど深い愛おしさを込めた瞳でリクを覗き込んだ。
「相手がどれだけ知性的であろうと、進んだ先がすべて罠になる以上、逃げ道はないわ。あなたの立てた仕様通りに、私たちは完璧に動いてみせる。……だから、安心して背中を預けなさい、私の自慢の勇者様?」
「……リア。将軍たちの前で、からかうのはやめてください」
リクは小さく咳払いをし、まともにリアの顔を見られないまま、わずかに耳を赤くして視線を地図へと戻した。
その初々しいリクの反応を見たリアは、胸の奥を愛おしさで焦がしながら、ふふっと愛らしさ全開の笑みをこぼす。
ガルディエル将軍やブロッグは、(おや、いつの間にあんなに良い雰囲気になったんだ……?)と内心でニヤニヤしながらも、二人の知性派トップの絆の深さに、さらなる絶対の信頼を寄せるのだった。
全員の知恵を結集し、そしてリクとリアの固い信頼の元で作り上げてきた完全無欠のシステムが、今、ここにすべての準備を終えた。
リクたちの頭の中に直接響く「頭の中の伝令部屋」に、訓練を終えた精霊たちの賑やかな声が飛び込んできた。
『リク! 特訓おわったよー! がんばったから、今日の夜ご飯は人間圏のチョコケーキおかわりね!』
『我はハンバーグ! チーズが乗ってるやつ! あとお酒も高いやつにして!』
緊迫した大決戦の前夜であるはずなのに、リクの頭の中だけは、可愛い身内たちからの通知が鳴り止まない通知地獄と化していた。
リクはリアの優しい視線を隣に感じながら、数年前に彼女の前で、泥酔して見栄を張って語った大言壮語を思い出した。
(侵略者どもには、これっぽっちも負けない。背中で皆を導き、平和な世界を作ってやる)
「……全く、男の見栄ってのは、高くつく仕事ですね」
リクは小さく苦笑し、感情を完全に殺した、冷徹な軍師の顔へと戻った。
二年の月日が流れた今、敵の親玉が仕掛けてきた大気汚染――黒紫色の瘴気は、ついに限界まで濃くなり、グラディス砦の目と鼻の先まで世界を完全に侵食し尽くしていた。
見上げる空は、昼だというのに太陽の光を完全に遮られ、漆黒の夜のような闇に包まれている。
ねっとりと肌にまとわりつく死の気配と、大気を揺らす不気味な地鳴り。
それは、世界のすべてを自分たちの環境へと強制造り替えようとする、侵略者たちの容赦のない悪意の証明だった。
「来るわね……。二年間、待ちわびた仕様変更の瞬間が」
リクの隣で、リアが女王としての冷酷な笑みをたたえながら、漆黒の境界線を見つめる。
精霊たちの見張り網からは、空間の歪みが限界に達したことを告げる、激しい警告の光が脳内へ次々と点滅していた。
他種族連合の誰もが、肌を刺すような寒気と共に、確信していた。
決戦の時は、今、この瞬間に満ちたのだ、と。
だが、死の闇に包まれた防衛線に、怯える者は一人としていなかった。
国中の魔石を合法的に強奪し、他種族連合の全軍が姿を消したまま、完璧な照準を固定して闇の奥を見据えている。
精霊の女神たちを狂信する、死をも恐れぬ冷徹で残虐な軍隊が、息を殺して罠の起動を待っていた。
二年の月日が、美しく、そして完璧に流れた。
全てはリクの書いた仕様書の通りに。
不敵に笑う軍師と腹黒い女王、そして銃を手にした全軍が、襲い来る害虫を見下ろした、あの第10話ラストの最高潮の決戦の瞬間へと、パズルのピースがハマるように美しく、完璧に合流するのだった。




