:公式伝令の第一回ヤラセ報告(概要)
古代竜オニキスを(人間の金で)買収した翌週。
人間側の王宮の謁見の間には、前線から駆け戻ったばかりの四人の公式伝令(アルマ、バルト、クロエ、ディアナ)の姿があった。
彼らは息を荒くし、衣服をわざと少し汚し、まるで死線を越えてきたかのような完璧な『戦士の悲壮感』を演出していた。
アードルフ・ヴァルハイト王が、玉座から身を乗り出す。
「おお、前線からの伝令か! 勇者様は……我が国の勇者様は、魔族の殲滅を着々と進めておられるか!?」
その言葉を待っていたとばかりに、元王国騎士のアルマが床に膝をつき、顔を覆って肩を震わせた。
ハリウッドのトップスターも裸足で逃げ出す、完璧な『男泣き』の演技である。
「王よ……諸公よ! 聞いてください! 勇者リク様は、まさに神の如き大戦果を挙げられました! なんと、あのグラディス砦の遥か奥地で、一国を灰にする災厄と呼ばれた伝説の【古代竜】が魔族の手によって目覚め、人類圏へと牙を剥いたのです!」
「な、何だとぉぉぉ!?」 謁見の間が、一瞬で絶望の悲鳴に包まれた。
だが、魔術師の少女クロエが、涙を浮かべた目で毅然と顔を上げる。
「ですが、勇者様は一歩も引きませんでした! 勇者様はご自身が開発された聖なる魔導兵器を手に、単身でその古代竜へと立ち向かい……地脈のエネルギーを込めた一撃で、古代竜が根城にしていた巨大な岩山を、龍脈ごと跡形もなく消し飛ばして見せたのです!」
「山を……消した……!?」 大将軍が、驚愕のあまり腰の剣をがたがたと震わせる。
「左様です!」重装歩兵のバルトが、ドスの効いた声で畳みかける。
「山を消し飛ばされた古代竜は、勇者様の圧倒的な武威の前に完全に戦意を喪失! 命乞いをするかのように平伏し、現在は勇者様の『忠実な僕』として調伏されました!
魔族の軍勢など、あの古代竜が一吹きすれば文字通り灰燼に帰すでしょう!」
「おおおおおお……! なんということだ!」 アードルフ王の瞳に、激しい濁りと狂信の光が同時に灯る
。脳内ハッキングシステムが、『勇者がドラゴンを支配した』という超弩級の大戦果に完全加熱していた。
「素晴らしい! 素晴らしいぞ勇者様! 伝説の竜すら従えるとは、まさに神の化身! 人類の救世主だ!」 そこで、神官のディアナが、悲痛な表情で両手を胸の前で組んだ。
「しかし、王よ……。神に等しい超生物を従え続けるには、それ相応の『神聖なるコスト』が必要なのです。
古代竜オニキス様は、魔族を殲滅するエネルギーを蓄えるため、毎日、金貨数百枚に相当する最高級の魔獣の肉と、王室御用達の極上ワインを消費されます。
これらが一瞬でも途切れば、竜の怒りは我が国へと向かうでしょう……!
」「な、何だと!? 竜を飢えさせるな! すぐにだ!」
アードルフ王は、壊れたラジオのように目を血走らせて叫んだ。
「勇者様への追加の『竜管理予算(国家ブラックカード決済)』を無制限に承認せよ! 国庫の底をさらってでも、最高級の肉と酒を前線へ送り届けるのだ! 殲滅だ! 聖戦だ! お祭りだ!!」
「「「「はっ! ありがき幸せにございます!」」」」
四人は揃って深く一礼し、踵を返して謁見の間を退出した。
そして、王宮の重厚な扉が閉まり、廊下の物陰に入った瞬間――四人は一斉に、すっと真顔に戻った。
あまりの冷めっぷりに、周囲の空気が数度下がったのではないかと思えるほどだった。
「……ぷっ、あははは! 見たかよアルマ、あの王様の顔! 完全に騙されてやんの!」 クロエが口元を押さえてクスクスと笑い出す。
「笑い事じゃないぞクロエ。真顔を維持するこっちの身にもなってくれ」アルマが呆れたようにため息をつく。
「しかし、リク様の言う通りだったな。事実を少し大袈裟に(ドラゴンが怒って出てきたのを、調伏したと)伝えるだけで、王宮の連中は勝手に財布の紐を大爆発させる」
「ああ」バルトが冷ややかに首を振った。
「山が消えた本当の理由(銃の暴発)も知らず、あのドラゴンがリク様に美味い肉でおねだりしてるだけの居候だとも知らずに、よくもまぁあんなに喜べるもんだ。……本当に、全員頭が狂ってる」
「ええ」ディアナが神妙な面持ちで頷く。
「でも、私たちがこうして公式スピーカーとして嘘を流し続ければ、リク様のブラックカードは永久に止まらない。……行きましょう。リク様とエルフの女王様が、私たちの国費で次の『魔改造』を待っています」
正気に戻った四人の伝令は、狂気のお祭り騒ぎを続ける王宮を冷めた目で見捨て、最高速の騎獣に跨がって、再び清浄なる他種族連合の地へと駆け戻っていくのだった。




