後輩との遭遇
「聞いて来たぜ、宗次ー」
「……ん? 久しぶりに声を聞いたと思えば、何を聞いたって?」
◇
1年女子である習木との運動を終えた翌日。
たったアレしか動いてなかったにもかかわらず、俺は体中がバキバキに痛いまま教室に入った。
自分の席を目指していただけなのに、ぎこちない動きのせいかギャルどころか、誰も近付いて来なかった。
俺の日常に戻ったということだな。
そう思っていたら、待ってましたと言わんばかりに館山が声をかけて来た。
やはりギャルバリアの効き目が薄くなったんだな。
「宗次。オレは見た! いや、聞いて来た!」
「……何をだ?」
「ウワサのBIG4のことをだ。しかも、うちのクラスに好きな人がいるらしいぞ!」
「何だ、もう駄目だろそれは。夢も希望も無いことを聞かされてもな……」
嬉しそうに話して来るかと思えば、秒で絶望を聞かされたようなものだ。どこからの情報か知らないが、BIG4への夢は辛くも破れたり。
「まぁ待て、落ち着け! 好きなのが誰なのかは不明だ。つまり――誰にでも希望が持てるという意味だぞ!」
「それは女子にも当てはまるのでは?」
「へりくつは抜きにして、うちのクラスにはオレら含めて男が15人くらいいるだろ? つまり……あ、オレは抜きな」
残り14のライバルがいるという時点で、望みがないのと同じだ。
「せめて見た目とか声とか、成績とか身長などなど……好きなパーツまで聞かないと話にならないぞ」
「それをオレに言われてもなー」
「ちなみにそれはどこ情報だ?」
館山から聞かされているということは、垂水ルートを通って来てないことになる。女子ルートをすり抜けて来ての情報は、信用に値しないことが多い。
ダチの館山を疑うわけじゃないが……。
「F組の奴らが騒いでいた」
「――で、そのBIG4はどこのクラスだ? Fか?」
「いや、それは聞いて無い……すまん」
「意味ねー……」
久々にバカ話で盛り上がっていたらHRが始まろうとしていた。朝の時間なんてあっという間だ。
「――青堀宗次。いたら返事しろ!」
何だ? 話なんか聞いてもいなかったが、急に名指しされるとは何かしたか?
「いますが何か?」
「……お前、先生の話を何にも聞いて無かったな?」
「何でしょう? 何でも聞きますよ」
短気な担任だが、冗談を流してくれるのでこれくらいは余裕だな。
そう思っていたのに、
「よく言った! じゃあお前と八積でカギ係な。今日から教室移動の際、教室のカギを閉めてカギを管理しろ。カギを閉め忘れると盗難の危険性があるから、2人で協力してきっちりと仕事をしろ。以上だ」
――何だって? カギ係?
そういや教室移動の時に、そんな奴がウロチョロしてた気がしたが……。
何で今さら俺にそんなことをさせるんだこの野……担任は。
それもギャルとの共同作業とか聞いて無いんだが。
「何で八積さんと俺ですか?」
「お前ら仲いいだろ? 隠さなくてもみんな知ってるぞ。そういうわけだから、この後にカギを取りに来い」
「はぁ……」
ギャルとの交流は終わったんじゃなかったのか。話をまともに聞いて無かったとはいえ、唐突すぎて頭がついて行かないぞ。
そもそも美化係だとか、掲示係とか号令係とか楽そうなのが他にもあるのに。何でこんな俺に責任感みたいなもんを押し付けるのか。
こういうのは俺のような忙しい帰宅部に任せたら駄目だろ……。
――で。
「宗次ー! よろー」
「何で俺なんだ?」
「あんた細かいじゃん? 担任に言われたんだよ。男女で管理しろって! 思い当たる奴いないからあんたにしといた。嬉しいだろ?」
習木のことが解決して八積と話すことは無いと思っていたのに、こんな押しつけでペアにされる日が来ようとは……不覚すぎる。
「……取りに来いって言ってたが、どこに行けばいいんだ?」
「担任がいるのは教員室だろ。宗次って頭が弱い系?」
相変わらず口が悪い奴だな。なまじ見た目が清楚系ギャルなだけに、そのギャップで心が砕けそうになる。
「成績は気にしたことは無いな。八積は?」
「頭が弱いかどうか、試してみるか?」
「……は?」
「とりま、カギ取りに行こうぜ。宗次が先頭な!」
逆らっても無駄なタイプなので、八積を俺の後ろに歩かせて廊下を歩くことにした。教員室は学年ごとに階が決まっているので、そこだけは楽だ。
そうして迷うことなく教員室を目指すと、前方から2階にいたらおかしい女子がこっちに向かって来るのが見える。
俺の姿に真っ先に気付いているらしく、ニヤニヤしながら接近して来た。
あいつから後ろにいるギャルは見えて無さそうだが、大丈夫だろうか。
「こんにちは、宗次先輩」
ん? 名前で呼んで来ただと……?
「はい、先輩です。それじゃあ、急ぐので」
「何を焦っているんですか~? 今から教員室へ行くんですよね? 案内しますよ。わたしについて来てください」
「いや、他にも女子がいるから結構だ」
「どこにですかぁ? 先輩、嘘は駄目ですよ」
後ろにはギャルの八積の姿が――……。
ついて来ているかと思えば、別のクラスの女子と話かよ。
いいのか悪いのか……。
「向こうにいるギャルと同じ係だ。嘘じゃないぞ」
「あの様子だと時間かかりそうですよ」
「……じゃあ頼む」
「はーい」
何で2年の廊下にいるのかを聞いても今さらなので、まずは大人しく習木について行くことにする。