もしかして優等生
「右が使用後、左が使用前です。先輩は2年ですから、ちょうど目線のところに見える置き場にかければいいだけです」
なるべくなら入りたくない教員室の中。
そこから手招きをされ、俺はあっさりと侵入を果たした。
担任から余計な小言を言われた後、習木が近くに立っていたことで何故か担任は、習木に全てを一任。
そしてまさに今、後輩による簡単な説明を受け終わった。
――と言っても、単なる鍵置き場の説明に過ぎず大したことでも無かったり。
「んで、習木は1年だからその下か」
「ぶぶ~! 違います! 2年は確かに先輩の目線の先にかければいいだけですけど、1年は2年の上なんですよ。3年は一番下です! 面白いですよねー」
何が面白いのかさっぱりだ。
習木がおかしいんじゃなくて、うちの学校のルールがそういう風になってるだけだな。
「1年が2年の上なら、苦労するんじゃないのか?」
「もしかして身長のことを言ってたりするんですか~? まぁ、確かに背伸びをしないと届きづらいですけど~」
「大変だな。じゃあ俺は教室に戻る」
鍵置き場やらルールが分かった時点で、ここは用済み。
たまたま後輩女子がいたとはいえ、こいつに関わる理由は無い。
ということで、とっとと教室に戻ってしまおう。
「待ってくださいってば! 普通、こういう時は親切心でついでに取ってくれるんじゃないですか?」
「んー? そこは習木が頑張れ」
「だから~ぎりぎり届きづらいんですってば! 少しは先輩らしいことをしてくれると、わたしの中の先輩の点数が上がるんですよ?」
そうは言うものの、習木は本人の自覚が無いだけでそこまで身長が低いわけでも無い。ほんの少し頑張れば上段の鍵なんて簡単に取れる。
「習木の点数が上がって俺に何の得が?」
テストの点数や単位的なものならともかく、習木個人の点数が上がっても目に見えないものなので、全くもって嬉しくも無い。
「え、えーと、とにかく! 先輩の肩だけでもいいので貸してください!」
「肩ぁ? まさかここで肩車でもしろとか言わないよな?」
「違いますよ。こうするんです……んんんっ、っしょっと……そのままじっとしててくださいよ?」
俺の意思などお構いなしに、習木は俺の肩に手を置きながら最上段の鍵ホルダーに手を伸ばした。
ぷるぷると震わせながら、届くか届かないかの駆け引きを頑張っている。
俺の肩などいらないと思うが……。
「先輩先輩、ちょっと役得ですよー」
ぽふっ。とした感触が俺の鼻先をかすめた。
役得という意味はどうかと思うが、習木の胸の部分が丁度良く目の前に現れた。
鍵を取ってやるでもなく、肩を貸してやってるだけなのにこれは……。
特権という代物なのか。
とはいえ、かすめただけに過ぎず照れる出来事でも無いので、俺は至って冷静だ。
「……ふぅっ。取れました。宗次先輩のおかげで助かりました」
「何で宗次先輩なんだ?」
確か今までは、うざいくらいに青堀先輩と呼んでいたはず。
それが何故格上げしたのか意味不明だ。
「名前で呼んだ方が嬉しいじゃないですか~」
「特別でも無いけどな」
「まぁいいじゃないですか! 遠くの関係でも無いし、これからはそう呼びます。それじゃあ、わたしはお先に失礼しまーす!」
「じゃあな」
何だったんだ今の出来事は。
とにかくさっさと教室に戻るか。
そう思っていたら、担任に捕まった。まさか追加の説教でもするのか。
「何だ、青堀。習木さんの鍵を取ってあげてたのか?」
「え? いや、自分で取ってましたよ」
「いや、おかしいだろ。いつもは教員の誰かが鍵を渡してあげてるんだぞ? 何で取ってあげないんだ」
「って言われても。VIPな生徒とかでも無いだろうし」
呆れるようにして、担任は首を何度も振りながら席へ戻って行った。
何だ……? あの1年女子はそんなに特別待遇なのか。
それとも模範的な優等生という奴なのでは。
こればかりは興味を持たないと知りようも無いことだし、特に気にすることでも無いな。
次に遭遇したらさり気なく聞いておくか。




