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244、人の神

リーリア視点


 中に入るとそこはこぢんまりとした書斎だった。


 本に囲まれた、静かな場所。

 本の匂いなんて嗅いだことが無いから新鮮だった。


 椅子に腰かけていた老人を見た瞬間、

 お父さんが小さく息を呑んだのがわかった。

 すると、老人が笑顔となり語りかけてきた。


「よくぞここまで辿り着いたな。歓迎しよう」

「オリアス……なのか?」



 その名を呼ぶ声は、驚きよりも困惑に近かった。

 老人は、ゆっくりと立ち上がる。


「この時を待っていましたよ」


 そう言いながら軽くお辞儀をする。

 とても綺麗な所作だった。 

 それに穏やかなで信頼を含んだ声だった。


「すべては――あなたの命令通りです」


 命令?

 どういうこと?

 疑問が浮かぶが、オリアスと呼ばれた人は、私の思考を待ってくれない。

 

 突然、老人の姿が揺らぎだした。


 まるで霧がかったように、姿が消えると、白い光が輪郭を描き出す。

 

 ――刹那。

 そこには若い男が立っていた。


 整った顔立ち。

 どこか、お父さんに似ている気がして、胸がざわつく。


「私はセクト。人間の神と呼ばれている者です」


「人間の神……だと!?」


 アナスタシアが一歩前に出る。


「ふざけるな! 神を名乗とは私達を侮辱しているのか!」


「……落ち着け、アナスタシア」


 お父さんの声は低く、強かった。

 セクトと名乗った男は、静かに頷く。


「ふふ、人間の勇者よ。勇ましいのは結構ですが、もう少し礼儀をわきまえなさい」


 そういうと、セクトと名乗った男はパチンと指を鳴らす。

 すると、アナスタシアの膝がガクンと崩れ落ちた。


「なっ……法力が体から抜けていく!?」


 再びセクトはパチンと指を鳴らした。

 

「あ……また力が戻っていく」

 

アナスタシアは驚愕の表情を浮かべる。

 

「これでわかったでしょう? その力は私が与えた物。全ては私が管理しているのです」


 アナスタシアは無言でコクコクと頷いた。

 セクトはこほんと一つ咳払いをすると、再びお父さんと向き合った。


「では話し合いをする前に……」


 セクトはそう言うと、一本の杖を取り出した。

 

「……父上に託されたものを、お返しに来ました」


 古く、簡素で……

 でも――なぜか目を離せない。

 

「これは……?」

「受け取ればわかります」


 お父さんは一瞬眉を顰めるが、躊躇なくそれを受け取った。

 ――瞬間。


 ――びくり、と。


 お父さんの肩が震えた。


「……っ」


 顔色が、目に見えて変わっていく。


「……ベアル? どうした?」


 誰かがそう言った。

 私も、同じ気持ちだった。


 でも――

 お父さんは、何も答えなかった。


 杖を握りしめた手は微かに震え、

 もう片方の手で、顔を押さえていた。

 

 表情は……見えなかった。


「さあ」


 セクトの声が、静かに響く。


「今こそ――」


 嫌な予感がした。


 これ以上聞いてはいけない――



「――セレアとリーリアが、一つになる時です」


 一瞬――

 本当に一瞬、世界が止まった気がした。



 ――――



 意味が、わからなかった。


「……え?」


 思わず、声が漏れる。


 その小さな音に、

 お父さんの肩が、ぴくりと揺れた。


 セクトは、私を見た。


 冷たい視線だった。


「あなたは、セレアを完成させるために――」


「やめろ!!」


 雷のような声。


 お父さんだった。


 顔を伏せ、歯を噛みしめている。


「やめてくれ……」


 今にも消えてしまいそうな声。


 片手で頭を押さえ、苦しそうに、呼吸をしている。


(え……なに……?)


 どうして。


 ──どうして、そんな泣きそうな顔をしているの?


 隣にいたセレアと、目が合った。


 でも、すぐに逸らされる。


 セレアは、何も言わない。

 ただ、俯いていた。


「しかし、父上……」


 セクトの声には、感情がなかった。


「今のままでは、カオスは――」


「……頼む」


 お父さんの声が、重なる。


「……頼むから、その話は……」


 そこで、言葉が途切れた。


 部屋は、静まり返った。


 誰も、何も言わない。

 でも、何かが決定的に壊れた気がした。


(なに……? どういうこと……?)


 頭が、真っ白だった。


 私は、ただ――

 お父さんの顔を見た。


 助けを求めるみたいに。


 でも。


 お父さんは、私を見なかった。


 一度も。


(なんで……?)


 胸が、ぎゅっと締めつけられる。


(なんで私の顔を、一度も見てくれないの?)

 

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