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森の娘と獣たち  作者: OWL
森の娘
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2-48 ヴェッターハーン

「聞きましたよ、アルミニウス。その鎧は中古だったとか。気づかなくて済みません。帝都に着いたら新しい鎧を買いましょう。わたしを守ってもらうのですからお金のことは心配いりません。できれば金属鎧ではなく魔獣の革鎧にしてみませんか?わたしどうしても金属鎧が苦手ですし」


騎士の装備には多額のお金がかかるけどそれを準備するのも主人の義務というし、遠慮せず受けて貰いたい。ただ普通の騎士がどれくらいのお給料なのかわからないからお父様に聞いておこう。

メッセール様と五分の力量というから同じくらいでいいだろうか?


「有難うございます、イルンスール様。情けない話ですがよろしくお願いします。今度は破壊されないよう念入りに魔力を馴染ませたいと思います」


シセルギーテにもどうかと思ったけど、自分の魔力がすっかり馴染んだものがあるみたいだし、そちらの方がいいだろう。騎士の鎧の価値や思い入れがよくわかってなかったけど、ぼろぼろの鎧なんてアルミニウスに恥をかかせてしまっていたようだ。


ギュスターブ様の領地を通る時は皆少し警戒してぴりぴりしていたけど、王都から早馬が来ていてお父様とも知り合いの騎士の方が先導してくれたので問題なく通過できた。

シセルギーテは自分の馬が無いのでわたしの馬車に同乗している。

こちらも帝都で馬を購入しないと騎士としてかっこつかないよね。天馬とかいくらくらいするんだろう・・・。


「シセルギーテ、白の街道に入ってから時々兵士が見えますが、あれはなんでしょう」


10人くらいの兵士達が街道を行進しているのを何度か馬車で見かけてすれ違ったり追い抜いていっている。

第一級街道だけあって道幅が広く白い石畳が敷き詰めてあって、その下は粘土層もあり馬車への振動もほとんどないので速度が上がってきている。

兵士達がたくさんいると争いでもあるのかと不安に駆られてしまう。


「彼らは駐屯地から休暇でヴェッターハーンに向かう者達や街道警備の巡回でしょう。一級街道は帝国の生命線なので巡回部隊も多くなります。彼らはこの周辺の治安を守っているのですよ」

「大陸は広いのでしょう?帝国軍ってそんなにあちこち兵士を置くほどたくさんいるのですか?」

「主要地域だけですので、それほど多くはありません。たしか40から50個軍団くらいですよ。これからいくヴェッターハーンは昔は総督府が置かれていた所なので特に帝国兵士の姿が多いだけですね」


総数30万人くらいらしいけど、多いのか少ないのかよくわからない・・・。


「第三帝国期に、本土の内乱の煽りを受けて軍事費が削減されて総督府から行政区へと変わったので全盛期より大分減ったそうです。しかも兵士達の多くは東方諸国から派遣された者たちで帝国本土の軍人は指揮官など一部です」


自治が許されて自由都市連盟がつくられたのは総督府が廃止された後らしい。元々帝国資本が入っていた事もあり大都市として栄え帝国に資金と海軍を提供しているという。


目的地に近づくにつれて、段々海の匂いが強くなってきた。少し生臭いような港の匂いもする。

気温や季節的にあの港はこの周辺じゃない・・・。今くらいの季節だった筈。

いけない・・・記憶が薄れてきている。将来旅に出たら山だけじゃなくて港も捜すべきだろうか・・・。でもあの時は暗くて特徴的なものは何も見えなかった。はぁ、やっぱり難しいかな。


ヴェッターハーンはギィエッヒンゲンと同じ自由都市連盟といっても大分様相は違った。

近くに山から流れ込む河があったあちらと違って、こちらは水源地から巨大な水道管を何本も引いて新鮮な水を街へ運んでいる。

市壁に囲まれていないのは同じだけれども、街路には南国特有のケテシュという木が連なって植えられている。

これは果実が染料としても使えたので取り寄せた事があったのだけれど、油がよく取れるし食用としても使われているというので採用しなかった。染料として使われ過ぎたら困るし。

日差しが強いせいか、建物も白く塗られていたり、日よけの為の傘が馬車から見える歩道にもたくさん設置されている。ここは大都市なので車両用と歩道を完全に分けている。大都市の需要を満たすのに大量輸送を効率化する為、そうした区分けができたらしい。


到着したホテルはギィエッヒンゲンで昔泊ったところよりも倍の高さがある、正門や取り囲む壁に庭園まである。・・・もうお城よりも立派じゃん。

ホテルの正門を抜けてロータリーに止まり馬車を降りるときはシセルギーテがエスコートしてくれた。わたしの手首が脱臼しやすい癖がついているとレベッカ先生から説明を受けているので引っ張る様にはせず、わたしが差し伸べられた大きな手にちょこんと手を乗せるとやさしく誘導してくれる。

正直ちょっと力任せの人だったりしないかな、とどきどきしていたので意外だ。

だってお父様や他の騎士達と次々手合わせして、打ち負かしたと聞いたから・・・。

でも帝国騎士として教育を受けて、長年スーリヤ様をお守りしてきた方が乱暴者のわけない。


降りた所には大規模な噴水があった。ギィエッヒンゲンにもあったみたいだけど当時はよくわからなかったのでちょっと興味深い。

先に到着していて出迎えてくれたオルプタさまが構造を説明して下さったけど、難しい。

複数ある貯水槽に順番に水を流して高度と空気圧で水が吹き上がってくるらしい。


「研究棟に併設されている菜園にも水路を引いていましたが、水を噴き上げたりはしなかったですからね。ここは人口100万というだけあって税収も豊富で随分贅沢な使い方をしているようです」


この噴水自体も女神の彫像が設置されてとか複雑な彫刻が施されて相当な費用がかかっていそう。


「多いとは聞いていましたけれど、本当に100万人も?エッセネ地方の総人口より多いのですか?」

「はい、帝都はさらにその数倍は多いですよ。さすがにこれほど大きな都市となるともう視界範囲の見た目では大して変わりないようには見えますが」


ふわー、そんなに人が密集したら伝染病が広まったら大変じゃないかな。


「ええ、実際内乱の時代に旧都は水道が破壊されたり死骸が放置されて伝染病がはびこり放棄されて現在の首都ヴェーナに遷都して再設計されました」

「時々聞きますけど内乱の時代って何があったんでしょう」

「ふふ、姫様は勉強熱心でたくさん本をお持ちなのに歴史はあまり興味を持たなかったようですね。帝都のマグナウラ院では少し苦労しますよ」

「わたしに必要だったのはお薬とか生活用品でしたから、お父様のお手伝いをする予定もありませんでしたし歴史知識は必要ありませんでしたからね。時々神話に絡んできたりして断片的に知っているくらいです」

「さて、内乱の時代についてですが、第三帝国期には皇帝の座を巡って皇室の分家達が激しく争い合って本土は荒れに荒れました。本土以外の地方でも副帝が起ったものの統治に失敗し第二帝国期末期に神殿勢力が後退した為、争いを止めるものがいなかったのも長引いた原因です。そんな折に守る対象が居なくなった近衛騎士達が荒廃した旧都を捨てて宮殿の宝物を持って民衆を引き連れて現在の帝都へ移住し代理統治を始めました。荒廃し汚染された旧都は放棄され誰も寄り付かなくなり今では死霊が彷徨っていると聞きます」

「し、死霊?そんなお伽噺みたいなもの本当にいるのですか?」

「わたくしは見た事はありませんが・・・見た者は大勢いるという話です。病原菌を持ち出してはいけないので、今では監視の為、魔術評議会と聖堂騎士団が共同で管理しています。それにしてもわたくしからしてみれば姫様のお力の方がよほどお伽噺めいてますけれどね。死霊共については帝国本土ではあちこちにそういう話が残っていますよ」


・・・そういえば小さい頃レベッカ先生から聞いたことがあったような・・・、うっなんか思い出したくない!


「さて細かい話はまた帝都で致しましょう。こんなところで長話するのよくありません。ご案内しましょう、中でスーリヤ様達がお待ちです」


ホテルの周囲はお城ほどじゃないけれども、城壁のような立派な壁で囲われて正門も玄関の扉の守衛さんもラリサの城兵よりよほど煌びやかな装備で身を飾っている。

高価なものが多いので人口の多い都市では犯罪者の侵入にかなり気を使っているようだ。

使用人達の給料も相当高いんだろうなあ。

ホテルの一階では色んな国の人たちが行き来してて、中には人前を憚らずに抱き合ってる旅行者らしき姿もあった。

案内された部屋ではスーリヤ様の御父母は、二度と会えないと思っていた愛娘に再会できて喜びのあまり興奮して過呼吸になり医師の診断を受けていた。

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