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belief   作者: 杜守 幻鬼
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~第四章~ ぜったい、ゆるさない。 4

 久々の神服に身を包み、リディウスは自分の両頬を叩く。ぱちん、と良い音がした。

 「お、気合い入ってるね」

 楽しそうな声は、言うまでもなくジズ。こちらも、普段着の上に神官が身に付けるローブを羽織っている。

 「はい!とうとう決戦ですものね!しっかりしなくちゃ!!」

 震えそうな自分をさっきから叩いては気合いを入れていた少年は、今度は屈伸をし始めた。落ち着きがないのは仕方ないだろうが、場慣れた男は苦笑を禁じえない。

 「ええと、うん。気合いは大切だけど、もうちょっとリラックスした方が……」

 「何時も緊張感の無さ過ぎるお前が云った所で、説得力はあるまい」

 常と変わらず冷静な声は、勿論シン。だが瞳は常以上に剣呑な光を湛えている。

 「安心しろ、リディウス。お前はこやつと行動を共にすることになっている。余程のことが無い限り、大丈夫だ。落ち着いていけ」

 冷静に、客観的にジズの力量を認めている故の発言だが、云われた方はまたしても感涙ものである。

 「シンってば……!!もう!俺のことそんなに好きなら好きと云ってくれれば俺はいつでも……」

 「誰が好きとか嫌いとかいう話をした?」

 「違うの?いや、いいんだ、分かってるからね、ふふ。照れ屋さんなんだからなあ~そんなトコもまた可愛いんだけど!あ、今回一緒に動く時間は少ないけどごめんね?いやあ、もっと早く君の気持ちを確認できてたら無理を言ってでももうちょっと計画を変えてもらったんだけどなあ。いやしかし……そっかあ。ふふふ」

 「……」

 心の底から呆れている子どもたちは目に入らず、ジズはうきうきと舌を踊らせつづけていた。

 和やかに三人の時間は流れているが、しかし、今日、彼らは命を賭ける。復讐のために。無実の証明のために。暇つぶしのために。


 ある南の小さな村の外れに、「真の法王」が幽閉されている館がある。キリヤ一行に連れられて、シンたちは今、そこに程近い山小屋に潜伏している。館は法王の私設軍というべき近衛兵たちが警備をしているのだが、人数はそれほどまでには多くない。その代わり、精鋭揃い。統率の取れた動きをし、油断はない。キリヤたちではどうにもできなかったのも頷ける。

 その館へ、定期的に「法王」がこっそり通っている。どういう意図かは知らないが、双子の兄へ逢いに来ているらしいのだ。キリヤたちは、なるべく警備の少ないその「法王」の訪問日以外を狙いたかったのだが、シンの目的はその「法王」である。片を付けるなら一気に、ということで、強行策をとることになった。

 そして今日はその訪問日。これを逃すと、また暫くお預けになってしまう。あまり気の長くない娘が、これ以上じっとしていられるとは思えない。

 「そろそろ出発だ」

 老人の一人が、彼女たちを呼びに来た。リディウスは緊張気味の面持ちで、頷く。シンも頷いて部屋を出ようとしたが、その腕をジズが掴んだ。

 「リディ、先に行っといて。ちょっとシンとお話があるから」

 「え?あ、はい。じゃあ、お先に……」

 少年が老人に付いて部屋を出るのを確認し、ジズは訝しげに彼を見ている娘に向き合った。

 「ちょっと、いい?」

 「ああ」

 男はにっこりと微笑んで、手を離した。が、今度は両手でシンの肩を軽く掴む。

 「あのね……」

 そして目を瞑って、少し低い位置にある娘の額に、こち、と自分の額をぶつけた。装飾品が当たって痛かったが、そこは我慢する。

 「……」

 鈍感な彼女は、自分が今、一般的にみてどういう状況になっているのかは解らない。ただ「近い」と思うくらいで、不平も言わずじっとしている。

 男は少しの間を置いて、喋り始めた。

 「俺、ね。ちょっとだけ、不謹慎なコト、考えちゃった。今日さ、この計画、失敗しちゃえばさ、俺、もうちょっと、一緒に居られるのになあ、って」

 先程とは違うたどたどしさ。それに気付きもせず、娘は眉根をひそめた。

 「……確かに不謹慎だな」

 この計画が失敗すれば、リディウスやキリヤたち、多くの人間の命や人生が無駄に費やされることになる。

 「うん。だから、ちょっとだけ」

 「それに」

 娘は何時ものように、思っていることをそのまま口にする。

 「総て終ってからの予定はないからな。それからも一緒に居たいのならば、気にせんぞ。居ればいい」

 「……」

 ジズはゆっくりと額を離して、微笑った。何故だか泣きそうな顔だった。

 「うん、ありがと」

 「うむ。では行くか」

 「うん」

 娘の背中を見ながら、男は笑顔のまま、独り心の中で呟く。

 自分じゃ、気付いてないんだろうね、君は。君ね、意外と、俺のこと嫌いじゃないんだよ?

 少し俯き、男は意味をなさなくなった笑顔で考える。

 ……だから、今日、全部終っちゃえば……それも、ツラくなくていいかな、って思うんだ。これ以上、一緒に居なくても……済むから……

 ドアの外には、老人たちとリディウスが、覚悟を秘めた顔をして並んでいた。

 「行くぞ」

 娘が、堂々と宣言し、

 「はい!」

 少年が大きく返事をする。

 「さぁて、やろっか!」

 そして男は、楽しそうに。楽しそうに見えるように。笑った。


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