↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
21/21

第二十一話 宝物庫へ2

 糸を離れて、角を一つ曲がる。


 突き当たりに、扉があった。

 壁より、扉のほうが目立つ。


 縁には彫り込み。

 取っ手にも装飾。

 この通路で、そこだけ妙に仕事が細かい。


 ライアが左右を見る。


 上も見た。


「糸はないな」


「ないですね」


 リナはしゃがみ、床の継ぎ目を指でなぞった。


 そのまま壁際まで目を走らせる。


「床も、普通みたいです」


「壁も普通だ。ここまでの道も、まっすぐだった」


 その通り。

 怪しいのは扉だけだ。


 よし。


 偽物に手間をかけるなら、一か所でいい。


 一つ目は糸。

 二つ目は扉。


 目を止める場所を変えておけば、同じ仕掛けには見えない。

 同じ手を三度も使うほど俺は単純ではない。


 リナが扉を見上げた。


「ここ、扉だけですね」


 ――ん?


 扉だけ。

 いや、扉は一枚で足りる。

 何もおかしくない。


「開けます――」


「やめておけ」


 ライアが止めた。


「ですよね」


 リナは素直に手を下ろした。


 二人は扉を残して歩き出す。


 ディアドラも、そのあとについた。


    ◇


 三つ目は、道だった。


 まっすぐ進めない。


 右へ折れ、左へ折れ、また折れる。


 気づけば、さっき進んだ方向へ戻るように曲がっている。


 壁は普通。床も普通。

 糸もない。扉もない。

 面倒なのは、道だけだ。


 これならいい。


 今度こそ違う。


 リナは、ほとんど立ち止まらなかった。


「これもですね……」


 ライアが止まった。


 左手の指を一本折る。


「一つ目は蜘蛛糸」


 二本目。


「二つ目は扉」


 三本目。


「三つ目は経路」


 右手はまだ震えている。


 それでも、考えるほうには問題ないらしい。


「どれも、守り方としては正しい」


 当然だ。

 俺が作った。


「糸は足を止める。扉は通さない。道は、着く前に疲れさせる」


 よく分かってるじゃないか。


 ライアは折った三本の指を見た。


「だが……どれも一つずつだ」


 ――ん?


「一つしかない場所なら、そこさえ越えれば通れる」


 ライアの目が、通路の先へ向いた。


「全部ある場所が、一番攻めにくい」


 待て。


 リナがライアを見る。

 次に、来た道を見る。


「じゃあ、それが本物じゃないですか?」


 待て。


 俺はそこで、ようやく気づいた。

 一つ目で糸を教えた。

 二つ目で扉を教えた。

 三つ目で面倒な経路を教えた。


 全部、俺が教えた。


 偽物を三つ用意して本物の守り方を説明している。

 息が止まった。

 いや、最初からしていない。


 リナはもう歩き出していた。


「探しましょう」


「糸があって、扉があって、行くのが面倒なところを」


「面倒なところ、で覚えるのか」


「一番分かりやすいので」


 分かりやすくした覚えはない。

 ないのだが。


 ライアが続く。

 ディアドラも、そのあとについた。


 足音が、三つ。


 俺が用意した偽物を手掛かりに三人は本物を探しに行った。


    ◇


 ライアが足を止めた。


「宝物庫を探すなら、糸は見れば分かる。扉も見れば分かる。だが道は分からん」


 リナが振り返る。


「道は、歩いた者の気分で変わるからな」


 分かる。


「だから剣士には、剣士の測り方がある」


 分からなくなった。

 何を言ってるんだ、こいつは。


 ライアの右手が腰の剣へ伸び、触れる前に止まる。

 まだ自分では振れない。


「リナ。剣を胸の前で構えろ」


「こうですか?」


「壁に当てるな。構えも崩すな。そのまま歩け」


 最初の角は右だった。


 リナが入って、


 止まった。


「……曲がれません」


 切っ先が正面の石壁すれすれにある。


 剣を下ろせば通れる。

 身体だけなら何の問題もない。


「厳重だな」


 待て。

 そこを厳重と呼ばれるのは困る。

 俺は角を作っただけだ。


「入りますか?」


「入らん。剣が使えん道へ、剣士のほうから入る理由がない。回るぞ」


 次の左角でも止まった。


「またです」


「かなり警戒しているらしい」


 してない。

 二回曲げただけだ。

 三つ目の角は通れた。


「ここだ」


 何がだ。

 そのまま進むと、白い蜘蛛糸が道を塞いでいた。


 一つ目だ。

 戻ってきた。


 いいぞ。

 俺の道が戻した。


「……あれ?」


 リナが来た道を振り返った。


「ライアさん。さっきの道って、通れなかったんじゃないですよね」


「剣が使えなかった」


「剣を壁に当てない。構えを崩さない。そう決めたの、私たちですよね」


 ライアが黙る。

 俺も黙る。


「つまり、私たちが勝手に通れなくしてただけでは?」


 そうだ。

 俺の道は何もしていない。

 さっき少し誇らしかったぶん、腹が立つ。


 リナが剣を差し出した。


「どうぞ」


「持っていろ」


「はい」


「……測り方は、間違っていない」


 そこは譲らないらしい。

 たしかに、剣を構えたまま戦える道かどうかは分かった。

 その代わり、自分たちで行き止まりを二つ増やした。


 リナは剣を下げて戻った。


 最初の角を曲がる。

 普通に曲がれた。

 二つ目も普通に曲がれた。


 ライアは何も言わなかった。


 その先に、また白い糸があった。

 今度は厚い。

 天井から床まで何層にも重なり、その向こうに石の扉が透けている。


 道は三度折れ、厚い蜘蛛糸があり、その奥に石の扉。


 宝物庫の候補としては揃っていた。


 だが。

 扉の前には何も置いていないはずだった。


 なのに、床が見えない。


 誰かがいる。


 そいつは扉ではなく、三人のほうを向いていた。


 リナが止まる。

 ライアの右手が剣へ伸びかけて止まった。

 ディアドラも後ろで足を止めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。