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通常攻撃が全知系解析チート五感で、秘奥技は万能系願望顕現魔法な空飛ぶスマホ使いですが、目が覚めたら変身魔法ド素人な攻撃魔法特化型幼女の「中の人」でした。しかも現れた先生が中二。どうしてこうなったし!?  作者: 勇者774(シーニャローグ) 
【異世界トリップ篇】第一楽章 カエルの顕想曲「身代わり蛙があらわれた!」

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爆弾がどうなったかというと。――Be corrected――

 ――昴が南のお空の星だから、この子の名前は⋯⋯。


 北のお空にある北極星を、ちょっと可愛くして⋯⋯ポーリャなんていいんじゃないかなあ!?


 ノースポールやポラリスじゃあ、かっちりしすぎてるもん。


 ほら。


 本体だってまあるくて、ピカピカしてるし、ぜえったいそれがいいと思うんだ!


 いやじゃなきゃあそうしちゃいなよ。どう?



 ⋯⋯⋯⋯。


 今にして思えば、会えない母を恋しがっていたのだろう。


 ぬいぐるみ一つ一つに名前をつけるのがブームだった、幼き日の少女が勝手につけた、EAPには本来要るはずのない、“個体識別のための呼称”。


 ポーリャ――いいや、ポーリャ・“ツェツァ”・スヴェトラーナ。


 彼女のそのときどきの“好きなもの ”を反映し、幾度か改まった末の「一番最後の名前」。


 そんなものを、まさか自分が名乗る羽目になるとは思わなかった。


 もっと言えば、最初にただのポーリャの名前を決め込んだ、あの頃の小鳥や俺とそう変わらないような姿になっているなんて、夢にも思うわけはない。わけはないのだけど⋯⋯。


 全部、現実(ホントのコト)なんだよな。


 手にしたカップの内側。

 そこにある小さな水面から顔を上げた俺が、ちらりと視線を流した先。


 部屋の隅で沈黙したままの中型ディスプレイ――今ではちょっとした骨董品になってしまった、テレビという情報家電――の黒い画面に映り込んだ部屋の景色には、幼い女の子にしかみえない俺と、先生や母さんと同年代のおばちゃんからなる二人組が座卓を挟んで向かい合っていた。


 冬になれば掘り炬燵になるに違いないその席にちょこんと腰を下ろした俺は、目の前に掛けた女性が俺の見た目に合わせてわざと(ぬる)くしてくれた、おいしいとは言い難い日本茶をすする。


 こんなことなら、朝ごはん、ちゃんと食っとけばよかった。


 空腹は頭を冴えさせるからと強がった、半日前の俺が、視線さえ向けなかった、アールグレイの香りを思い出す。


 お茶の類に一家言を持つ小鳥が淹れてくれた、ベルガモットの香りの、そのフレーバーティーは、きっと少しだけ苦くて、確実においしかったに違いなかったのに、勿体(もったい)ないことをしたなあと、今更になって思ってしまった俺は、


 (ちげ)えよ、さっさと仕事を終わらせて、お茶を飲みに行くための支度を始めるんだろ、と思い直す。



 そんなふうに、先のことを考えられるくらいには俺の気持ちが落ち着いたことを「読み」とったのだろう。


 今度はちろちろと部屋の外の様子に耳をそばだて始めている、女の子の姿形をした俺に向かって、


「上に行って様子を見てきてもいいわよ」


 と、出水(いずみ)知恵(ちえ)さんと先ほど名乗ったばかりのソバカスと泣きボクロが特徴的なおばちゃん――生まれて初めて出会った俺の大師匠様は、声をかけてくれたのだった。


           ◇


挿絵(By みてみん)


           ◇


 体感にしてわずか四秒ほど。電池切れになったEAP(スマホ)を無理やり稼働させていた頭から、締め付けるような切羽詰まった感覚が突然消えた。


 それに気がついたころには、俺は、イグサの匂いのする真新しい畳の上に頰を擦り付ける姿勢のまま倒れ伏していた。


 ぐっと右手に力を込めて、顔を上げ、首をもたげる。左膝に置いたもう片方の拳を、テコの支点がわりにして腰から上の体を起こした俺は、とりあえず、意識が明瞭であることに安堵した。


 どうやら、最後に縋るしかなかった「(あらは)し」――宮代家の血に宿るもう一つの魔法――は、初めてにしては上手くいったようである。


 全然痛くもかゆくも(・・・・・・・・・)ないこの体(・・・・・)が、その証左。


 暴走状態にあった爆弾を、EAPの機能をアテにした総当たりの「読み」で、安全に解体できる状態まで復帰させようとして、見事に失敗した俺は――



 そう言えば、あの爆弾はどうなった!?



 爆発したら、俺と俺の大切な人たちごとレセプション会場のホテルを消し飛ばしていたに違いない、危険物が手もとにないことに気が付いた俺は、弾かれたように立ち上がった。


 魔法を起動させるために差し出した“強い願い”の中身が、うわっと音を立ててどこかに飛び去るのと同時に、胸いっぱいに広がる焦燥感。


 ひどく苦いその想いに突き動かされて、あてどもなく部屋を見渡した俺は、先生や母さん、小鳥を始めとした宮代家の皆がどうなったかを確かめる術があったとしても、もう手遅れに違いないぞ、と頭の中の冷えた部分が告げて来る事実を、なにがなんでも無視することに决めた。


 俺が失敗した現場の惨状を、この目で直接確かめるまでは希望はあるはずと、根拠もない気持ちだけを頼りに、現状把握を焦る俺の目が、この部屋と外とを隔てる窓ガラスに()まった。

 

 とにかく、外だ。

 ここがどこなのか確かめないことには、何も始まらない。早く外に――


 反射的に湧き上がった急き立てるような思惑が命じるままに、外の様子を伺おうとする、対面側の開口部からの西日の熱を背に受けた俺の姿が、目の前の窓ガラスに映り込んでいる。


 何の()なしにその姿を見た俺は、


 

 妙だな。



 一度だけ目を(しばたた)かせた。


 思惑が、当惑を経て困惑に変わる。


 窓ガラスの中の半透明な俺の鏡像――なんとも結わえにくそうな、夕焼け色のふわふわな長い髪を背中に下ろした、小学生にもなっていなさそうな西洋人の、少しだけ痩せぎすの女の子――が、おんなじように返してきた瞬きに、俺は高い(・・)声で出来た悲鳴をあげながら、目の前のガラスに勢いよく両手をついたのだった。


 俺が、女の子になってる⋯⋯!!?


      ◇

 

 そうだった。俺の叫び声を聞きつけて、すぐさま部屋に入ってきた知恵さんに、この子、レベッカ・ルキーニシュナ・ペトロワなのかって尋ねられて、とっさにEAP(コイツ)の名前を名乗り返したんだっけ。


 「顕し」のせいでこうなってしまった身には、どうしたって「宮代昴」の名前は不釣り合いだったからなんだけど、結局すぐに洗いざらい二人に話しちゃったからあんまり意味なかったよな。



 だっせえよなぁ、俺。踏み板に足を掛けながら、ほとんど自嘲気味にため息をついた。だって――


      


『だからさ! 本当なんだってば!』


 苛立った俺が、ほとんどキンキン声で叫んでいるというのに、知恵さんと一緒に部屋に飛び込んできた茶髪茶眼のその少年――俺が見間違えるわけない、どう見ても若い頃の笙真先生(しょうまししょー)――は、俺から押し付けられた銀色(ぎん)のスマホを手に、ぽかんとしていた。


 俺はますます()(たま)れない気分になって、先生の襟元に、情けないくらい小さな右手を掛ける。


 そうやって、触れた瞬間。睨みつける俺の涙目と指先越しに、ようやく俺の真意を「読んで」くれたんだろう。


 目を(しばたた)かせていた先生が、俺の知らない困り果てたような顔で、視線を逸らせたんだ。




 爆弾に関する一部始終を伝えるために、ひどいなんてもんじゃない取り乱し方を見せた、さっきまでの自分の(ザマ)を思い出して、俺、宮代昴は、夕日が差し込んだ階段を上がる足は止めないまま、少しだけ熱を帯びた頰を(はた)く。


 大丈夫。忘れてない。俺は俺が誰だかちゃんとわかってる。


 十七歳、高校二年生。「明かし」と呼ばれる、宮代家の魔法使いで、今を時めく大魔法使い「宮代笙真(しょうま)」の一番弟子。


 そんでもって、今夜のレセプションの中で行われる、成人を控えた弟子たちの披露(デビュタント)で明かされることになっていた、幼馴染のドレス姿が、本当は楽しみで楽しみで仕方がなかった――おっと、今から会う相手には、これは内緒にしとかなきゃな。


 誰にも告げたことのない気持ちを、よもやこんなタイミングで「読まれる」なんてこと、男が廃るにもほどがあるってもんだ。


 トントントンとリズミカルに響く軽い足音をあげて階段を登りつつ、男女同権を政府がしつこく喧伝する昨今にしては、(はなは)だ時勢遅れに違いない言い回しを頭の中で思い浮かべた俺は、すぐに辿り着いた目的のドアの前で、今度は足を止めた。


 心の中の一番守りが堅い場所、「読み」の魔法でもやすやすとは覗くことができない、究極のプライベートゾーンである「祠」にしっかりと鍵を掛けると、小さく息を吸って、目の前のドアノブを掴む。


 「読み」が扱える五感の中で、得手とする者が宮代家にはほとんどいない「触感(フレ)」を珍しく最得意にしている、「カエルの手のひら」である俺は、いつもの癖でドアノブの先にいる相手の存在を「読もう」として、再びおっと、と思いなおす。

 

 違った。今の俺は「読み」が使えない身体だったんだった。


 改めて手首をひねると、鍵の掛かっていないドアは、素直に開いた。


 ドアの向こうから、ノックぐらいしろよなと、声変わり前のボーイソプラノの声が飛んでくる。


 その声の主に、ごめんと軽く謝って、俺は部屋に足を踏み入れる。


 先生と母さんの生まれ育った場所である、甲府盆地を南側から見下ろす出窓を背にして、ベッドに腰掛ける、私服姿の中学生くらいの少年――俺の先生になるよりも、ずっと昔の宮代笙真がそこにはいた。


 その手には、電池が切れてしまっていたはずの俺のEAPが握られている。


「顛末はわかったよ。スマホ、ちょっとだけだけど、充電しておいたし、ロックも解除済みだからね」


 少しだけ沈み込んだ、ぞんざいな口調で告げると、彼は、流線型の銀色の筐体を、俺に向けて投げて寄越してきた。


「無事に帰って、落ち着いてからでいいから、そのスマホのアンロック方法をキープしてくれていた、未来のボクにきちんとお礼を言ってよね。絶対に忘れないで待ってるから。じゃなきゃ、ホントに破門にするよ?」


 斜め上の方から降ってくる、一転してからかうような口調になった彼に頷きながら、俺は両手でキャッチしたばかりのスマートフォン――市場投入前の超最新モデルであるEAP、正式名称「Enchanter Assistance Processor」の画面を覗き込む。



 "Be corrected.”



 笙真先生の魔力で稼働していたさっきとは違う、くっきりとした白いバックライトに照らされたその画面には、爆弾の状態が正常に戻ったことを意味する、簡潔で短い英文によって締めくくられた、ログが映し出されていた。

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