魔法使いだけど、気付いたら俺が「幼女」でした。
――聞こえますか? 先生。
こちら昴。
解体作業は順調です。
ほじょたんを三つ、串刺しでオシャカにされちまったけど、雨降り出したから、お客様はそろそろ帰りそうだし、なんとかなり――
あ、やべ! コレ、狐の嫁入りじゃん。
訂正訂正! たった今ほじょたん全部持ってかれちゃった。
すみません。
そんなわけで残りはスマホしかないけど多分、大丈夫!
もう! 子供扱いしないでくださいよ。
175分もあるんだ。全然問題ないってば!
いざとなったら、自力で『読んで』バラしてもいいしね!
え、心配? 大丈夫だよ。マジでホントに!
⋯⋯そりゃあ、身支度に予定より少しかかるかもしんないけどさ! 遅れたりはしないと思うよ、流石にね。
だって、まだ二十時からのレセプションの開始まで六時間近くあるし⋯⋯
え? 約束?
やだなあ! そんなのもちろん分かってるってば!
勘当はともかくこんなタイミングで破門なんて絶対に嫌だからね、死んだって使わないよ。
それよかさ、今日ばかりは俺もちゃんとドレスコード守るから、アイツには『あとで会場でな』って伝えといてくんない?
頼むよ。いいでしょ?
ありがとう! さっすが先生。
じゃあ、両手開けなきゃ作業に支障が出るし、スマホはスピーカーにしとっけどさ、爆弾の解体が終わったら、すぐにそっちに降りるね!
だから、会場内のことはお願いします。
⋯⋯――ぅうう。頭、痛ってぇ⋯⋯!
けど、ぎりぎりどうにかなったみたい。
軋みを上げるこめかみに、内側から叩き起こされた俺は、
痛む部分が他にはないことに、安堵しいしい身を起こしかけ、
って、え――!?
手のひらに感じた強烈な違和感に、目を見開いた。
途端、ぶり返してきた刺すような痛みに思わず顔を顰める。
いや、顰めたのは頭痛のせいだけじゃない。
おいおい、なんつうか、まるであいつの髪に触れた時みたいじゃなかったか、今!?
ギョッとしたあまり、引っ剥がす勢いで離してしまった右手と、起き上がりかけの体を支えている左手。
腰回りに軽く力を込めて、上半身をしっかりと支え直した俺は、自由になった両手でもって今度はこわごわと頭髪に指を這わせ、絡ませてみる。
おかしい。
俺の髪がこんなに柔らけーワケない。
大体、ここ、どこなんだよ?
見たトコ、和室みてーだけど。
会場にこんな部屋、あったっけかな⋯⋯?
それに⋯⋯あれ? そもそも俺、どうやってここに?
変だな。思い出せねえや。
いよいよ奇っ怪。
上目遣いになりながら。痛くない方の頭の隅で思い浮かべた俺は、何かヒントが見つかりやしないかと、部屋の中をぐるりと見回した。
まず右手側。
床の間があり、鞘におさまったままの太刀と脇差が飾ってある。
奥側と手前には、手作り感あふれる掛け軸に、金彩の施された壺が赤と白、一コずつ。まあ、普通の床の間だな。
反対はっと⋯⋯。首を巡らせて見上げれば、モノクロの写真が額縁に入れられ、長押に三人分。
写っているのは男二人に、女性が一名。
日本海軍の軍服に、袴姿に、留袖姿。服装からして戦前か戦中に撮影されたもの、かな? これも普通っと。
二間続きの襖は開け放たれていて、その向こうに置かれた座卓の天板には、和室には似つかわしくない、宇宙飛行士のヘルメットみたいなデザインをしたペット用キャリーが二つ並んでいる。
サイズはどう見たって、小型犬用。猫か犬でもいるっぽいな。それにしても、個性的なデザイン。変じゃないけど、ちょっとだけ悪趣味かも。
まだ日が高い時間らしく、入ってくる自然光だけで室内は十分明るい。
だから照明は灯いていなくて――、って。
うん?
⋯⋯なんか天井高くないか?
俺が、座ってるせい?
それにしても、どこか違和感ある気がするけど。
ま。いいや。立てばわかる。
俺は、立ち上がりながら再び辺りを見渡した。
ふうむ、レセプション会場のホテルの和室にしちゃあ、生活感ありすぎ。一般家庭の日本間ってところだな、こりゃ。
天井は――⋯⋯。
うん。やっぱ不自然に高い。
俺は思った。
三メートルじゃ利かなくね?
見たトコ、天井高以外はただの二間続きなのに、なんでこんな作りにしたんだろう。
これじゃあ照明入れるのだって不便じゃねーか。
実際、百七十五の背丈の俺でも、紐に手が届きそうにないしさ。絶対変じゃん。
他に妙なところは――?
さらに確かめようと、窓ガラスの向こう、庭先へと目を向けた俺は、映り込んでいる姿に、思いがけず、
「どぅワきゃあッ!?」
叫んでいた。
そう。
俺の喉から出せるワケのない、それこそ小学生になるかならないかくらいの――
幼い女の子そのもの、な声で。
はじめまして、或いは二度目まして!
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