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第18話 愛狼ルプス

「はぁっ!はぁっ!クソ…あのガキ!ぜってぇ赦さねぇ…!」


ローダムの街の中。

そこにはネームレスの長が息を切らして、潜伏していた。

怒りの矛先は無論、マガツ。

金銀財宝が眠っているはずの剣聖の墓地が見るも無残な姿となり、何もなくなったと同時に魔術監査警備局と手を組んでいて捕まりかけたこと。


「クソ…クソクソ!!」


仲間を見捨て逃げてきたせいで現状、長には何も残っていない。

残っていてもほんのちょっぴりの金と体力だけだ。


(…盗むしかない。いや、いっその事通りかかった奴を人質にすれば…!)


と行動力の化身かの如く、思考を巡らせて路地裏に隠れ、忍ばせておいたナイフを取り出す。

そして、丁度目の前を通った老婆。

それを目掛けて走り出し、ナイフを突きつけて叫ぶ!


「おい、お前ら動くな!」

「ひ、ひぃぃっ…!」

「誰でもいい、金目のものを寄こせ…さもないとこの老婆の命が危ないぜぇ!」


何たる外道か。

もうなりふり構わず老婆を人質に取り、金目のものを要求し始めた。

勿論、騒ぎを聞きつけローダムの街を守っていた魔術監査警備局が駆け付けるが、変に刺激すると人質として囚われている老婆の命が危うい。


「へ、へへっ!どうした、早く寄こせよ!」


長は自分が優位に立てたと感じ、少し調子に乗り始めた。

その『少し』が一瞬の気のゆるみを生じさせる。

一瞬、老婆を拘束する手の力が緩み…!


「やれ!」

『ウォウッ!!』

「がはっ!!?」


長の後頭部に強烈な衝撃が走り、吹き飛んでいく。


「わっ…!」


急な出来事に腰を抜かした老婆はその場で転びそうになるが、それを受け止める巨大な何か。

そして、老婆とその周囲にいた人たちが見た光景。


『グルルルル…!』

「年寄りを狙うなんてな、アイツは相当性根が腐ってるんだな…!」


緑色の魔狼とその背にまたがる聖剣を手にしている青年マガツ。

魔狼とマガツは外道な行いをしたネームレスの長を睨みつける。

同時に、受け止められた老婆は巨大な狼にまたがり、聖剣を携えている姿を見てふと呟く。


「剣聖…様?」


魔狼に剣士。

出で立ちはもはや『剣聖』そのものだった。


「大丈夫ですか!?」

「え、えぇ…」


老婆は急な投げかけに驚きながらも返事をする。


「またか…またお前か…!」

「あぁそうだよ!」


マガツは怒り狂っていた。

ネームレスに対しては様々な罪状があるが、マガツにとっては書ききれないほどの罪状という名の怨嗟が詰まっている。


「くっ!」


戦えないと踏んだのかネームレスの長はまた逃げ始める。


「逃がすか…!追うぞ、愛狼『ルプス』!」

『ワオォォォォンッ!!』


見逃さないマガツは自身の愛狼に名を付けた。

愛狼『ルプス』。

名の通り『狼』を意味する。最初、マガツはシルバ同様フラッシュという名を付けようとしたが『フラッシュ』という名前は『剣聖シルバ』の愛狼の名前だ。

マガツのではない。

同時に、乗っている間に浮かんだ『ルプス』という名前があまりにもしっくりきすぎて、そのまま『ルプス』という名前が付けられた。

そうして、長とマガツの追いかけっこが始まった。

最も、追いかけっことはなっているが…


「ふん!」

「くっ!?」

『ワォォン!』

「クソ…二対一かよ!卑怯者が!」

「墓を暴いた小心者には言われたくないねぇ!!」


実際はタッチという名の攻撃を与えている。

怒りのままに聖剣を振り回し、殺そうとするマガツと主の怒りを感じ取ったルプスの牙が長に襲い掛かる。


「くっ!?」

「オォォラッ!!」


体勢が崩れたところを見逃さず、ルプスから飛び降りて長の横っ腹を蹴り飛ばす。

地面をゴロゴロと転がっていく長。

しかし、偶然にもマガツが蹴り飛ばした方向が…レギオンの方だった。


「えぇっ!?人が転がってきましたけど!?」

「ぐぅ…うぅっ!」


受付をしていたギルドの人たちの前を長が転がり、地面に倒れた。


「…やっとまともな一撃が入ったぜ」

「ま、マガツ君!?」


巨大な狼に乗ってきたマガツをみて驚く、受付の人たち。


「え、えっと…マガツ君、依頼は?」

「現在進行形で対応中です…!」

「え!?で、でもあと5分しか残ってないですが…!」

「…わかりました、5分で終わらせます」


マガツは裁定剣と聖剣を構え、聖剣の剣先を向ける。


「さぁ…ネームレス。ここがお前の最期だ。シルバから受け継いだ聖剣で鎮めてやる」

「はっ…ガキが!調子づくなぁぁぁ!!」


子供に喧嘩を売られ、挙句の果てには追い詰められたことに激怒しネームレスの長は何も考えずにナイフを取り出してマガツに襲い掛かる。

しかし、ネームレスの長は相対している子供がどれほどの実力者なのかを考えていない。

振り下ろしたナイフをマガツは裁定剣で弾き、魔力を纏わせた聖剣で一閃。


「ぐっ!?」


ギリギリ反応した長は間一髪回避するが


『ウォウッ!!』


その隙をルプスが刈り取る。

横っ腹に大きな一撃。


「ぐっ…おぉぉっ…!!」


かなり重い一撃が入ったのか、長は横っ腹を抑えながら必死に回復の魔術を唱えようとするが、そんな隙を見逃すほどマガツとルプスは甘くない。


「フーズ」

「うぅっ!?」


マガツは風の最下位魔術フーズを唱え、長の体勢を無理やり崩させ詠唱を止めさせると同時に


「フレイ、ザバ」

「ぬうっ!?」


炎と水の最下位魔術で追い打ちを仕掛ける。

マガツは一方的な戦闘が多いが、彼の現在の戦闘の動機は怒り。

老婆に刃を向け、あまつさえ墓すら暴いた極悪人。


(許すわけないだろ…!)


怒りのままに魔術を放ち、怒りのままに刃を振るう。

だが怒りに飲まれず、怒りを御す。


「クソが…!こんなガキの何処にそんな力が…!?」

「さぁな、老婆にすら手を上げる外道には一生分からない問題だな」

「テメェ…!!」


マガツは裁定剣を上に振り上げ、とどめの一振りを振り下ろそうとする。


「お前なんか…お前なんか…!」


ネームレスの長は命乞いではなく、何かできないかと考えている事を全て口から漏らす。


「俺のバックについている」


そして何の気なしに口から漏らす、その単語。


「『セラフィム家』に報告すれば…お前なんか!」


言ってしまった。


「 は ? 」


魔剣を使い、魔術を使うレギオンの生徒にしてマルバスの義理の子供。

その中身は…復讐心で身をたぎらせる復讐者。

そんな復讐者の特大の地雷を、ネームレスの長は踏み抜いた。

否、踏み抜いてしまった。


「へ?」


その瞬間、目の前の青年から発せられる真っ黒な圧力。

理由も訳も分からない重圧が…一気に放出され、ネームレスの長に襲い掛かる。


「お前 今 何て言った ?」

「!!!!???」


その言葉一つ一つに謎の恐怖を感じてしまう。

身体は硬直し、いう事を聞かない。

逃げたくても逃げれない、しくじれば殺される。

この青年は何者なのだと様々な疑問が頭の中を交差するが答えは得られない。

得られるはずもない。

頭がこの青年を理解することを拒んでいる。

もはや青年かどうかすらも疑い始めた。


「がはっ!?」

「答えろ 今 何て言った ?」


恐怖に蝕まれながら、長はマガツに首を掴まれ持ち上げられる。

恐怖で呼吸が出来ず、物理的にも息を止められ、ただひたすらに彼の手の中で暴れる事しか出来ない。


「黙るな 答えろ 何て 言った?」

「ひ、ひぃぃっ!!!?」


圧力の影響か、恐怖の影響か。

ネームレスの目に映るマガツの見た目が少しずつ歪んでいく。

それは人の形ではなく、魔物の形。

それは怪物の形ではなく、人間の形。

脳が理解を拒む。

これを理解できない、理解したくもない。

理解すれば終わりだと、理解できない物だと頭が認識してしまい…どうしようもない。


――ブォォォォォォンッ!!


一瞬の風を切る音が鳴る。

ネームレスの長は切り替わった景色についていけず、一瞬の出来事で脳が混乱したが…すぐさま生じた背面からの衝撃で理解した。

投げ飛ばされたのだ、ただの青年の腕で。

そのはずなのに物凄い勢いで壁をぶち破り、何処かへと飛んでいく。

そんな状況でも、ネームレスの長は少しほっとしていた。

どんな状況であれ、あの『怪物』から距離を取れたことに。


―――


場所は変わり、レギオン大講堂。

既に殆どの1年生が集合し、各々の頑張りを褒めたり、聞いたりしていた。


「マガツ君…遅いな」

「そうね、あと3分で試験が終わるわ」

「どうしたんだろう…」


1年2組でマガツの仲の良い面々は未だに帰ってこないマガツの事を心配し始める。

同時に


「まだマガツが帰ってきていないそうです」

「そうか…」

「何かあったんでしょうか~」

「…アイツに限ってそんなことがあるのか」

「強敵と戦っているのか?」

「流石にそこまでは分かりません」


生徒会の面々のスカウト中のマガツの事を気にかけていた。

あのマガツに限ってこんなことがあり得るのかと疑問に思うのは仕方のないこと。

しかし、時計の針は刻々と試験の終了の時間へと進んでいく。


「マガツ…!」


マルバスがマガツの事を気にかけた

次の瞬間


――ドォォォォォン!!


「なっ!?」


大講堂の扉が根元から粉砕され、何かが飛んでくる。


「バリア!教師陣は生徒を保護しろ!」


すぐさまバリアを展開し、各教師に指示を出すマルバス。


「はっ!?はぁぁっ!?」

「…何者だアイツ」


砂埃が晴れていき、飛んできたものを見るマルバス。

そこに居たのは蹲り、顔を真っ青に染めて涙か汗なのかわからないほどに顔をびしゃびしゃに染めた男がいた。

勿論、学園の生徒でもなければ関係者でもない。

マルバスが魔術の刃を向けようとしたが


――ゾォォォォッ!!


「!!」


あのマルバスですら背筋が凍えるほどの真っ黒な圧力。

得体のしれない何かの影響でコイツが飛んできたのだと理解する。


「教師陣…構えろ、生徒を守れ」


何とか教師陣に喝を入れて歩いてくる『何か』に対して最大限警戒し、生徒たちを守れと命ずる。

マルバスの指示と判断は的を得ている。同時に生徒を考えている良い判断だった。

しかし、問題が一つだけあった。

それは


「―――。」

「…マ、ガツ?」


その圧力を発している自分の息子のような者であるマガツであるという事に。


誤字脱字、語彙力がほぼ皆無に等しいのでミス等がありましたらご報告お願いします


感想も待っていますので気軽にどうぞ!


超絶不定期更新ですがご了承ください…

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