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翼を失うと彼女は死ぬ  作者: 薔薇百合深呼吸
33/39

第1章 33

 二人はあからさまに疲弊しており、もう決着が近づいている事が分かる。

 肩で息を吐きながら、それでも憎き幼女を見つめる視線はかなりの鋭利さを誇る。

 だが、そんな事を飄々と流してしまうのが、アカリという幼女だ。

 そんな二人を前に、休憩と言わんばかりにたばこに火をつけた。

「もう諦めたほうがいいんじゃい? 勝ち目ないって」

 勝利を確信した余裕の表情を持って、内心で二人を嘲笑(ちょうしょう)する。

 だが、それでも、二人の目は死んでいなかった。

 それが面白くないようで、アカリは表情を変えて言葉を飛ばす。

「あちし・・・・・・どうにもならないって分かっていてもがむしゃらにやるやつ・・・・・・ムカつくんだよね。ほら? 寒いっていうか。正直蛇足っていうか。だから。もう辞めなよ。これ以上無様な姿を晒す必要なんて無いって。黙って楽になろ?」

 そう、説得しようとするアカリ。だが――

「お前がそんなんだから、こんな事しか出来ないんだな?」

 自分が窮地(きゅうち)の立場でありながらも、エリアーナが言い放つ

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ?」

 何を言われたのか、理解が追いつかないと言った表情をするアカリ。

「お前がアリーシャの何を知ってるって言うんだ? ふざけんなよ!」

「え? なになに? あちしに説教? まじで寒いんだけど」

 そんなアカリのすかした態度など無視して、エリアーナが続ける。

「お前はまだまだお子ちゃまだから分からんだろうが、アリーシャは影で努力している。確かに根っからの天才肌かもしれないけど、それにあぐらをかいていたら足下を掬われる。アリーシャが有天使のトップランカーとして走り続けてこれたのは、頑張りがあったからなんだ。だから、正直言ってお前らの嫉妬は苦しすぎるし最低だ。努力を知らないやつが、努力しているやつの足を引っ張って優越感(ゆうえつかん)に浸かろうとしてんじゃねーよ」

「はぁ? 努力? 笑わせてくれるじゃん? いい? 一つだけ教えてあげる。努力なんて無駄なの。生まれた時から、なるべくしてなるって物事は決まっているの。あちしは神聖なるガブリエル様の血筋がある分、そういう気質が備わっているの。お前達凡人には分からないでしょうね」

「・・・・・・・・・・・・可哀想だな。アカリ」

 川原がぼそりと言った。

「おにーさん。今何かあちしに言ったかな?」

「アカリ。お前の話を聞いていると、その血筋とやらに縛られているようにも聞こえる。本当はもっと別にやりたかった事とかあるんじゃないのか?」

「はぁ? 何言ってるのかな? これがあちしの今やりたい事に決まってるじゃん」

「本当は分かっているだろう? アリーシャの足を引っ張ったところでお前の能力が上がるわけじゃない。虐めていた仲間ともきっといつか足を引きずり合う事になる。なのにまだこんな幼稚(ようち)な事、続けるつもりか・・・・・・?」

「よ、幼稚(ようち)・・・・・・って。まだあちしの事愚弄(ぐろう)するつもり! ざっけんなよ!」

「まぁ、そんな事俺なんかに言われたくないよな。エリアーナ、パス」

「ふん。雑なパスだな・・・・・・ま、本当ならお前の事憎すぎて殺してやりたいが、そしたらアリーシャが悲しむ。だから、もし反省して自らの行いを悔い改めるなら、チャンスをやらない事もない」

「何? 二人してあちしの事哀れんでいるつもり? 自分達の状況がまるっきり理解出来てないようで頭お花畑? これから死ぬのに自分達の心配しなくていいの?」

「死ぬつもりでいるなら、俺はこんな事言わない」

「ふん。てめぇにしては気が合うじゃねーか」

 二人は、まるで戦友のように微笑を浮かべながら視線を交換する。

「馬鹿じゃない? 本当に本当の正真正銘の! そんな糞みたいな余裕。一瞬で吹き飛ばしてあげる――終わりよ!」

「終わるのは、お前の方じゃ無いのか? 私がただ何の策も無く急に余裕かますとでも思ったのか?」

「一体何を言っているの? ついに頭狂った?」

 エリアーナが下を向くと、そこに〝天衣力(てんいりょく)が集約している〟のが分かる。

 アカリもそれを確認するなり、それが策であるのだと確信した。

 会話のせいで、それに気がつくのが遅れたようだ。

 天衣力(てんいりょく)を操っているのは加藤だ。

「・・・・・・どうして・・・・・・おねーさんが?」

 アカリは、純粋な疑問を抱えていた。

「あいつ・・・・・・燐も、こいつと同じように天衣力(てんいりょく)をアリーシャから浴びた。なら、使えない事はないだろう?」

「だとしても、あの程度の天衣力(てんいりょく)で何が出来るっていうの?」

「さあな?」

「さあなって・・・・・・本当に頭が狂ったみたいだね」

 策といえども策と呼ぶにはほど遠い、何の確信の無いそれを前にして、アカリは自身の圧倒的勝利を悟った。

「茶番はもういいよね。今度こそ―――――――死ね!」

 最後の一振りだと言わんばかりに、ハンマーの柄の部分を撓らせながら振り上げ、

 力の限りを振り絞って叩き下ろし、これでチェックメイトに思われたが――

「なっ!」

 なんと、クロスさせた二つのアイスの棒が、いとも簡単にハンマーを受け止めていた。

 それを見て、驚愕を隠せず狼狽(ろうばい)するアカリの姿があった。

「ど、どういう事・・・・・・」

 いきなり劣勢に立たされ、旗色が悪くなった状況が理解出来ずにいる。

 エリアーナは、その顔が見たかったと言わんばかりに笑みを浮かべる。

「ふっっ。お前の周囲をよく見てみる事だな」

 アカリは、言われた通りに周囲に視線を飛ばす。

「こ・・・・・・これは・・・・・・?」

 アカリ達、天界警邏隊が張り巡らされた空間切断(くうかんせつだん)の内側に、〝更なる空間切断(くうかんせつだん)を生成させているのが分かる〟。

「そう・・・・・・今までお前が私達より強かったのは、空間切断(くうかんせつだん)が弱体の影響を及ぼしていた部分が大きい・・・・・・なら、最初からそいつをどうにかすれば良かったんだ」

 アリーシャが苦しい状況の中、思いついた手段は見事に功を奏する結果となった。

「で・・・・・・でも・・・・・・たとえそれを抜きにしたって、あちしには他の奴らの力が・・・・・・」

 自分の武器を見つめながら、全身を戦慄かせるアカリ

 エリアーナは、容赦ない一言を叩きつけるように呟く。

「お前・・・・・・哀れだな」

「ほざけ! あちしに・・・・・・あちしにそんな憐憫(れんびん)(じょう)を向けるな!」

 隙間から顔を出したような怒りを向けるが、エリアーナは微動だにしない。

「お前・・・・・・勝手にそいつらの仲間になったつもりだっただけで、実はそうじゃないんじゃないか?」

「はぁ・・・・・・何言って・・・・・・?」

 エリアーナはハンマーで思いっきり殴られた脇腹に手を当てながら言葉を続ける。

「正直、なんとなく違和感はあった。もし、本当にお前の言うように、周囲のやつらが束になって力を分け与えていたら・・・・・・おそらく即死だっただろう。だが、現実私は生きている。〝仰々しいハンマーのわりには力が比例していなかった〟つまりは、空間切断(くうかんせつだん)で私達が弱体化されてたから、自分の力が大きくなったように勘違いしていたんだろうな」

「ば・・・・・・ばっかじゃない! そんな事・・・・・・あるわけ・・・・・・」

 徐々にアカリの言葉が弱々しくなっていくのが分かる。現実に、先ほどたかがアイスの棒にニョルニルハンマーとほぼ同等のレプリカが押された。これが何を意味するか、じわりじわりと脳が理解していった証拠だろう。

「お、おい・・・・・・警邏隊。更に空間切断(くうかんせつだん)を!」

 アカリがどうにかして自分が信じた今を繋ぎたくて、願望のままに声を張り上げる。

 だが、アカリの見方であるはずの警邏隊が声に反応仕草をみせず、完全なる傍観者を演じていた。

「な・・・・・・どうして・・・・・・どうしてなんだよぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 夢なら覚めて欲しい。そんな想いでいっぱいだろう。

 アカリは、年相応の姿をようやく見せ始めた。その証拠に泣きじゃくり始めた。。

「まぁ・・・・・・そういうこった。お前の負けだ。降参しな」

「・・・・・・・・・・・・」

 川原は、何も言わずに静観する。急な幕引きが訪れて何も言葉に出来ない様子だ。

「・・・・・・まだ・・・・・・終わってない」

 だが、アカリはそうではない様子で、まだ意固地になって全身に力を込める。

「私は・・・・・・お前達が憎い・・・・・・邪魔だ・・・・・・お前達を今消せば・・・・・・きっと皆が私に跪いて許しを請う事になる・・・・・・」

 アカリの全身がふいに黒いオーラのようなもので包む。

 それを見るなり、エリアーナは舌打ちを行う。

「まずいな・・・・・・」

「お、おい・・・・・・あいつ、どうしちまったんだ」

 川原がエリアーナに聞いた。

「天使は憎悪が一定のラインを越えちまうとああいう現象が起きる。それをどうにか出来なければ、〝堕天使になっちまう〟」

「何か解決方法はあるのか・・・・・・」

「さあな? こんな状況始めてだから・・・・・・正直なところ分からん」

「んだよ・・・・・・それ」

 アカリは、黒いオーラの影響で、目が赤く染まり、悪魔になったかの様相を呈する。

 その影響で、苦しそうにもがいている。

「・・・・・・・・・・おそらくそんなに時間は残されていない。早々にどうにかしなきゃダメだ」

「なぁ・・・・・・こんなやつ、別にどうなったっていいんじゃねーか?」

「ふっっ・・・・・・まぁな。だが、それでも、あいつはアリーシャの友達なんだ。今あいつを見捨てたら、私は未来永劫大好きな妹に見放されてる可能性がある」

「ったく。どんだけシスコンなんだよ・・・・・・」

 川原はそんな風に悪態を吐いてみせるが、薄い笑みを乗せているようにも見える。

「まぁ・・・・・・俺もアリーシャの泣き顔見るの嫌だし、どうにかする他ないか」

 川原は、最初にアリーシャと会った時の事を思い出していた。

 あの時は、馬鹿姉の影響で助ける事が出来なかったが、今なら〝誰かを助けようとする事が出来る〟

「あの・・・・・・川原さん! おねーちゃん!」

 地上から大きな声が聞こえてきた。アリーシャの声である。

「そのアイスの棒で、アカリちゃんに重い一撃を与えてください!」

「おい! そんな事していいのか!?」

 川原が、同じく声量を上げながら、声を返す。

「大丈夫です! 心配入りません! 天使が放つ力は正の力。大して、今アカリちゃんが抱いているオーラは負の力。むしろ天使の力で攻撃しない限り、救出の道はありません。よろしくお願いします!」

 その言葉を受けて、二人は、アカリに向かってアイスの棒を構える。

 それを受けてやるとでも言うように、重そうにハンマーを構える正気を失ったアカリ。

「エリアーナ。早いところ、アリーシャの友達を楽にしてやろうぜ」

「・・・・・・ふん。てめぇに言われるまでもねーよ」

 三人が、まるで見えない地面でも踏みしめるかのように前へ飛びだし―― 

 再びクロスを描いたアイスの棒で、容赦なくアカリに一撃を叩きつけた。

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