第1章 32
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エリアーナの参戦によって、神速のような二人の攻防が一度中断する。
その手には、川原と同じようにアイスの棒が握られている。
「お、おい。お前大丈夫じゃねぇだろうが! 下がってやがれ!」
だが、エリアーナは、心配する川原を尻目に鼻を鳴らした。
「ふん。ようやく張り合いのある顔になったじゃねーか。私はそっちのお前の方が好きだぜ」
「は、はぁ? お前何言ってやがる」
俺の方の川原もそういった耐性が皆無なのか、自然と頬を赤く染めていた。
「エリアーナ。おかえり・・・・・・と言いたいところでけど、そんなボロボロな体であちしに勝とうって言うの?」
エリアーナが参戦した事で、実質二対一のアドバンテージを得られたように見える構図だが、実際には、負傷者を抱えているようなもので、足を引っ張る可能性がある。
「うるっっっっせぇぇぇぇぇぇぇ!」
まるで狂犬のように声を張り上げて、アカリの言葉を吹き飛ばした。
「私は・・・・・・てめぇを絶対に許さねー! アリーシャを虐めていた事は勿論、天使としての才能を奪おうとした・・・・・・お前はとんでもない重罪を犯した!」
「そう・・・・・・だったらあちしをどうするっていうの?」
エリアーナの本気の鋭い双眸を前にしても、萎縮さえするそぶりを見せないアカリ。
「お前に罪を償わせてやる。きっちりとな」
「へぇ? お前があちしを? 劣天使にしかなれなかった下等生物が?」
「お前に一つ教えてやるよ。私は、妹を守る為なら、有天使にだって負ける気はしない」
「なら、どうしてあっさり捕まったんだろうねぇ?」
「あの時は油断していただけだ!今は、そうはいかない」
言いながら、剣道の霞の構えでアカリを迎え撃つ準備をする。
「かかってきなよ。体も心も今度こそあちしがこなごなにしてあげる」
その言葉を皮切りに、再度戦闘を再開する。
エリアーナは、天衣力の残り滓まで絞り上げるように、アカリに必死に食らいつく。
川原もサポートを行うが、それでもまだアカリの方に部がある。
神速のごとし死闘のあまりか、川原も体力をごっそり消費させられている。
このままでは、じり貧なだけで、勝利への活路が見いだせない。
「おらおらおらおら!さっきまでの威勢は一体どこへ消えたのかな?」
流石、他の天使の力を授かっているだけあって、実力が飛躍的に高い。
まるで、あえて全力を出さず、二人が苦しみもがく様を楽しんでいるようでもあった。
戦闘での動きの速さがそがれ、今は二人にも何が起こっているのかがよく見える。
「ど・・・・・・どうしよう・・・・・・おねーちゃんが・・・・・・颯太さんが・・・・・・」
このまま行けば二人が負けてしまう事は、傍から見ている二人にも分かった。
「アリーシャ! 何か・・・・・・打てる手段はないの?」
「そ、そう言われましても、二人が勝てるようにする方法なんて・・・・・・」
そう言ってから、アリーシャは一度黙りこくった。何かを思案しているようだ。
「ど、どうしたのアリーシャ! 何か思いついたの?」
「はい・・・・・・正直これで現状が打開出来るかどうか・・・・・・」
弱気に呟くアリーシャの肩を揺らすよう、加藤がまっすぐその澄んだ瞳を見つめる。
「アリーシャ。何でもいいの。方法があるなら言ってちょうだい」
「は、はい・・・・・・それは・・・・・・」
アリーシャは、逆転の一手ともとれる方法を加藤に説明する。
すると、加藤は、それは希望だとでも言うように、喜々として声をあげた。
「それよ! それなら、二人にも勝機があるかもしれないわ」
「あの・・・・・・でもでも・・・・・・今の私にはそれを行う為の天衣力が」
すると、加藤は溜息を一つ吐いた。
「何を言っているのアリーシャ。天衣力ならここにあるじゃない」
そう言いながら、加藤が自分の胸を指した。
「アリーシャがやろうとした事、代わりに私がやってあげるわ!」




