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幼馴染に陰で都合の良い男呼ばわりされた俺は、好意をリセットして普通に青春を送りたい  作者: 野良うさぎ(うさこ)
三章

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レストランと田中

 

「城太郎君、すごいじゃない。中学生の問題なのよ、これ」


「むっ、俺だってこれくらいできる。なあそうだろ花子」


「お兄ちゃんは筋肉バカだからね〜。あっ、藤堂君! こっちこっち! 一緒に御飯食べよ!」



 多分、この時期が僕、龍ケ崎城太郎の人生の中で一番平穏だったのかもしれない。


 クラスのリーダー格である堂島あやめ、筋肉バカの島藤兄、人のモノマネが得意な島藤花子、それに――


「うむ、昼食にしよう。むっ、堂島七瀬と堂島カケルはいないのか?」


「あの二人は別施設で課題をこなしているわよ。大丈夫、カケル君がいるから七瀬ちゃんは大丈夫よ」


「藤堂兄ちゃん、俺と組手してくれ」


「……島藤、まずは昼食にしよう」



 藤堂剛。不思議な存在だった。このクソったれな施設の中にいても、こいつの周りにだけは笑顔が咲いていた。

 得体のしれない魅力があるのだろう。


 話しかけたい、話したい、一緒にいたい、まるで何かの能力のようにそんな気持ちにさせられる。


 完璧なのに完璧ではない。


 それが人としての魅力を増しているというのか?


 僕は自覚している。俺は藤堂剛が大嫌いだ。




 藤堂剛に嫉妬している。優しい言葉をかけてくる藤堂剛が嫌いだ。僕よりも才能を持っている藤堂剛が嫌いだ。


 そんなことを考えている自分が惨めで……大嫌いだ……。






 大人たちからは僕は藤堂剛の劣化人間として認識されていた。

 リセットの使えるが、それは一瞬で出来るわけでもなく、感情を全て消せるわけでもない。


 身体能力、知覚能力の向上なんて絶対不可能だし、瞬間記憶なんていう化物じみた力は使えない。


 それに……人間の限界なんて絶対に超えることができない。


 藤堂剛はエリにとって救いの人間だ。


 僕は……ただの……『失敗作』だった。




 別れの挨拶なんてできなかった。

 卒業間際の事件。藤堂は血まみれの島藤花子を抱きしめて幕を閉じたあの日。



 出来損ないの僕と……島藤花子は『出荷送り』から逃れるために学校を脱走した。


 無理やり開発した能力は使い続けることができない。無理して使おうとすると、自分の何かが壊れる。


 身体が限界だった。それ以上に心も限界だった。


 エリの組織は甘い。それはわかっている。出荷送りも何も悪いことばかりじゃない。普通の日常が送れる可能性だってある。


 だけど、僕は……自分だけの何者かになりたかった。



 


 だから、新宿の街で違う組織に追われてボロボロの僕の前に立った『雀燐火』と出会い――



『ねえ、大丈夫ですか? うち、来ますか?』



 僕らは死にかけていた。比喩抜きでボロボロだった。

 能力を使いすぎて心が擦り切れ、身体は血まみれで、自分の寿命が長くないってわかっていた。


 この日、僕は初めて……人の温かさに触れられたんだと思う。





『きゃっ! 城太郎様よ!』


『素敵……、燐火様とお似合いですわ』


『二人は兄妹みたいな関係って聞いていますね。それにしても、本当にお美しいですわ』


『ええ、あれで性格がもう少し……』



 僕と島藤花子は雀燐火の家に迎え入れられた。燐火の家は芸能事務所というのを運営しており、父親が代表者であった。


 燐火はトップアイドルとして君臨していた。


 僕と花子は代表から力を買われ、学園で燐火の護衛を任されるのであった。


 普通の学園の生徒の多さに驚いたり、普通の食事の美味しさに驚いたり……人の脆さにも驚いた。


 僕と花子は極力、力を使わずに燐火を守る。でないと、僕らの身体が持たないからだ。


『ねえ二人もアイドルしましょ!』


 きっとその言葉が始まりだったかもしれない。

 知らず知らずにうちに、僕はアイドルを目指していた。

 といっても、僕に才能なんてない。きっと、これが藤堂だったら違っていたと思う。


 だから、僕は努力した。


 だって、努力したら、燐火から褒められるんだ。それがひどく胸に響いて……。




 とある日、学園に僕の親類を名乗る奴らが校舎の前に立っていた。


「あらあら、立派になったわね〜。あんた、芸能界で働いているわよね。なら、あんたの給料は私の口座に入れなさい」


「お兄ちゃん、すっごくかっこよくなったね! へへ、菜月の自慢のお兄ちゃんだね」



 へらへら笑っている妹の菜月が俺の手を掴んだ。母はため息を吐きながら嫌な笑みを浮かべていた。


 僕は突然のことで現実を直視できなかった。

 だって、こいつらは、僕を置いていって、人間のクズで、でも、僕の……家族で……。



 僕は再び、自分の感情をリセットしようとした。そうすれば、僕はこんな奴らなんかに――


 その時、柔らかい声が僕の耳元で聞こえた。



「リセットしないでください。あなたにはもう新しい家族がいるんです。知っています、あなたはとても強い子だって」


 歯を食いしばる。リセットしようとした自分の弱さを壊すように、自分の胸を強く叩く。


 そして、妹の手を振り払った。

 感情を壊すな、抑えろ。それを糧にするんだ。



「……薄汚い乞食どもが。……金が欲しいのか? ならくれてやるさ。ほら、喰らえ」


 母の形をしてい化物。妹の形をしている化物。

 僕はそいつらの口の中に金をねじ込んで――強く押しのけた。


「二度と僕に近づくんじゃないよ。君らとは住む世界が違うのさ、ははっ。僕を捨てたことを一生後悔して過ごせ」


 髪を掴んで頭を叩きつけたかった。でも、なぜか、あの日の遊園地の時間を思い出してしまって、できなかった。


 怯えた二人は逃げるように立ち去る。


 なんだか、泣きたくなった。でも泣いちゃ駄目なんだ。


 僕は男の子で、長男で……、それで、それで――



「うん、頑張ったですね。ふふっ、今日は城太郎が好きなカレーにしましょうか?」



 僕は、嗚咽をあげながら小さく頷いた。




 ****




「だから、僕は燐火さんを殺した犯人を絶対に許さない」



 ほんの少し前、西園寺さんの手を触れた時、僕はなぜか昔のことを思い出してしまった。


 高校に上がる前……雀燐火は死んだ。


「もちろんです。絶対に許さないです」


 イベントが終わり、駐車場、車の中、二人。


 僕を普通の男にしてくれた『雀燐火』――を演じる島藤花子。


 燐火の死は原因不明だった。事務所の代表さえもわからなかった。


 これは僕と花子と代表の三人だけの秘密。


 燐火の死を否定したかった。

 だから、花子は『トレース』を使った。


 その人をそっくりそのまま演じる能力。それは絶大な力であり、あの堂島あやめでさえ、花子の存在を嗅ぎ分けることができないほどだ。


 僕らには時間制限がある。藤堂や堂島たちとは違い、中途半端な存在だ。

 だから、力を使えば壊れてしまう。


 それまでに……絶対に――



「ランクを上り詰め、燐火を殺した犯人を探し出す」




 ***





「藤堂、乾杯じゃん!」


「あ、ああ、なんだかいつもよりも疲れてしまった」



 突発のイベントであった。本来なら俺が手を出す領域ではなかったと思う。

 だが、あの子が困っているのを止められなかった。


 考え事をしていたから、返事をするのが一拍遅れしまった。


 田中は店内を見渡していた。

 俺達のバイト先である洋食屋さん。夜も遅い時間だから客の入りはほどほどであった。


「よかった、そんなに忙しそうじゃないじゃん。へへ、忙しかったらちょっと気まずいよね」


「ああ、働かないといけないと思ってしまう」


「なんだか、懐かしいね。ふふ、藤堂ったらよく客さんを怒らせちゃったもんね」


「嫌な記憶だが、懐かしい気持ちにもなれる。……あの時の俺は本当に人の気持ちというものがわからない存在だったんだ」


 たった八ヶ月前、だが、それ以上に俺の中で様々なことがあった。


 田中は懐かしそう表情をしていた。


「ケーキ、二人で食べたね」


「……実は、あれは内心焦っていたんだ。田中が、か、彼氏と一緒に歩いていたと思って」


「へっ? そ、そうだったの? ていうか、ただの弟君だったじゃん」


「ああ、あの時の安堵感はいまでも忘れられない」


「もう、駄目だよ藤堂。そういうことは、気になっている女の子だけに言うんだよ」



 続く言葉が出なかった。口元まで出かかっている。だが、それを言ってしまうのと今の関係が崩れそうで怖い。


 心を落ち着かせろ。感情の方向性を変えなければ。俺はそう思って顔を少しそむけたら――


 田中がプチトマトをフォークで刺して、俺の口元まで持ってきていた。



「……よくわからないけど、わかってるじゃん。あのね、藤堂、私ね、力とかよくわからないけど、今の感情を大事にすればいいと思うじゃん。だから、過去のことはそれはそれ、未来のことなんてわからない。だから、今なんだよ。――もう少し方の力抜いてほしいな」


 俺はプチトマトをパクリと食べてしまった。


 田中の上目遣いが……その、とても、可愛くて、心のドキドキが止まらなくなっていた。だが、それをどうにかしようという感情が消え失せていた――




















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