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第19話「金条和晴③」

 もの凄くお待たせしました、お久しぶりですごめんなさい。まさかの約十ヶ月が経過して、自分でもドン引きです。

 今後はこんな事がないように、きちんと考えて書かなければいけませんね。本当すみませんでした。


 では本編をどうぞ。

 あの一件の翌日。

 一時限目が始まる前、わたしと伊代ちゃんは教室で話していた。謂わば、ちょっとした作戦会議のようなものだ。


「……その後出来るだけシラを切ってからペンダントの事チラつかせて素性を問い詰める……こんな感じかしら」

「うーん、ちょっと意地悪じゃないかな」

「いいじゃないこれ位。頭割るよりはマシでしょ」

「まあ、そうだけど」


 わたしは苦笑いで返す。

 まだそれ案として残ってたんだ。伊代ちゃんはたまに物騒な事を言うなあ。


「で、アレは持ってる?」

「もちろん」


 ポケットから例のペンダントを取り出してみせると、伊代ちゃんは満足げに頷いた。

 何を隠そう、これがこの作戦の鍵だ。作戦っていう程大層でもない気もするけど、とにかくこれは重要な物だ。


 金条君について知り、今後どう付き合っていくか決めるために。


「来た」


 伊代ちゃんがわたしを肘でつつき、教室のドアの方を指差す。その方向には、廊下から教室内の様子を伺う金髪の少年の姿があった。伊代ちゃんはドアの方に歩き出し、わたしもそれに続く。


「よくまた私達の前に顔出せたわね」

「!」


 金条君はわたし達に気づくと、一見なんでもない風に笑いながら言った。


「よう。あの後どうなった? 面倒くさい事聞かれたか?」

「別に。割とあっさり終わったわ」

「ああ、そう」

「で……何か言い残す事は?」

「……俺死ぬの?」


 わたしの隣で凄まじい威圧感を放つ伊代ちゃん。

 金条君の表情に若干の陰りが表れる。流石の金条君でも、この状況では心拍数が急上昇している事だろう。


「……ん?」


 ていうかおかしいな、頭割らない方向に落ち着いたと思ったんだけど……。

 わたしは金条君とは違う理由で心拍数が上がっていた。やれ保健室とか、やれ生徒指導室とか……その辺大丈夫だよね?


「……あー、じゃあ一個だけ」

「一個でいいの? 最後の言葉なんだから五個位は聞いてあげるつもりなんだけど」


 伊代ちゃん⁉︎


「……昨日あの場所に゛ぁ゛っ⁉︎」

「⁉︎」


 金条君が何か言い終わる前に、伊代ちゃんの手刀が彼の脳天に思い切り振り下ろされた。

 あまりの速さ、鋭さに、金条君は堪らず呻き声を上げてその場に倒れ、わたしは一瞬何が起きたか分からなかった。


「伊代ちゃーん⁉︎」

「ふう、スッキリした。ん? どうしたの秋穂」

「なんで頭割ったの⁉︎」

「いや、やっぱり一発はいいかなって」

「よくないよ! スイカ割りみたいな音したよ⁉︎」


 人を叩いたとは思えない鈍い音が、未だ耳にこびりついている。恐らく、伊代ちゃんが放てる最大威力の手刀が金条君の脳天に叩き込まれたのだろう。


「もう……さっきの作戦会議はなんだったの?」

「だってあんた、頭割るって言ったら絶対こいつ庇うじゃない?」

「ええー……」


 つまり伊代ちゃんの中では、あの時から金条君の頭が割れる事は確定事項だったわけだ。もうどうしようもないので、わたしはとりあえず手を合わせておいた。……ご愁傷様。


「なんだ?」

「今すげー音しなかったか」

「誰か倒れてない?」


 起き上がる気配のない金条君。

 ざわつきだす教室。

 伊代ちゃんが隣で固まった。


「……秋穂」

「なに?」

「こいつ保健室に運ぶの手伝ってくれない?」

「うーん……」

「帰りに何か奢ってあげるからっ!」

「本当⁉︎ あんまん食べたい!」

「交渉成立ね」


 思わぬ所で機会が訪れた。

 この前から一緒にあんまん食べたいって思ってたけど、中々言うタイミングがなかったのだ。これが俗に言う棚からぼた餅……いや、あんまん?

 何にしろ、金条君には相当悪い気がする。


「…………ってえ。マジ痛え……」

「あ、意識はあったのね」


 二人がかりで肩に腕を回して持ち上げられた金条君は、掠れた声を漏らす。表情には微塵も余裕がなく、目には軽く涙さえ浮かべていた。


「聞いたのそっちなんだからせめて最後まで聞け……。ああ、絶対コブできた」

「自業自得よ」

「オイ、聞いたか桧笠……。人の頭割っといてこの物言い」

「え、私? まあ、うん……確かにそうだけど。自業自得に変わりはないかなって」


 昨日のあれは完全に金条君のせいだし、すぐ手を出す伊代ちゃんも駄目なところがある。要するに差し引きゼロかな?


「そうそう、さっき言いかけてた事だけど。あんたの探し物は分かってるから」

「……やっぱ見たか?」

「ごめん、見ちゃった」


 見たというのは、あのペンダントの中身の写真の事だろう。正直に肯定すると、金条君は居心地悪そうな苦笑いを浮かべた。


「で、俺をどうする気だ? それをネタに虐める気か?」

「協力しなさい」

「……?」


 金条君は頭にクエスチョンマークを浮かべた後、すぐに思い当たった様な表情になり、訝しげな目をわたし達に向けた。


「お前ら、本気であの通り魔どうにかしようとしてんのか?」

「別に……そんな大層な事じゃないわよ。昨日も言ったけど、個人的な理由で知りたいだけ」

「……ふうん」


 深く切り込もうとはせず、猫のような目が逸らされる。無関心なのか、何かを察したのか……わたしには分からなかった。


「……で、結局何すりゃいい訳?」

「通り魔を見つけたら教えて。あとブレードを悪用しない事」

「ブレード……? ああ、能力の事か。そんな名前つけちゃってまあ…………中二乙」

「もう一発いっとく?」

「やめて伊代ちゃん。もう保健室近づいてきたよ」


 手刀を構える伊代ちゃんを宥め、保健室の扉を開けた。


「失礼しま……あれ?」


 だが中に先生は見当たらない。キョロキョロと部屋を見渡すが、やっぱり見当たらない。

 はてと思うも、今朝の事を思い出して合点がいった。


「そういえば……今日保健室の先生休みで、怪我した場合は職員室に来いってホームルームで言ってた気が」

「あれ、そうだっけ?」

「多分。ええと……ごめん金条君」

「……いや、いいよ」


 なんて事ない返答。

 なのに一瞬、金条君から悪寒を感じた。


「……!」


 唐突に働いた力に、突き飛ばされる体。

 尻餅をつき、お尻が痛みを訴える。


 見上げた先には、前に突き飛ばされる伊代ちゃん。


 そして、銃のようなブレードを構える金条君。


「さっきの手刀痛かったぜ、道篠……!」

「あんた……!」


 伊代ちゃんの手に、青と金の剣が現れる。

 でも体勢は明らかに不安定で……飛び道具など防げるようには、全く見えなくて。


「お返しだ」


 引き金にかかった人差し指に、力が込められる。

 針のように細い刃が放たれた。


「伊代ちゃん!」


 不安定で、無防備。躱せない。

 刃の先端が、伊代ちゃんの胸に突き刺さる——


「こんのっ‼︎」


 直前。左手を振るって、何かを保健室の壁に投げた。伊代ちゃんの体が、その方向へ引き寄せられる。

 手首の青いコイルと、壁に張り付いた金のコイル。違う色同士が引き寄せ合う。


 それでも掠りかけた刃の弾丸を、身をよじらせ辛うじて躱しきった。


「…………」

「金条君、突然何を……⁉︎」


 金条君は動じた様子を見せない。わたしから見て後ろを向いたまま、横目でこちらを見る。意地悪な目つきだ。


「自分でも思うよ。俺は性格悪いって」


 そう笑い、金髪を揺らして半歩右に飛び退いた。


 その理由を考える間もなく、甲高い音が耳に届く。まるで何かが反射し、跳ね返ったかのような。

 そして、わたしの顔の真横で、何かが空を切った。


「!」


 背中に鳥肌を立てながら、恐る恐る後ろを見る。

 壁にぶつかり、勢いをなくした細い刃が、廊下をカラカラと転がっていた。


「 ど……どうやって」

「そんな驚くなよ。跳弾くらい、ネズミでも知ってる技術だぜ?」


 跳弾……。つまり、さっきの一発を壁に反射させてわたしの方に?

 どんな精度で撃ったの⁉︎


「どうよ。結構やるだろ俺も」


 猫目を細めながら振り返り、金条君は悪人っぽく口角を上げた。もとより不良みたいな外見と合わさり、ゾッと背筋が寒くなる。


 体に上手く力を入れられない。立ち上がれない。腰が抜けているのかもしれない。

 そんなわたしに、銃身のない銃が向けられる。


「な……何を……」

「んー……。タンコブの分、払ってもらおうかなと」


 左手で頭頂部をさすり、痛そうに顔をしかめる。表情が少しわざとらしい。


「そいじゃあ、腹を決めて……」

「こっち見なさい」


 金条君の指が指を引き金に触れる。その背後から、怒気を含んだ伊代ちゃんの声。ブレードを振り上げ、握る手に力が込められる。

 なのに、金条君は振り向かない。ただ自信ありげな笑みを浮かべていた。


「こっち見ろ? どこの自動追尾爆弾だ」


 軽口と刃の弾丸は、ほぼ同時に放たれた。

 弾道は、銃の突きつけられた方向へ一直線に飛ぶ。わたしがへたり込む……そのすぐ近くの廊下へ。


 先程跳弾として跳ね返り、落下した刃の落ちた場所へ。


「⁉︎」


 甲高い反射音。

 放たれた刃に弾かれた、廊下に転がる刃。

 それが円盤状に回転しながら、伊代ちゃんへ襲いかかる。


「くっ」


 振り上げられたブレードが、顔の位置まで咄嗟に下げられる。再び響く、金属音。弾かれた細い刃は、明後日の方向へ飛ばされた。


「……っ」


 見ている事しか出来なかった。あまりに突然色々と起こりすぎて、呆然としてしまっていた。自分のブレードを使う暇もなかった。


 だから……今しがた撃ち出された刃が。

 廊下、壁、天井と跳ね返りを繰り返して。


 伊代ちゃんの太ももに突き刺さるまでの軌跡を、ただ見ている事しか出来なかった。


「嘘でしょ……?」

「嘘じゃない」


 伊代ちゃんは目を見開き、刺さった刃を凝視する。

 ニヤリと笑い、振り返る金条君。放った刃の命中を疑わない、自信に満ちた面持ちだった。


 ようやく足に力が入り始める。

 もっと早く動けなかった事が憎かった。


「やああっ!」


 右手を開き、ブレードを呼び出す。

 身を乗り出しながら、穂先を金条君の方へ突き出した。


「じゃ、戻るか」

「…………え」


 が、拍子抜けな台詞とともに呆気なく躱され、体は前のめりにぶっ倒れ、その衝撃で変な声が漏れ出した。

 そして何事もなかったかのように、金条君は片道を戻ろうとし始める。


「ちょっと待ってよ! いや……もうどういう事⁉︎」


 コロコロ変わる雰囲気の変動にいい加減ついていけず、金条君を呼び止める。

 わたしを見下ろすその姿に、どこか小馬鹿にされてるような気がした。


「だってほら、タンコブ分は頂いたし」


 そう言いながら、伊代ちゃんの方を指差す。

 その太ももには何も刺さっていない。


「痛くないだろ?」

「…………ええ」

「そうなの?」


 あんな痛そうな絵面だったのに?

 なら、金条君のブレードは一体どういう代物なのか……。今の行為に何の意味が?


「これさ、生き物に対する殺傷能力は皆無らしいんだ」


 それらの疑問を口に出す前に、金条君はブレードを指で回しながら言った。


「でも昨日は人気絶させてたじゃん」

「まあ、なんて言うか……。これの刃は、俺の『エネルギー』とか『体力』とか、そういったものを具現化させてあるっぽい。それを撃ち出して、命中したやつから『エネルギー』を頂戴する」


 ブレードの回転を止め、手のひらから消す。伊代ちゃんを指す指を、ピストルの形に変えた。


「そうすると、俺の疲労やら怪我やらが回復する。タンコブ治すにゃ、一発当てれば十分だ。因みに撃ち過ぎると、俺が疲労で倒れる。だから一発目は力抜いてた。元から陽動のつもりで撃ったからな」


 つまり、撃った相手から体力を吸収する能力……って事?

 そして何より、力加減とか、あんな精密な跳弾とか。もしかして金条君って、結構凄い人なのでは……?


 あんまり性格は良くないけど。


「あんたさ……他にやりようはなかったの?」

「うるさい手刀女。能力説明してやった分も合わせておあいこだ」

「手と……」

「じゃ、そういう事で」


 金条君は背中を向け、今度こそ来た道を引き返していった。


 右手の指で、ペンダントを回しながら。


「……あれっ⁉︎」


 わたしが持ってた筈なのに何で⁉︎

 ポケットに手を突っ込むも、指先に触れるものは何もない。いつの間にか抜き取られていたらしい。


「ワッハッハ、スリには気をつけろよー!」

「…………」


 どうしよう。

 悪い人じゃないと信じたいのに、どうもそう思えなくなってきた。上手く付き合っていける自信がなくなってきた。


 そんなわたしの心境を嘲笑いながら、金条君の背は遠ざかっていった。

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