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第18話「金条和晴②」

「…………」


 金条君は猫のような目で、何も言わずわたし達を見据えている。

 何を考えているんだろう。

 目的は何なんだろう。


「秋穂、早く電話しなさい」


 伊代ちゃんは金条君に聞かれない程度の声でわたしに耳打ちした。

 そうしたいのは山々だけど、この状況は良くない。


「でも今の見たでしょ? どういう能力かは分からないけど、相手は飛び道具を使うんだよ?」

「あんたなら被弾しないでしょ」

「でも……」


 確かにわたしなら、ただの飛び道具程度完封出来るだろう。

 そう、ただの飛び道具なら。

 金条君のブレードは今ちらっと見えただけで、どんな能力なのか分からない。

 慢心するのは危険だ。

 それに。


「わたしは平気でも、伊代ちゃんまで守り切れるかどうか……」

「でもこのままじゃどっちにしろ2人ともやられるわ!」


 でもだからって、自分だけ助かるなんて、わたしはそんなの……‼︎


「おい待て待て。なんで俺とお前等が戦う前提で話進めてるんだ。てか声デカイぞ。内緒話するならもうちょい抑えろ」

「「……は?」」


 2人揃って、思わず気の抜けた声が出た。

 金条君はやや呆れ気味に、「なに言ってんだこいつ等」と言いたげな視線をわたし達に向けている。


「いや、だってこの人倒してるじゃん!」

「だって絡まれてたんだろ?」

「あー……多分知ってる人なんだけど……」

「え」


 今度は金条君が気の抜けた声を出した。

 そして倒れた彼とわたし達を交互に見やったかと思うと、おもむろにポケットから携帯を取り出し、なにやら操作し始めた。


「……何してんの」

「ちょっと静かに」


 伊代ちゃんの問いかけを制して、金条君は耳に携帯を当てた。

 この状況で電話?


「あ、もしもし……」


 繋がったらしい。

 金条君はやや焦ったような声で応答する。


「はい、救急です。歩いてたら偶然(・・)人が倒れてるのに出くわして……下校中です、はい、3人(・・)で。場所は——」

「え……」

「は?」


 いや、ちょっと待って。

 救急車呼んでるのは分かった。

 でもなんか不可解な事言ってない?


 偶然?

 3人で歩いてたら?


 そうこう思ってる内に通話を終えたのか、金条君は携帯をしまった。

 そして妙にキリッとした顔をつくり、わたし達の方に向き直した。


「あの……金条君?」

「何も問題ない、丸く収まった」

「何が⁉︎」


 思わず声を荒げてしまった。

 荒げずにはいられない。

 伊代ちゃんは最早言葉を失い、目と口を大きく開けて固まってしまっているのだ。

 もうわたしが声を出すしかなかった。


「偶然倒れてるのに出くわしたって……やったの君じゃん! しかもちゃっかりわたし達も巻き込んでなかった⁉︎」

「いやだってほら、ややこしい事に出くわした時1人だと色々めんどいだろ?」

「な……な……」


 金条君はヘラヘラとそう宣って笑ってみせた。

 その様子に、わたしはただ口をパクパクさせる事しか出来なくなった。


 駄目だこの人……。

 ある意味潜原さんよりよっぽどタチが悪い。


「まあ、誤解だったとはいえ手助けしようとしたんだ。勘弁してくれよ」

「ええー……」

「とりあえずこの人ちょっとどかそうぜ。こんな所で倒れられてちゃ二次災害が起こるかもしれん」

「いや、一次災害起こしたの君だからね?」


 本当に何なんだろうこの人は。

 敵意が無いのはその通りかもしれないし、個人的にそこまで悪い人って感じもしない。

 ただ、信用しろと言われると凄く悩ましい。


「なあ、俺こっち持つからお前足の方持ってくれよ」

「……はあ」


 金条君の言い分はともかく、道に倒れた人を放置というのもあれなので、わたしは仕方なく要求に応じた。

 我に返った伊代ちゃんも協力し、邪魔にならないよう道の端に倒れた人を移動させた。


「で、結局この人誰だよ」

「うーん……」

「まだ思い出せてないの? いい加減気の毒よ」


 そう言った後、伊代ちゃんは「ところで」と金条君を睨んだ。


「あんたは何者なの? 目的は?」

「……別に何者ってわけでも無いな。一介のコーコーセーだよ、俺は。逆に聞くが、お前らこそ何なんだ。学校で揉め事起こして、挙句爆発とかただ事じゃない」


 金条君はおちゃらけた態度を抑え、わたし達に問いを返してきた。

 その言葉はまだ続く。


「俺はこの能力を手に入れた時に思ったぜ。他にも同じような奴が何人かいるかもしれないってな。顔は見てないが、あの通り魔に襲われるのがキッカケだってんなら……ここは異能力者で溢れかえる」

「やっぱりあんたも……」


 金条君の右手を上げ、空間を掴む動作をした。

 同時に、それは突然現れる。

 銃身のない銃……刃はどこにもなく一見『ブレード』には見えない。


「お前らさあ……。まさかアイツからこの町を守ろうだとか考えてるのか?」


 あのヘラヘラしたトラブルメーカーのような雰囲気が嘘のように、金条君は鋭い目付きをわたし達に向けた。

 思わず萎縮するわたしだったが、伊代ちゃんは食ってかかるように言い返す。


「別にそんな立派な事考えてないわ。昨日のは単なる正当防衛よ。私には……違う目的がある」

「……ふうん。で、お前は?」

「う……」


 こうしてると、金条君はかなり威圧感がある。

 さっきまではあの態度のお陰で絶妙にバランスが取れていたのだろうか。

 最近は大分改善されたとは言え、普段伊代ちゃんと命さんくらいしか話し相手のいないわたしは、やっぱり縮こまってしまう。


「……ぷ」

「?」

「ハハハ! なに怖がってんだお前。ちょっと雰囲気出しただけじゃねえか!」


 金条君は雰囲気をぶち壊すかのように、愉快げな笑い声をあげた。

 ブレードを消し、わたしの前を横切りすれ違いざまにまた口を開く。


「別にお前らがなに考えてようがどうでもいいね。俺だってやましい事考えてるわけじゃない。町を守りたきゃどうぞ勝手にしてくれ」


 そしてそのままスタスタと歩いて行ってしまった。

 わたしは言い返す事も出来ず、ただその背中を見送った。


「いい性格してるわね」

「結局なに考えてるか分からなかった……」


 精神的に疲れた気分になり、ため息を吐きながら俯向く。

 その時、道に何か光る物が落ちてるのに気づいた。


「……?」


 それが何なのか判別する前に、倒れた人が視界に飛び込む。


「……あ‼︎ 逃げた‼︎」


 顔を上げてさっきの方を見ても、既に金条君の姿は見えず、おまけにサイレンの音が近づいてくるのを感じた。


 本当、いい性格してる。




*




「あいつ次会ったら頭割る」


 伊代ちゃんはこれ以上ないほど不機嫌だ。

 無理もない、結局金条君は面倒事だけ残して去って行ってしまったのだ。

 残されたわたし達としては、恨み言の1つや2つ言いたくなるというものだ。

 なんだかんだで一緒に病院まで来てしまっては尚更そう思う。

 なんとかこうして早く帰路につけているのは不幸中の幸いだ。


 ごめん、名前思い出せないけど倒れた人。


「秋穂、援護は任せるわ」

「気持ちは分かるけどわたしはいいよ」


 わたしがやんわりと強襲の参加を断ると、伊代ちゃんは「ハア」とため息をついた。


「あんたは優しすぎよ。まあいい事なんだろうけど」

「いや、わたしだってあれはどうかと思うよ? でも」


 あの人を小馬鹿にしたような物言いには、さすがのわたしもイラッとしなかったと言えば嘘になる。

 誰もが口を揃えて『性格が悪い』というだろう。


 でもこれを見た後だと、やっぱりこういう風にも思う。


「金条君も、きっとそんなに悪い人じゃないよ」

「なに、それ?」


 わたしは伊代ちゃんにペンダントを差し出した。

 あの時の光る物体の正体だ。


「さっき落ちてたの拾っといたんだ。中に写真入れれるやつだよ」

「いつの間に。で、これがなんであいつの話に……」


 ペンダントの中の写真を見た伊代ちゃんは押し黙った。

 わたしも見たけど、やっぱり少し驚いた。

 勝手に見るのは失礼な気もするけど、まあ金条君のやった事を考えたらお釣りが来るだろう。


「……言わんとしてる事は分かったわ。でもこれが証拠には」

「だから確かめよう」


 伊代ちゃんは少し懐疑的だったが、写真をまじまじと見つめた後、わたしの方を見て笑った。


「分かったわ。やりましょう」

「うん!」

「でも頭は割るから」

「ええー……」


 伊代ちゃんの意思は固かった。




*




「やらかした……」


 和晴は自分のポケットをまさぐった時に、ようやく異常事態に気づいた。

 今にも膝から崩れ落ちそうなほど項垂れ、大きな絶望を含んだ声を漏らす。


(天罰ってか? 神様。まあ思い当たる節はありすぎるけどよ……)


 全く笑えない状況に、和晴は内心で自嘲する。

 彼が真っ先に思った事、それは『中身を見られたくない』だった。


 どこで落としたか、自分の記憶を遡る。

 最後にポケットを触ったのはいつだったか。


 ……それは携帯を取り出した時。


「……あーあ」


 よりにもよって、1番後が怖い人物に拾われている可能性が高い。

 そう思うと笑えないを通り越して、和晴の口元は逆に歪な笑みを浮かべていた。


 とりあえずその地点に戻ろうと、和晴は来た道を戻り始めた。

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