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第11話「食堂の怪事件」

 この町には何人のブレード使いがいるんだろう。

 わたしや命さんだけじゃないのは間違いない。

 それも全て、あの『しどう』という男が原因だ。


 なんでそんな事をしているのか。

 何が目的なのか。

 今の所それは分からない。


 ただ1つ……あの男を野放しにしてはいけない、という事。

 それだけはわたしにも分かる。


 でもだからって、わたしに何が出来るの?

 わたしなんかに何が……。

 どうすればいいのか分からない。







「…………」


 数日経った。

 でも今の所、進展も変化も何も無い。

 わたしの心も、全く決まらずにいた。


 グルグルとまとまらない考えを頭の中でかき混ぜながら、窓の外を眺める。

 今日も夏の日差しは強く照りつけている。

 その眩しさに目を細めながら、少し思考を整理してみようかと思った時。


「まだ考え事してるの?」


 ここ数日の間に聞き慣れた声が耳に届いた。


「うん……まあね」


 わたしは軽くはにかみながら、伊代ちゃんにそう答える。


「大丈夫って言ってたけど、本当でしょうね? なんか疲れた顔してるわよ」

「そうかな……?」


 自分じゃあんまり分かんないけど。

 でも心配そうにそう言うんなら、きっとそうなんだろうな。

 ちょっと悩みすぎかも。


「……その考え事、まだ私に相談してくれる気は無いの?」

「え?」


 伊代ちゃんは何処か意を決したような目でわたしを見た。

 穏やかさの中にクールな雰囲気もあるその目つきに、わたしは少し引き込まれる。


「無理には問い質さないけど……嫌なのよ。1人で何か溜め込んでいくのを、何も出来ずただ見てるだけなのは」

「伊代ちゃん……」


 思えばわたしは、相談なんてする事ともされる事とも無煙だった。

 人との関わりを絶とうとすれば、必然的にそうなるから当たり前だ。

 だからわたしは、こんなに悩んでるのかもしれない。


「ごめん」

「…………」


 でも今は、こうして相談に乗ってくれようとしてくれる人がいる。

 何年も何年も独りだったわたしに。


「ちょっとだけ、乗って欲しいかな……相談」

「……私でよければ」


 伊代ちゃんは満足げに笑ってそう言ってくれた。

 気分が凄く軽くなった気がする。


「時間も時間だし、食堂にでも行きましょ。話はそこで聞かせてもらうわ」

「ありがとね、わたしのために」


 本当、心からそう思う。

 命さんといい伊代ちゃんといい、わたしは最近出会いに恵まれ過ぎじゃないかな。

 バチとか当たらないか心配になる。







 食堂にて。

 わたしはカレーを、伊代ちゃんはうどんを食べながら、並んで座りながら話していた。

 内容はもちろん、わたしの相談事だ。


「へえ……つまり、一歩を踏み出す勇気が中々持てないって事?」

「そんな感じかな……」


 当たり前だけど、ブレードとか事件とかその辺りはぼかしてある。

 それでも伊代ちゃんは特に突っ込まずに、静かに聞いてくれていた。

 おかげでわたしのたどたどしい説明もスムーズに進み、短く要約までしてくれた。

 ありがたい。


「それが大事な決断っていうのは、今までの感じで何となく分かるわ。どうしたものかしら」


 そう言いながら、伊代ちゃんは箸を止めて考えるそぶりを見せた。

 第一印象で眠そうだと思った目つきからは、最早凛々しさすら感じる。


 ああ、本当に相談に乗ってくれてる。

 それで、真剣に考えてくれてる……。


 伊代ちゃんに少し悪い気もするけど、わたしはそれが嬉しかった。


「? どうしたの」

「ううん」


 感情が顔に出ていたのか、伊代ちゃんは不思議そうにわたしを見る。


「なんかね、話聞いてくれただけで楽になっちゃった。もっと早く言えばよかったなーって」

「……まだ私何もアドバイスとかしてないけど」

「いいんだ、十分だよ。ありがと」


 わたしがそう言うと、伊代ちゃんは安心したような照れくさそうな、そんな表情で視線を戻した。


「よく分からないけど、まあ役に立てたならよかったわ」

「うん。伊代ちゃんがいい人でよかった」


 わたしはそう言い、食べかけていたカレーを口に運んだ。


「……そんないい人じゃないわよ。私は」

「?」


 その時の伊代ちゃんの声が、心なしか暗いトーンになった気がした。

 スプーンを咥えたまま、横目で様子を見てみたけど、特に変わった様子もなくうどんを啜っている。

 ……気のせいだったのかな?


「…………」

「……? ねえ」

「! ナニ⁉︎」


 ジッと見てたのばれた!

 いやあの、ごめんなんでもないよ⁉︎

 ただ一瞬元気なくなった気がしたから……あわわわ。


「なんか向こう騒がしくない?」

「え……?」


 伊代ちゃんは食堂の入り口の方を指差した。

 つられてわたしもそっちを見る。


 確かに……なんだか不自然に人が集まってるような気がする。

 昼休みの食堂が騒がしいのは当たり前かもしれないけど、あれはちょっと変だ。

 ワイワイと騒がしいというより、ザワザワと不穏な雰囲気がする。


「なんだろ?」

「……ちょっと見て来るわ」

「ちょ、ちょっと待って……食べるの早いよ」


 元から残り少なかったのか、伊代ちゃんは器を傾けて一気にうどんを完食してしまった。

 慌ててスプーンを動かすも、わたしは未だ半分程度しか食べきれてない。


「う……!」


 ていうかこのカレー辛くない……?

 甘口の食券買ったつもりだったんだけど。

 なんか今になって辛さがジワジワと効いてき  た——


 あ、これダメだ!

 これ以上は無理!

 口の中痛い!

 もっとちゃんと確認しとけばよかった……!


 水を口に流し込んで、口を押さえながら伊代ちゃんの後を追った。


「別に急がなくてもいいのに……ってどうした  の?」

「ゴヘン……からひのにがてで」

「はあ? なんでカレー頼んだのよ」

「うひろならんでて、はやくへらばなきゃって」

「……頼むものはあらかじめ決めときなさい」


 呆れながら言われた。

 うん、次からは絶対そうしよう。


「ほれで、なんのさわぎ?」

「さあ。もうちょっと前に……」


 人だかりを掻き分ける伊代ちゃんに続いて、奥へと進んでいく。

 今手が使えないので、伊代ちゃんの後ろだけが頼りだ。

 そうして出来た隙間をなるべく早く通り抜ける内に、状況が見える位置まで辿り着いた。


「……これは」

「? あれ?」


 人だかりの理由が分かると同時に、わたし達2人は頭に疑問符を浮かべた。


 食堂に通じる廊下。

 そこには窓が取り付けられている。

 その内食堂側から三枚目……。


 その部分の窓が、無くなっていた。

 枠組みの部分だけを残して、ガラスが無い。


「割れたの?」

「……だったら破片が散らばってないとおかしい わ」

「そっか……じゃあなんで?」

「私が知るわけないじゃない」


 床を見てみても、伊代ちゃんの言う通り破片は見当たらない。

 つまり割れたわけじゃない。

 ガラスを取り替えるにしたって、枠だけ付けておく事なんてないと思う。


「……イタズラ?」

「ガラス持って何処に移動するの? すぐバレる わ」

「ああ、なるほど」


 やっぱりわたしは、推理や頭を使うのは駄目みたいだ。

 それらしい事が浮かばない。


「よく分かんないや」

「私もよ。戻って食器片付けましょ」


 やっぱり、これを見てどういう事なのか分かる方が難しいよ。

 だからわたしはそれほどおバカじゃない……筈と思いたい。

 うん、きっとそうだ。


「ん?……」

「どうしたの?」

「ねえ、あんたもう食器片付けたの?」

「食器?」


 片付けるどころか食べ終わってないんだけど。

 あ……そう言えばまだあの辛いの残ってるんだ。

 どうしよ……。

 わたしはガクンと項垂れた。


「残すのは申し訳ないよね……」

「何言ってんの? 食べ切ったんでしょ」

「え?」

「だってほら」


 伊代ちゃんは怪訝そうな顔でテーブルを指差す。

 そこはさっきまでわたし達が座っていた場所だ。


 そしてそこからは、食べかけのカレーが無くなっていた。


「あれ……ない」

「ないって……もう片付けたんじゃないの?」

「違うよ。第一まだ半分くらいしか食べてなかったもん……!」

「え? じゃあなんで食器ないのよ⁉︎」

「わたしに言われても……」


 なんで⁉︎

 正直助かったっていう気持ちはあるけど、いくらなんでもそのまま流せない。

 そりゃ席は立っちゃったけど、そんなすぐ勝手に片付けられたりは——


「なあ、ここに椅子なかったっけか?」

「知らねえよ! んな事より俺のカツ丼は⁉︎ さっきここに置いたよな⁉︎」

「あれ、箸っていつもここになかったっけ?」

「いや……そこにあったと思うけど……」


 驚くわたしの耳に、そんな声がいくつも届く。


 窓ガラスが無くなった。

 他にも色んなものが無くなってる。


「ひょっとして」

「?」


 いやいや、まさか。

 そんな訳ない。

 もしこれが『そう』だとして、なんでこんな事する必要があるの?

 動機はなに?


「……心当たりでもあるの?」

「無いよ……。うん」


 嘘、無くはない。

 でも言えない。

 ブレードが関係あるかもしれないなんて。

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