↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/36

第12話「学校のブレード使い」

 仮に。

 仮にだけど、これがブレードによる現象だとしよう。

 じゃあ一体何のために? という事になって来 る。


 だって窓ガラス1枚に食べかけの料理を消したところで、嫌がらせくらいにしかならない。

 わたしに至っては、あのカレーは辛くて食べきれなかったからちょっとラッキーとまで思っちゃってる。

 ……うん、それは今あんまり大事じゃない。


 分からないのは、どうしてこんな事をしたのかという事だ。

 というか、まず本当にブレード使いの仕業なのかどうかも分からない……。


 教室に戻って授業の準備をしながら、わたしは新しい不安を頭の中でこねくり回していた。

 そんなわたしを、伊代ちゃんは物言いたげに見ている。


「ねえ、本当に何も知らないのね?」

「知らないよ。1度にあんなにたくさんの物を隠す方法なんて、どうやっても思いつかないもん」


 なんでだか、伊代ちゃんは中々食い下がらなかった。

 どうにも納得出来ない様子で、頭を掻いたり腕を組んだりと落ち着かない。


「まあ……いいわ。本当に知らないんなら」

「……?」


 かと思えば、少し残念そうな表情を作り、すたすたと自分の席に戻って行った。


「ごめんね、しつこく変な事聞いて。ただなんとなく気になっただけだから」

「うん……」


 伊代ちゃんの背中に対し、わたしは気の抜けたような返事を返す。

 あとから思い返せば、この時の伊代ちゃんは何かおかしかった。




*



 放課後になり、わたしは帰り支度をして席を立った。

 食堂の怪事件は、この頃には校内で話題になっていた。

 面白がってたり不気味がってたり、反応は人それぞれだ。

 先生達も詳細を調べようと、この後会議があったりするらしい。

 もしかしたら、明日には緊急全校集会があるかもしれない。


 これがブレード使いの仕業かどうかはさておき、結構大事になってきた。

 黒フードの『しどう』の起こしてる事件もある し、みんな神経質になってるみたいだ。


 わたしはどうしよう。

 確証はないけど、ひょっとすればブレード絡みなのかもしれないし、一応命さんに話してみたほうがいいかな?


 携帯を取り出そうとポケットに手を入れた時、わたしは丁度教室から出るタイミングだった。

 そしてこの時、伊代ちゃんに何度か指摘されたにも関わらず、わたしの注意力は散漫だった。


「わあ⁉︎」


 廊下を渡っていた生徒とぶつかった。

 お互いによろめいたものの、なんとか転けずに体勢を立て直す。


「ご、ごめんなさい……!」

「ああ、いえいえ。気にしないでください」


 頭を深々と下げるわたしに対し、その女生徒は軽く許してくれた。

 飄々とした口調と敬語がなんだかアンマッチで、耳に残りやすい声だ。

 でも無理に喋ってる感じでもなく、板についてると感じた。

 きっと普段からこんな喋り方なんだ。


 なんて呑気な事を考えてる間に、ぶつかった人はさっさと歩いて行ってしまった。

 顔を上げるも、もうその人の後ろ姿しか見えな い。

 伊代ちゃんより短めの、毛先を散らせたポニーテールが目に残った。


 はあ、と大きくため息をつく。

 ダメだなあ、わたし。

 最近は特にこういう事が多い。

 いや……もしかすると、前までは能力のお陰で避けられてただけで、わたしはこれまで誰かとぶつかりかけ続けてきたのかもしれない。


 これは由々しき問題だ。

 今後改善していくようにしないと……。


「……ん?」


 決意を新たにしたところで、ふと足元に何かが落ちているのに気づいた。

 しゃがんで拾い上げてみる。


 大きさは手のひらサイズとそこまで大きくない。

 形は立方体の枠組みたいだ。

 一辺が割と太い上に鈍い金属光沢を放っていて、ものすごく無骨な雰囲気を醸し出している。


 なんだろうこれ……?

 オブジェ?


 見慣れない物体に困惑するも、どうやらさっきぶつかった人が落としたらしいと推測する。

 用途はよく分かんないけど、学校に持ってきてるんだからいらないものじゃない筈だ。

 じゃあ早く届けた方がいいよね。


 確か教室から出て右に行って、そのまま下足の方に行ってたっけ。

 彼女の進んだ道を思い出しながら、わたしは足を動かした。


 でもこれ、本当何に使うんだろ——


「!」


 突然、オブジェを持つ手に違和感を感じた。

 硬い金属で出来ている筈なのに、グネグネと動いた。

 金属製の小動物を手で覆ってるみたいな感覚だ。

 妙な表現だけど、硬いままなのにうねっている。


 気味が悪くなったのと驚いたのとで、わたしは思わずオブジェを目の前に放ってしまった。

 宙に浮くそれは、やっぱり輪郭を不安定にして動いている。


「え? え……⁉︎」


 訳が分からず混乱しかけた時、オブジェはわたしの目の前で弾けた。

 直後、ガコンという音と共に何かが落下した。


「これは……」


 椅子だ……。

 オブジェが椅子になった。

 それだけじゃない。

 これは、食堂にある丸い椅子と全く同じだ。

 確か昼休みに無くなった物の中には、椅子も含まれてた気が……。


 ぶつかった人が落としていったオブジェが、昼休み食堂で無くなった椅子になった。

 わたしの中で、点と点が繋がった。


 わたしは走って、彼女の行った道を進んだ。

 追いついてどうするのかは知らない。

 今から追いつけるかも分からない。

 でも放っておくのはダメだと強く思った。


 下足に着き、急いで靴を履き替える。

 足が絡まりそうになりながらも、勢いよく外へと飛び出す。

 少ししか走ってないのに疲れた。

 肩で息をしながら周囲を見渡す。


 時間が時間なので人が多い。

 帰宅中の生徒に、部活中の生徒。

 後ろ姿しか確認出来てない人を探すのには、かなり無理があった。

 それでも見つけなくちゃいけない。


「ハア……ハア……」


 心でそう思っても、やっぱり無理だという気持ちが浮き上がってきた。

 この状況で顔を知らない人を見つけるなんて、やっぱり条件が悪すぎる。


 ダメだ、見失った……。

 そう諦めかけた時、1人の人影が視界に入った。

 校庭から見て校舎の右端の方だ。


 その人は自分の鞄の中を探っている。

 目的の物を取り出す、というよりも、入れたあった物が無くなっている。

 先入観のせいかもしれないけど、そんな焦りが表れているように見えた。

 それにあの髪型。

 先を散らせた短いポニーテール。


 間違いない、あの人だ。


 彼女は慌てた様子でキョロキョロと周囲を確認し始めた。

 そして、わたしが見ている事に気づいたのか、走って校舎の裏へ回った。


「っ……!」


 やっぱりそうだ!

 何が目的なのか分からないけど、彼女はブレード使いだ!


 わたしはすぐに後を追った。

 絶対逃しちゃダメだ。

 それ(・・)は無闇に使っちゃいけない。


 必死に走り、校舎の角を曲がる。

 体力をたくさん使ったからか、すごく長い間走ってる気がした。


 膝に手を付きつつ正面を見るも、あの人はいな い。

 逃げられた……?

 折角見つけたのに……。


「…………」


 今すぐ走って探したい。

 でも呼吸が整わない。

 暑さのせいで体力がどんどん無くなっていく。

 どうすれば……。


「秋穂‼︎」

「⁉︎」


 切羽詰まった声で、いきなり名前を呼ばれた。

 かと思えば、その声の主であろう人が思い切りぶつかってきた。

 不意の事に、わたしは思い切りバランスを崩してそのまま突き飛ばされた。

 突き飛ばした本人も、そのままわたしの上に覆いかぶさるように倒れこむ。


「い、伊代ちゃん⁉︎」


 その人物の正体を確認したのとほぼ同時に、ガラスが割れる大きな音がした。

 丁度わたしがさっきまでいた場所からだ。


「な……」

「大丈夫⁉︎ 怪我は⁉︎」


 反応を取れずにいるわたしに、伊代ちゃんは必至の形相でわたしに言った。

 肩を掴んでわたしをゆさゆさと揺する。


「あうう……大丈夫だから落ち着いて」

「! ゴメン」


 伊代ちゃんは落ち着きを取り戻し、パッとわたしから手を離して立ち上がり、倒れたままのわたしに手を差し出した。


「……わたしの上から落ちてきたの?」


 手を借りて立ち上がりながら、砕けたガラス片を見て呆然とした。

 あのままだと、ブレードを使う間もなく直撃だった。


「ありがと。危なかった……」


 さっきの息切れとは違う理由で、心臓が速くなった。


「無事ならそれでいいのよ。ただ……」


 伊代ちゃんは苦い顔で上を見上げた。

 そしてわたしの方を見て、その後俯いた。


「伊代ちゃん?」

「…………」


 伊代ちゃんはしばらく黙ったままだったが、やがて意を決したようにわたしを見た。


「……やっぱり何か知ってるんでしょ? あの時の事」

「え……」

「あれが普通の事じゃないって、気づいてたんじゃないの?」


 わたしはさっきみたいにシラを切れずに固まっ た。

 この問いかけに、伊代ちゃんはかなり確信を持っていると感じた。

 その感情は、わたしにはぐらかす事を許してくれなかった。


「えっと……それは」

「……言いにくいわよね、分かってる。さっきまでも私の聞き方が悪かったわ」


 ふう、と息を吐き、伊代ちゃんは1度目をつぶってから改めてわたしを見た。


「私にはあるわ。あれの正体について心当たりが」

「……!」


 今、なんて言った……?

 わたしは更に体を強張らせた。


「1ヶ月位前……私はそれの存在を知った。あんたもそうなの?」


 理解がようやく追いついてきた。

 つまり伊代ちゃんはこう言ってるんだ。


 自分はブレードを知ってるって。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。