67.vs 餅染 渚
「凪乃ちゃん強いなぁ」
「飾さん弱っちぃ〜っ」
《瀬ノ村》の訓練場で、私はトーナメントに向けた連携訓練の合間を縫い、卜部さんと餅染先輩を相手に実力テストを兼ねたシングルマッチを行っていた。
戦績は卜部さんとは四勝二敗。一方で餅染先輩には六戦全敗。当然、餅染先輩の実力もあるのだろうが、遠距離ジョブを相手にした一対一では、どうしてもこちらの分が悪い。が、それにしてもだ。餅染先輩の射撃精度は常軌を逸している。
私はステータスを兎も呆れる程のSTR偏重型に調整した。そのお陰で可能となった超高速戦闘にはそれなりに自信を持っている。《空穿つペルカゥス》をソロ討伐した時だってかすり傷の一つも負わなかったのだ。
「今ならリベンジ受けるけど。ど?やる?」
だというのに、餅染先輩《この人》は動き続ける私を正確に捉え、確実に弾を当ててくる。眉間を、こめかみを、時には振り上げた《星砕き》を。
近付けたからといって油断はできない。サブウェポンに仕込まれた短銃は的確に私の攻撃タイミングを潰してくる。
「やります。勝ちますから、次は」
「うっふ〜ん。気持ちだけじゃ結果は変わらないわ〜ん」
「凪乃ちゃんこのバカ泣かせたりや」
餅染先輩の招待に応え、視界が白く弾ける。特設マップへの転移処理が行われ、次に目を開いた時には《儚き雪原》マップの景色が映った。
しんしんと降る雪が手に落ちても冷たさは感じられない。不思議な感覚だ。
「……なんで潰されるのかな」
《開拓者《私のジョブ》》に詠唱の概念はない。スキルという枠組みすらも。
詠唱は基本的にスキル毎に決められており、スキル一覧にも記載されている。しかし私の場合、自由な一節を思い浮かべる、もしくは呟きながら放つ攻撃がスキルに《《成る》》。それが《詠唱システム》から弾き出された《開拓者》の特徴だった。勝手ながら、私は心の中でこれらの一節を、スキル名の代わりとして《開拓スキル》と呼称している。
エネミー戦においてこれは圧倒的な強みだった。ボス級はプレイヤーの詠唱を感知し、直後に対応する行動をとる。詠唱の必要がない私の攻撃が読まれることはそうそうなかった。
「餅染先輩は、」
開けた雪原の中でぐるりと一周見渡してみると、丘の上に一つ、林の中から二つの気配を感じられた。
「ん。デコイ……、あれも。……あそこ」
六戦も通せば互いに手の内は読めている。雪像のデコイに余ったサブウェポンでも仕込んでこちらに向けているのだろう。本体は私の感知範囲から外れる為に動いている筈。
兎や碧がなんと言おうが、STRに合わせてINTを伸ばしたことは正解だったと私は思っている。これはまだ二人には話していないが、この二つが六桁台に乗った時から、弓ジョブのパッシブ《第六感》に似た感覚が働くようになった。精度は高いとは言い切れないが、敵意を向けている対象の位置を把握することくらいなら可能だ。転向前のパッシブを引き継いでいるのか、ステータスによるものなのか定かではないが、弓ジョブでの経験が活きていることに違いはない。
「"疾く風は"」
呟きに合わせて跳躍。中空、空気の面を踏み抜くように正面へ跳ぶ。お気に入りの一節だ。脚力に大幅なバフが掛かり、空中機動まで可能になる。
足の下で一面の雪景色が流れ、二歩目を踏み込む頃には眼下に丘が映った。
「ひとつめ」
跳躍から二秒と経たずして、空気の面を上へと踏み抜く。瞬間、地へ向けた拳が雪像に埋まるライフルを砕き割る。
餅染先輩の作るデコイは放っておくと厄介なのだ。これはただの囮ではない。どのスキルによるものかはわからないがわずかな時間だけ遠隔操作できるらしい。以前の試合では忘れた頃に背後から撃ち抜かれる、なんてこともあった。次は、
「──っ!」
右側へと首を巡らせた時、後頭部に衝撃が走った。視界に映る体力ゲージは既に赤く点滅している。
発砲音は聞こえなかった。さらに擬似《第六感》の感知範囲外、射線は衝撃からしておそらく八時方向。
餅染先輩のメイン武器である《黒音》はボルトアクション方式だ。装填に時間がかかるならそこで距離を詰める。ただし直線移動は避けること、そして地形を利用すること。
「“薄氷のもとに”」
《星砕き》を纏った拳を地面へ叩きつける。と、積雪が柱のように打ち上がり、砕けた地盤がせり上がって射線を遮る。そのまま崩れた地盤から瓦礫を掴み取り、餅染先輩が撃ってきたと思われる方向へ放り投げる。
《黒音》はボルトアクション方式だ。次弾の装填には多少の時間がかかる筈。だからといって無防備に距離を詰めるわけにはいかない。移動……の前に回復しておきたい。
「“血潮は巡る”」
隆起した地盤の陰に身を寄せる。胸に手を添えて目を閉じ、血の流れをイメージする。
一瞬だけでいい、回復に長々と時間を充てる必要はない。STRとINTを伸ばした代償に、私の体力値は泥スライム五体分程しかないのだから。視界の端では赤く点滅していた体力ゲージが緑色に戻っていた。
「移動、の前に。だよね」
"疾く風"の開拓スキルはまだ効果を残しているが、空中から攻め込むのも芸がない。弾を正面から受けることになるのも好ましくない。かといって、
「"茜差す"」
ここで足を止めているのも得策とは言えない。
一節を受け、両拳の《星砕き》に火が灯る。《星砕き》は破壊に長けた武器だ。腰を引いて、右拳を構える。螺を回すように拳を捻り、横拳を引き絞れば《星砕き》が地中の《《芯》》を捉えてくれる。
「"打ち上げて"」
拳の火を打ち込む。狙いは地面、マップそのもの。
轟音を上げ、直線上に火柱が打ち上がる。等間隔に天を突く火柱は餅染先輩が撃ってきたであろう位置へと向かっていく。
《儚き雪原》は広い上、現在地である開けた中心地帯に対し、外周へ向かうにつれて隠所に富む。狙撃型のホームとも言えるマップだ。が、なにも遠距離攻撃は弓や杖の特権というわけではない。
「……当たらないかな、さすがに」
遠距離攻撃をヒットさせた時特有の小さな達成感のような、手応えのフェードバックは得られなかった。
予想通りではある。これはあくまで牽制。動揺を誘うついでにダメージでも与えられれば御の字だったが、仕方ない。
気を取り直し、空へと駆け出す。迷わず真っ直ぐに上空へと。
「"雲を編む"」
空を覆う雪雲を掴み、ぶら下がる。我ながらてるてる坊主みたいだと思う。
目立つことこの上ないが、見晴らしはいい。見つけられれば良し、見つけてもらえれば尚良し。格好の的になる、それが狙いだ。
"疾く風"の効果は切れてしまったから、移動の前にかけ直す必要がある。
「……いち」
空いた左手で右側頭部に飛んできた弾を弾く。
開戦時に感知していたデコイの位置からのものだった。デコイの遠隔操作は一つにつき一回な筈。ならあちらのものは既に役目を終えた。
雪雲から一筋、ロープのように引き伸ばして掴み、身体をくるりと反転させる。そのまま足を雲に接地、地面を見上げる形で雲に立つ。
「に、さん」
ずっと離れの山林地帯からの弾を二発、左手の甲で弾く。一発目を縦にするように二発目が並んで飛んできていた。なんらかのスキルだろう、気が付かなければやられていた。
だがデコイの可能性も捨てきれない。
サブウェポンは最大五本だ。破壊したものと遠隔操作を終えたものを除いても、まだ最大で三本は残っている筈。短銃を携帯していることを考えれば、残されたデコイの数も限られが、そもそも遠隔操作でスキルを使えるのかがわからない。今の攻撃を本体の攻撃と断じるか悩みどころではある。
考えあぐねるうち、無意識に首を傾げていた。
「ん。…………はは」
そういえば廻琉もよく首を傾げている。悩む時も、笑う時も。普段からの廻琉の癖が移っていたらしい。
嫌な気はしない。一緒になれたみたいで、少し嬉しい。不意に笑いが零れて、その瞬間。
「……っっ!!」
敵意。
「……あぶな」
逆さになった私の頭頂部を目掛け、感じられた弾を《星砕き》で弾き落とす。発砲音はしなかった。サイレンサーでも付いているのか、同様の効果を持つスキルか。どっちでもいい、倒せれば。
地面を見上げ、目視で動く影を確認する。雪雲の接地面を強く、強く踏み込む。狙いは直下。
次の瞬間、拳は大地を叩き割った。
「ひょえ〜〜!」
声、餅染先輩のもの。
舞い上がった雪煙で視界が遮られ、餅染先輩の正確な位置が掴めない。自業自得ではあるのだが。
("茜差す")
火を纏う下突きを雪煙に打ち込み、そのまま半周捻じり、もう一節。
(……"薫風梳きて")
火を乗せて放散する風で視界を晴らす。声と足音の方向へ、蛇行しながら駆け向かう。
倒木の後ろに人影を捉えた。わざわざ回り込む必要はない、飛び越える必要さえも。
掌を木に当て、半周捻りながら一節。
("はじけて")
一節に応じて、掌を当てた倒木が前方へ爆ぜ、飛び散った木片が雪の地面を抉っていく。念の為、追い打ちをかけておきたい。
(……"疾く風は")
跳躍し、立ち込める雪煙を上から見下ろす。中空を蹴り、地面を割り砕く。めり込んだ拳を半周捻り、ここを起点にしてもう一節。
「"はじけて"」
爆風が一帯を薙ぎ倒し、近くの倒木まで衝撃に砕かれ、木片となって雪煙の中へ散っていく。飛び散る木片と雪の中に泡のエフェクトがあれば、私の勝──、
「て思うわけよね」
耳元を過ぎる弾に乗った声。
「っ!」
次の瞬間。
眉間への衝撃と共に、視界に《LOSE...》の文字が表示された。
視界が白く弾け、次の瞬きを終えた頃には《瀬ノ村》訓練場の中への転移が完了していた。
「お疲れ様やったな、惜しかった惜しかった」
卜部さんの籠手がばすばすと背中を叩き、その度に体力ゲージがじわりじわりと削られる。
が、すぐに元の値へと回復、併せて、その横に攻撃力・攻撃速度上昇のバフマークが付いていた。
卜部さんのジョブ《静かなる虎》の特性だ。味方の回復にあたって微量のダメージを与える必要があるが、その分の回復量とバフ効果が凄まじい、とかなんとか。
「凪乃ちゃん単純すぎぃ〜っ!」
「……そんなことないです」
遅れて戻ってきた餅染先輩にまで揶揄われ、言い返したつもりが、どうにも声に悔しさが滲んでしまった。
我ながら子どもっぽいが受け入れ難い。今試合の動きはそこまで単純ではなかった……と思いたい。
ともあれ、感想戦だ。次に活かす為に反省点を見つけたい。別にどこが単純だったのか、なんて言いたいわけではない。今聞きたいことは、
「最後はどこにいたんですか?」
《儚き雪原》のマップを開き、餅染先輩に寄せる。傍らからひょっこり覗き込む卜部さんに合わせ、表示する高さも下げた。先輩に対して失礼なのは百も承知だが、碧を思い出して可愛らしい。
「凪乃ちゃんはぁ〜、どこだとぉ〜、思うぅ〜?」
「……………ここ、かな。空に居て撃たれた時にそう思いました」
言いたいことはあったが、飲み込んだ。
指したのは最後に居た山林地帯の一角。私が荒らしてしまった一帯は木々が薙ぎ倒されたままになっていた。
「あははは、こら見やすいわ」
マップには現在の地形がそのまま反映されている為、試合中に破壊された箇所も確認することができる。通常なら一時間程で元に戻るのだが、《星砕き》を使用した場合においては話が別だ。大規模の地形破壊だけでなく、エネミーに与えた深刻な損傷までもが《《永続》》する。
故に、装備時や試合開始時には運営からの《アラート》が入る。警告の内容は"やり過ぎないように"といったものだ。たしかに悪質なプレイヤーが使えば文字通りゲームが破壊されてしまう可能性もある。そんなもの作るな、と言いたいところだが、これも《黄昏前線》の味のひとつだろう。
聞いた話によれば兎のジョブもなにかしらの操作の前に《アラート》が入るらしい。が、垢BANの心配はないから気にしすぎるな、と聞いているので安心して使っている。
「ン〜。ちと惜しい、な?……私はここ」
餅染先輩が指したのは爆風で円形に抉られた位置から少し離れた山林の中だった。驚いたことに、距離でいえば私の感知範囲内の筈だ。にも関わらず全く気が付けなかった。それにあの動いて見えた人影は何だったのだろうか。私が首を傾げた横で、餅染先輩の指が破壊地帯をぐるりと囲うように円を描く。
「ここに居たのはぜ〜んぶデコイね。で、ここで問題!
試合中にデコイは何体いたでしょ〜〜か?」
手を顎に添えて目を瞑り、空を見上げて思考を巡らせる。開戦時から順繰りと記憶を辿る。ここで本体の可能性は一旦除外、感知・接敵したものは全てデコイであると仮定することにした。
まずは開戦時に感知した三体。次に上空で奇襲を受けた一体。……もし、倒木の後ろに隠れたものがこれと別個なら計五体。サブウェポンの数を考えれば、これくらいが妥当だ……と思う。もっとも、同じデコイを二度数えている可能性だってある。なにも確信はない。
「……五体、ですか?」
「ほぉ〜っ!理由もおせーて?」
「感知した数……と、サブウェポンの最大数を照らし合わせた結果です。五体全部に持たせたなら、おそらく」
「ほぉ〜っ!」
餅染先輩はしたり顔でマップを眺めていた。声を弾ませて私の回答が面白くして仕方ないといった様子だ。この反応からして、違っているのだろう。
「…………何体だったんですか?」
「九。でぃ〜す!」
餅染先輩は私に向けて指を九本立てて見せた。
後ろで「んん」と唸る卜部さんの声が聞こえ、目を向けると腕を組み、頷いていた。卜部さんは《観戦モード》で見ていた筈だ。この反応からして、九体が嘘ではないことがわかった。
「おさらいね。まず訂正しておきたいのはサブウェポンの数はデコイの数には関係しないの」
おちゃらけた声色は落ち着きをみせ、餅染先輩は優しげな物言いでマップを示し、各デコイの位置を教えてくれた。
丘の上に一体、山林に二体。破壊地帯にはなんと四体。そして餅染先輩が居たという位置を三角形の一角として、三方向から破壊地帯を囲む配置の二体。
「デコイはワンアクションのみ、遠隔操作が可能なの。これは攻撃以外もそう、移動とかね。スキルも下位までなら使える」
思わず頷いていた。
動いたように見えた人影はワンアクション操作による移動に過ぎなかったのだ。上空で弾いた弾が二発重なっていたことも、スキル使用の可否ではっきりした。
だが、まだ気になっていることがある。
「……声を聞きました。最後の……ここに降りた時と、負ける前に。あれは何だったんですか?」
「凪乃ちゃんが落ちてきた時は本体《私》の声。真上に撃ったのも私。思わず声あげちゃったわよね、掠れば即死でしょ?すぐ逃げたのよココまで」
餅染先輩は最後に居たという位置を軽く指で叩きながら笑っていた。惜しかった、というのは本当だったようだ。
「最後のってあれでしょ?耳元掠めたやつ。あれは《音超》ってスキルね、弾丸に音声を乗せられるの。陽動、撹乱にもってこいの中位スキルよ」
なるほど。
たしかに、最後の一撃を受けたのも声に反応して辺りを見渡したところで、眉間を撃ち抜かれた形だ。
被弾箇所によって被ダメージ量は異なるが、眉間や鳩尾等の部位は特に体力を大きく削られる。体力値の低い私にとって一撃必敗の部位となる。
あの弾は《音超》のものと角度は異なっていたし、三角形の位置的にデコイの一体から放たれたものだろう。そこまで計算していたのだとすれば、射撃の腕だけでなく、その組み立て方にも感心するほかない。
「……なら、餅染先輩を感知できなかったのはどうしてでしょうか?」
「そこよね。あ、マップ閉じても大丈夫よ。次さ、ステータス見せてくれる?」
促され、マップを閉じてステータス画面を開く。その横で、餅染先輩はインベントリから一枚のローブを取り出していた。
「《隠者の褏》。凪乃ちゃんが感知できなかったのは、これがステルス効果付きの防具だから……なんだけど。一番の理由は、ね。飾さん」
「……ん?ああ」
餅染先輩の目配せに卜部さんが応え、私のステータス画面を覗き込む。私が表示位置を下げたところで、卜部さんは小さく頷きながら言った。
「ステータスに頼りすぎやな」
思わず首を傾げた。そんなことはない……と思う。
開拓スキルだって活用したし、定型スキルに囚われない動きができていると思っている。研究所の業務で培われた観察眼だって活かして位置特定に努めた。……的外れではあったが。
「STRとINT。羽々斬のアホが言いよったが、この二つが九万を超えた時にVITとRESが三桁台なら弓ジョブの《第六感》が常時発動するようになるらしいな」
そうだったんだ。
そういえば、羽々斬先輩は開発チームに所属していると言っていた。仕様に詳しいのは納得だ。
しかし《第六感》が先の指摘とどう繋がるのだろうか。私はまたしても首を傾いていた。
「餅染も弓ジョブや。当然、《第六感》を持ってる。で、凪乃ちゃんはわざわざ身を晒して見せた」
雲に立った時のこと、だろう。愚策だったとは思っていない……が、危険性の高い手段をとったことに違いはない。
私が頷いたのを見て、卜部さんは餅染先輩へと視線を送った。
「360°開けた位置からなら弾丸を視認できるから。視認出来れば弾く事もできるから。弾けさえすれば場所も絞れるから。絞れたなら直行することも可能、……私のSTRであれば。違う?」
返す言葉もなかった。まさにその通りだ。
私は自分の育てたステータスにそれなりの……いや、かなりの自信を持っていた。今だってそれは変わっていない。だが、頼り切りだった……というのは否めない。
「あれだけあからさまに姿を見せられれば、先んじて次の手を仕込むのは容易い。三角の包囲網。あれはトドメがマズった時でもカバーできるよう組まれとった」
「銃器スキルには弾道を曲げるものもあるし、弾を増やすのもある。感知に頼った戦術を組めば絶対に騙されるようになってるの」
たしかに私は開戦時から感知を前提に戦った。デコイの位置から本体の特定まで、《第六感》の示す方向に追ってばかりだった。
攻撃を弾いたのもそうだ。敵意の方向を読んで弾く、そうしていた。ただ感知を防御に回すのが間違っているとは思わない。頼りきりだった、というのが反省点……なのだろう。弾道を曲げるというスキルを使われていれば、きっと私はあらぬ方向へ突撃していたことだろう。
いつの間にか、私の視線は地面へと落ちていた。
「ま、そう気ぃ落とさんと。このステータスは凄いよ、頼りきりなのがアカン言うだけや。せっかく良い目しとるんやから、もっと凪乃ちゃん本来の才能を活かしてもらわなな!」
溌剌とした声に続いて、ばすばすと背中を叩く音が聞こえる。視界が揺れて、その端で体力ゲージが伸び縮みを繰り返していた。ありがたいことに……少しだけ面白くて、元気が出る。
「……本来の才能、ですか」
あまりピンとは来なかった。
私は……まぁ、馬鹿じゃない。INTの初期値が高かったのもそれを裏付けてくれた。……けど、目が良いと言われてもわからなかった。わからないことばかりだ。知らないことも沢山ある。……無知なのだ、私は。
卜部さんや餅染先輩のステータスと比べても、私のINT値は高い。けどそれは頭が良いこととイコールじゃない。なにもステータスだけじゃない、のだ。
「凪乃ちゃんはさ。頭が良いから。わかるよ、いつか。
けど、ね。…………甘えてちゃ取り零しちゃうの」
小さな声だった。隣にいた私にも聞こえるか聞こえないか、それくらいの。
餅染先輩の手が私の頭に触れた。
「……大事なもの、大事な時に」
後ろからは卜部さんのため息が聞こえた。それから餅染先輩と同じように小さな声で、私宛……ではない言葉。
「ちゃんと拾えよ、バカが」
「……………わかってるわよ」
何の話か。なぜ二人はそんな顔をしているのかすらわからない、なにも。
けど、わかるだろうか。……いつの日か。




