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なるようになるの  作者: 七番
序章 宵の宮

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13/68

12.晴朗にして

 七月十日の月曜日。

 なんでもないというには少しだけ特別な日。『昏』を直前に控えた年の一学期最後の登校日。校門をくぐる前から学校全体が浮ついているのがわかった。


「午後から!始まるねぇ、昏休み!」

「『昏』自体は三日後だけどな」

「ならさならさ!搬入日!凪乃が明日で、わたしが明後日でもいい、かな!?」


 三人は既に予定を立て始めていた。

 それを横目に入職祝いに、と砂溟先輩から頂いたスケジュール帳を開く。


 ━━━━━


 7/10 荷造り(帰宅後すぐ)

 7/11 凪乃 荷物搬入日 ¥28,000

 7/12 廻琉 荷物搬入日手伝い

 7/13 『昏』/第1回鹿々桜花火大会/

   15:30~きもの勝ち旗 ¥15,000


 ━━━━━


 私の方はもう立てているわけだが。

 昨晩、寝付けないからと勢い余って浴衣のレンタルまでしてしまった。それも四人分。柄は当日選べるらしいが、何色にするかはまだ決めていない。


「凪乃!荷造り、みんなで手伝うからね!」


 スケジュール帳を開いたまま、少しだけ惚けていた意識が廻琉の声に引き戻される。


「ん?あぁ、ありがと。助かる」


 多くはないとはいえ、一人では手に余る量ではあった。ありがたい申し出だ。


 隣でにこにこと笑う廻琉、少し前を碧と兎が歩く。

 頭上の太陽が少しだけ眩しい。

 そっと空を見上げてみると蒼い空が広がっていた。遠くには影の深い入道雲。さらに向こうには堂々と聳える活火山が街を見下ろしている。今は桜灰《おうばい》は噴いていない、巨大な木のようなただの山だ。

 改めて、綺麗な景色だと感じる。

 鹿々桜のランドマークである界桜樹《かいおうじゅ》。『昏』に並ぶ地域に根差した"異常"。この地特有の景色。

 ある意味、恵まれている。こんな景色を毎日見られるのだから。


「…………」


 ふと、目だけを隣に向ける。

 いつからかはわからない。けれど、綺麗だと。

 …………何色が似合うだろう、と。そんな事ばかりを考えるようになった。


 ***


 十一時十五分。役目を終えたホームルームにて。


「ではこれにて一学期!完!」


 さっちゃん先生の威勢のいい締めの言葉と共に、教室を歓呼の声が満たす。大きくガッツポーズをとる者、ひとり静かに喜びを噛み締める者、喜びのあまり抱き合う者、中には机の上に乗って踊る者もいた。

 一方、兎は碧を肩車で担いで走り回っていた。その行き先に一人、教室の隅に居座るクラスメイトの姿が映った。


(…………薄食さん、踊ってる)


 薄食《はくじき》 瀧奈《たきな》さん。存在感の薄い、主張の弱い女の子だ。話した事は多い筈なのだが、どうにも印象が薄い。

 長期休暇を前にテンションが上がっているのだろう。浮かれて思わず身体が動き出したかのように不自然な、まるでロボットのような踊りを披露していた。

 意外、ちょっと可愛い。あ、危ない危ない、あっぶつかる。……あぁ。


「ひゃわぁあぁぁぁあああ!」


 可哀想に。碧を掲げた兎が全身で喜びを表現していた薄食さんにぶつかって、それはもうもみくちゃになってしまった。隣に座っていた廻琉がその様子を笑いながら、私の席に身を寄せてきた。


「えへへへっ。帰ったら荷造り、だね!余ってるダンボール持ってこよっか?」


「大丈夫。ある分で足りると思う」


 ダンボールはなにかと便利である。余程汚れたり、破れていたり、余ったりしていない限りはなるべく綺麗に畳んでとっておくようにしている。


「行こ、廻琉」

「うん!へへ」


 荷物を纏めて、未だもみくちゃの碧と兎、巻き込まれた薄食さんの元へと足を運ぶ。

 三人とも怪我はなさそうでなによりだ。


「ふえぇえ。ひ、ひどい」

「わ、悪い。まさか居るとは」

「ふえええぇ。ひどいぃ!」

「うぅ、兎。ひどいよぉ」


 そもそも気付かれていなかったようだ。可哀想に。


「薄食さん、大丈夫?」


 アホの二人を差し置いて、ふえふえと泣きじゃくる少女に手を差し伸べる。

 薄食さんは普段から寝不足なのか、タレ目に常に残る濃いクマが染み付いている。仄かに青味がかった黒い長髪、低めに結われたロングツインが特徴的な文学系少女だ。時々、私に本を借りに来ることがある。


「あっあ、あ、夜明さっ。ありがとうぅ」


 少しだけ吃りがち。これも彼女の特徴だろう。

 触れた指先はやや冷たい。

 立ち上がる為にぐっと体重がかかるが、それでも軽い。手首も細いし、ちゃんと食事を摂っているのだろうかと時々心配になる。


「凪乃ぉ、わたしもぉ」

「あたしも。立たせてくれ〜」


 無視でいいだろう。後から着いてくるといい。


「じゃ、私たち先帰っとくね」

「待ってる、ね!」

「「うぃ〜っ!」」


 明るい返事を返しつつ、のそのそと立ち上がる二人を尻目に廻琉と共に教室を去ろうとした時、


「よっ、よよよ、夜明さん!」


 傍らで一息ついていた薄食さんに呼び止められた。


「あっあたあた、あたし。お願いがあ、あって」


 デジャヴというやつだ。

 うっすらとだが、思い出した。この子の最大の特徴は"飼い犬がよく逃げる"だ。たしかこれまでに三、四回は依頼を受けた記憶がある。

 まさか今回もだろうか。別に構わないけど。


「まっ、マルルのっ。マルルの尻尾に…た、タグが」


「タグ?」


 予想は外れた。あまり好ましくない方向に。

 マルルは薄食さんの飼う犬の名前だ。

 タグ、これは啓示を受けた動物の証。人間でいうカードと同じもの。違いは形状の他に、文字による能力の判別が不可能、という点だ。面倒というよりは厄介な相違点。

 飼育下にある動物にタグが出現した場合、原則として飼い主には特定機関への報告義務が生じる。場合によっては保健所に強制保護となる事がある。というより、その場合の方が多い。


「けっ研究所で働いてるって…言ってたから。

 のの、能力の鑑定……お願い、できないかなって」


 人間と違い、動物は本能のままに能力を行使する。故に厄介な事になりうる、と羽々斬先輩が言っていた。どれだけしょぼくとも、未鑑定のままの動物の能力を放置する事は有り得ないとも。


「でもさぁ、それって保健所に言った方が良いことなんじゃあ」


 碧が純粋な疑問を口にする。当然の疑問である。

 私に頼むより早いし確実だ。特定機関、たしかに百目鬼研究所も含まれているが、あくまで私はアルバイト。

 関連業務に当たる場合は一度、所長か副所長、もしくは羽々斬先輩に話を通さなければならない。


「でっ、でも……でもぉ…………」


 彼女は常に挙動不審ではあるが、なにも馬鹿じゃない。思慮深く、なにより心優しい事を知っている。

 それでも私に頼んだ、ということは、なにか理由があっての事だろう。


「で、でっ、でも。ふぇ……」


「ん。大丈夫、続けて」


 眼に涙をためる少女に向けて、なるべく優しい声で語りかける。大丈夫、その気持ちはなんとなくだが理解できる。


「………ま、マルルと、離れ離れになるかもなのは、い、いやだ…から」


 そうだろう。ある程度の予想はついていた。

 断る理由はない。必要がない。理由は彼女自身の言葉で聞けたから。


「いいよ。今からでもいい?」


「離れ離れになるのはいやだ」と。

 それならば、あるのは引き受ける理由だけだ。

 少女の顔がぱっと明るくなる。その視界の端で、廻琉が小さく頷くのが見えた。


「あっ、ありがとうぅ」


「それは終わってから。絶対に大丈夫とは言えないよ」


 冷たいかもしれないが、最悪のケースは想定しておく必要がある。無論、薄食さん自身も。

 ひとつは鑑定できなかった時。

 もうひとつは鑑定した結果の能力が、C群に含まれる……人に危害を及ぼす可能性が否定しきれなかった時。


「ふぇ……」


「最悪の場合、ね。できる限り頑張るから」


「ふえぇ。あっありがとううぅ」


 終わってからだと言ったのに。

 まずは所長に相談かな。

 スマホを取りだして連絡帳を開く。指を軽くスライドさせた時、少し離れた位置から声が届く。


「今回で六回目だ。マルル関連だけで六回目」

「六回目ぇ!」

「なぁ薄食。あたしがなにがいいたいかわかるか?」

「わかるかなぁ!」


 兎が月炉の椅子に腰掛けてふんぞり返っていた。その横で碧が腕を組み、小さく胸を張っている。


「……ふ、ふええぇ」


 完全に思い出した。この二人は私よりもよく覚えている。その記憶力をもう少し勉学に回せないものか。

 六回、薄食さんの依頼数。

 五回目までは逃げ出したマルルの捜索だった。

 たしかに多いが、もしや呆れているのだろうか。それにしては二人とも顔が随分にこやかだけど。


「偶数回って事だ。凪乃、手伝うぜ」

「わたしもぉ!」

「わたしも、ね!」

「あたしは奇数が嫌いだ」


 廻琉も飛び出してきた。

 予想通りか。有難い申し出だ。たぶん一人じゃ手に余るだろうから。

 すっかり空《から》になった教室を見渡して、置いていた鞄を手に取る。


「じゃ、改めて」


 ペット、それもひとつの家族の形だ。


「行こ。薄食さん、みんな」


 今日の私はただ、それを守る為に。


***


 薄食宅までの道中、影も縮こまる陽光降り注ぐ正午、暇を持て余した少女達のひと時の戯れが始まった。


 私たちより五十メートルほど後方にてクラウチングスタートの構えをとる碧、かたや、たどたどしくもスタンディングスタートの用意ができた瀧奈ちゃん。

 どこから出したのか、なんの為に持っていたのか知る由もないが、兎の用意したゴールテープを構える廻琉と私。


「位置について、よーい」


 どん!という、ありきたりな兎の合図とともに二人が走り出した。


 ──だっだっだっだっだっ。

 小柄ながらも一歩の重みを感じる足音が一つ。

 かたや……ほぼ無音。耳を澄ませばなんとか、といったところだ。

 そうこうしているうちに、


「やりぃーっ!碧選手、一着ぅー!」

「ひぃっ、ひぃっふぅ、はぁっ、うっ。はぁっ」


 威勢のいい掛け声と共に、碧がゴールテープを切る。かたや、息も絶え絶えな瀧奈ちゃん。


「はあっはぁっ。……し、しんじゃう」


「ん。これあげる」


「あっ、あり、ありがとうぅ」


 限界です、とばかりにへたり込む少女に買ったばかりの水を差し出す。可哀想に、アホの戯れに付き合わされて。瀧奈ちゃんの体力の無さは折り紙付きだ。買っておいてよかった、いろはす。


「廻琉、どうだった?」

「ホントに聞こえなかった!すごい、ね!」

「……えへ、ふぇへへへ。そ、そうかな」


 瀧奈ちゃんの持つ『走る時 足音が小さくなる』能力のお披露目。それが今回の主目的であった。

 大層なものではないが、目に見えて違いがわかるというものは、それなりに面白いものではある。


「じゃあ次あたし走るから。瀧奈はタイム測ってくれ。ほら碧、位置に着けよ」

「おぉ〜っ!」

「その次!わたし走りたい!」


「えっえっ、えっなな、なんで」


 へたりこんだままの瀧奈ちゃんにストップウォッチを放り、兎と碧、なぜか廻琉までスタート地点へと駆け戻っていく。瀧奈ちゃんの能力お披露目という目的はすっかり遊ぶ為の口実へとすり変わってしまった。

 視界の端の方で瀧奈ちゃんが困惑した顔で、私を見上げているのが見える。なにを言えば良いのかわからなかったので軽く笑って誤魔化してみた。

 

「あぁ、そういえば」


 瀧奈ちゃんに伝えておく事があるんだった。


「瀧奈ちゃん、一個だけ。

 後で研究所の先輩が一人合流すると思うから」


「はぇ?」


 驚いたような顔をする彼女を見ながら、少し前のやり取りを思い出す。

 今から遡ること十数分ほど前、所長へと依頼を受けた旨を報告した時の事。


 ***


「────という訳でして。私の方で対応させて頂ければ、と。…可能であればですが」


「ふぅ────────」


 こちらに聞こえるように、大きくつかれた溜め息が聞こえてくる。

 大方、せっかく休みをくれてやったのに、といったところだろうか。たしかにいくらか罪悪感はある。もう少し繕ってほしいものではあるが。


「意欲的で結構な事だが許可はできない」


 やっぱりダメか。

 これまでに家庭動物の能力特定には何度か同行させてもらったことはあるが、メインで対応したことはない。それに今はサポートに当たってくれる上司や先輩もいない。

 肩を落としつつ、ふと良くない発想が脳裏を過ぎる。

 あからさまに落胆した様子を見せてみようか。子どもの頃以来やった事のない泣き落としってやつを。……さすがにそれは汚いか。


「一人ではな、補助に非番の砂溟を送る。

 非番の、砂溟をだ。もし手に余ると彼女が判断した場合は七彩《なないろ》を向かわせる」


「……あっ、ありがとうございます」


 思いも寄らぬ返答を受けて、少し吃る。

 てっきり完全に却下、良くて後日に別の担当者へと引き継ぐよう言われるものだと思っていた。それでも様子を見に行く事くらいはしただろうけど。

 とはいえ、こちらの都合で非番の先輩を動かしてしまった事実に変わりはない。ちゃんと謝らないとな。

 マイクが拾わないように小さく息をついた時、


「んんっ。それで、」


 咳払いののち、スピーカー越しに所長の言葉が続く。


「……楽しめているか?」


 一瞬、飲み込んだ唾でむせてしまいそうになる。

 なんていうか、不器用な人なのかもな、本当に。

 受話器越しには三秒ほどの沈黙が落ちて。


 ──いくよぉ!

 ──オーライ!オーライ!

 ──瀧奈!飛びかかれ!

 遠くからは三人のじゃれ合っている声が聞こえていた。


「…まぁ」


 ──ひぃっ!わっ!ひょわぁ〜〜〜〜!

 次に薄食さんの声が響いて。

 なにをしてるんだろう、と。


「く、ふふっ」


 そんな事を考えてしまう。

 考えてしまうと、少しだけ。


「……それなりに」


 私もあの輪の中に、と。

 そう思ってしまうのだ。


「なによりだ。では、励みたまえ」


 ──ぶつっ。


「…ふぅ」


 切電音と共に改めてひとつ、大きく息をつく。

 とりあえず許可は下りた。よかった、これで正式な業務として対応出来る。最もハードルに感じていたタスクを終えて、胸を撫で下ろす。

 でもひとまずは、


「砂溟先輩に謝らなきゃ」


 ***

 

 道草を食いつつ十五分ほど、瀧奈ちゃん家に辿り着く。彼女の家は、学校からそう遠くない位置にある。なんなら私の今の家からもそんなに離れていない。


 住宅地の一角、至って普通の一戸建て。

 木造平屋、コンクリ塀で囲われた広い人工芝の庭、隅に木陰を作るオークの木が特に目を引く。庭木として扱うには珍しい、ご両親の好みだろうか。

 にしても広い庭だ、マルルと遊ぶ為かな。それにゴミひとつ、石のひとつも落ちていない。手入れが行き届いている。


 芝生のあまりのきめ細やかさに惹かれて、そっと手を置いてみる。ふかふかだ、全然チクチクしない。人工芝にしては妙に温度が低い。

 遮熱性、かな。これもマルルの為だろう、火傷しないように。家族の一員として、大事にされている事がよくわかる。


「なんだかさぁ、眠くなっちゃうねぇ」

「そうだなぁ」

「ぽかぽかだ、ねぇ」


 三人はいつの間にやら木陰で涼み、すっかりお昼寝モードに入っている。……手伝いは?


「あっ夜明さん、だっ誰か来られたよ」


「ん。先輩だ、ありがと」


 瀧奈ちゃんもそろそろ扱いに慣れつつあるのか、三人の行動にすっかり反応を示さずにいた。私の袖を弱く引いたままの瀧奈ちゃんを後ろに連れて、砂溟先輩を迎えに向かう。


「お待たせしました、夜明さん。

 薄食さんのお宅はこちらで間違いありませんね」


「はい。今日はお休みのところ申し訳ありません。あっ、こっちが瀧奈ちゃ……んんっ。こちらが薄食さんです」


「いえ、お気になさらず」


 すっかり私の背に隠れていた瀧奈ちゃんを前に押し出す。


「ひゃっ、ひゃじめまっ、はじ、はじめまひて」


 面白いくらいに慌てる様子の瀧奈ちゃんの背中をそっと摩る。その後、大きく深呼吸する音が聞こえてくる。


「は、薄食 瀧奈……です。きっ、今日はよろしくお願いし、します」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします。

 百目鬼研究所より、砂溟 左です」


 挨拶を済ませたところで、瀧奈ちゃんの案内のもと、玄関の戸を開く。

 モルタルの土間に背の低い上がり框、アカシア調のフローリングが広がる開放的な玄関ホール。入って正面のウォールカウンターに飾られている幼い絵柄で描かれた家族の絵が、ふと笑みを誘う。おそらく幼い頃の瀧奈ちゃんの描いたものだろう。女の子がマルルらしき大型犬とともに両親に挟まれて、素敵な笑顔で描かれている。


「あっ、わわっ、ふえへ……えへへ」


 私と砂溟先輩の視線がそちらに向かった事を悟ったのか、恥ずかしそうに笑って誤魔化す瀧奈ちゃんの手によって、ぱたりと裏返されてしまった。

 と、その時。

 チャッチャッチャッチャッ。

 ぱたぱたぱた カチンっ。


「────うわっ」


 ──ワンっ。

 尾の先に付いた銀色のタグを揺らしながら現れた灰白の大きな毛玉、マルルによって押し倒されてしまった。


「はわわわわ、夜明さっ、だっ大丈夫?」


 ──ヘッヘッヘッ。ハフッ。

 五回も逃げ出すだけあってさすがのやんちゃ坊主っぷりである。お前に会うのもこれで六回目だね。


「はは、久しぶり。元気してた?」


 ──ワン!

 良い返事。よしよし、頭を撫でてあげよう。


「さて、と」


 撫でられて満足気なマルルを退かして、ゆっくりと立ち上がる。触れたついで、立ち上がるついでにひとつひとつ確認していく。

 尾の先に銀色無地のタグを視認。

 毛並みも良好、爪もちゃんと切られてる。

 口内も異常なし。声量、体重、体温ともに問題なし、と。さぁ、お仕事開始だ。


「君の能力、教えてね。マルル」


 ──ワンっ!

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