17 王女の独白と事務長官の戦慄
「……全て分かっていたわよ」
レティシアは膝を抱え、遠くを見るような目でポツリと呟いた。その声には、隣国の「光の王子」への露骨な蔑みが混じっていた。
「ガルディアの剣術大会でエドワードが優勝したなんて……あんなのお偉いさんのお情けだけの玩具自慢よ。儀礼で作られた装飾付きの剣でね。私がアルベール邸で見た、あの泥だらけの……命を削るような訓練とは違うもの」
ユージンは無言で聞いている。確かに、アルベールに叩き込まれた剣は、華やかな試合で見せるための技術ではない。泥を啜り、一撃で相手を屠るための「生存の技」だ。
「大体エドワードはマヌケなのよ。……養成所の学生たちがそれはもう吐きながらキツイ鍛錬をしていたわ……そして貴方のお父上アルベール卿のあの苛烈な指導。私はこの目で見た……汗一つ、汚れ一つない王子様ですって?冗談じゃない。ユージン、貴方の身体は傷だらけよね?小さい頃、鼻水たらして大泣きしながらエレナさんにしがみ付き「嫌だぁ」と喚きながら、それでも厳しい稽古に耐えてきたんですもの。貴方とエドワードを並べるのがおかしいのよ」
その言葉を聞いた瞬間、ユージンの脳内に本能的な戦慄が走った。
(……ちょっと待て。俺はこいつの前で、一度も着替えたことなんかない。アルベール邸で水浴びするときだって、王宮内でも細心の注意を払っていはずだ……何故レティシアは知っているんだ?……それに、こいつがさっきからエドワードを馬鹿にするために引き合いに出している『泣き虫の鼻垂れ小僧』って……それは俺のことか⁈)
「……レティシア……お前……よくも……ッ!」
余りの衝撃と羞恥に、ユージンの顔が朱に染まり喉が引きつった。先日、国家予算が合わず、小さな横領を見つけた時ですら見せなかった、軍神の孫としての「畏怖」が別の意味での「殺意に近い羞恥」となって溢れ出る。
その様子を、廊下の僅かな隙間から息を殺して覗き見している二つの影があった。
「……オーギュスト王よ。あれを御覧なされ。ユージン様は意地でも王家に入りませぬぞ。あんなふうに恥ずかしい話を暴露されては、もはや恐怖で逃げ出すか、一生の不覚として心を閉ざすかの二択ですな」
モランが面白そうに髭を撫でながら、隣に立つ王に囁く。
「ああ……。我が娘ながら、わしは、あいつのあの口を今すぐ縫い付けてやりたい。ユージンの謝罪でせっかく凪いだ空気がすっかり変わってしまったではないか」
オーギュスト王は、頭を抱えて深いため息を吐いた。
若き軍神の「覇道」はカリスマ性や武力ではなく、レティシア王女による徹底的な「個人情報の漏洩」という、もっとも不名誉な形で閉ざされようとしていたのだった。
もはやレティシア、貴方は立派なストーカーです(笑)
では、第四章終了です。有難うございました。




