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剋生の孔雀  作者: 氷炎
勲章 攻略の先

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Ep.41 アジュール・カレント ― 四人の間合い



 水面の青い照り返しが、濡れた足場の裏へ揺れていた。霧は低く、膝の下を這うように流れている。少し離れたところで水が落ちる音が続き、その合間に、何かが水を裂く細い音が混ざった。


 エーテルは足を止め、前方の足場を見たまま言った。


「戦闘位置だけ先に合わせよっか」


 マッチーが斧を肩から下ろす。


「わたしは前衛だね~」


 ハヤセは弓を持ち直した。


「俺は後ろからだな」


 レンジは短剣を逆手に持ち、水際へ目をやる。


「俺は前に出る。けど、お前らの刃の前には入らねぇ」


「私は遊撃位置だよ。最初の一戦は、ハヤセとレンジの動きを見せてもらっていい? 二人のモンスターとの戦い方、見た事ないし」


 エーテルは二人へ視線を向ける。


「私とマッチーは、二人が崩れそうならフォローに入るよ」


 レンジが口の端だけで笑った。


「見られる側かよ」


「ちゃんと見るよ?」


 エーテルも短く返す。


「二人だけの時と、四人でやる時で、どこが被るのか見たいからさ」


 その直後、右前の水面が裂けた。ミズカマスが低く走り、奥の霧だまりでキリタマの核が淡く灯る。左の足場の縁では、ナガレヘビが濡れた胴を引きずって滑った。


「来たぞ」


 ハヤセが弓を引く。


「火よ、散れ。視線を焼け。――《グリムフレア》」


 矢の前で小さな火光が散り、キリタマの核の前で弾けた。丸い霧体が一瞬揺れ、灯りがぶれる。ハヤセはそのぶれた位置へ矢を通す。核の横を掠めた一射で、キリタマが浮く場所を半歩ずらした。


 レンジはミズカマスの進路へ斜めから踏み込む。


「根よ、支えろ。滑らず通せ。――《ルートラン》」


 レンジの魔法で発生した植物が、踏み込みを支え、足裏が濡れた石へ吸いついた。そのまま一歩で魚体の横へ入り、水際へ流して頭が戻るところへ短剣を入れる。ミズカマスが身を返す。レンジは追いすぎない。もう一歩だけ詰める。


「火よ、刃に宿れ。焼いて通せ。――《スコーチダガー》」


 短剣の縁が赤く走り、浅い傷口に焼けた匂いが立つ。


 横からナガレヘビが首を伸ばした。


「絡め、縫え、足を止めろ。――《ヴァインスナップ》」


 ハヤセの声と同時に、足場の縁の隙間から細い蔓が走る。蛇の首のすぐ下、濡れた胴へ絡みつき、前へ滑る勢いを一拍だけ止めた。ナガレヘビの頭がわずかに持ち上がる。その間に、レンジはミズカマスだけを見て足を止めない。ハヤセはもう一度キリタマへ矢を向ける。


 数手後、ミズカマスが光に崩れ、キリタマの核が割れ、蔓のほどけたナガレヘビへ最後の矢が通った。


 レンジが短剣を払う。


「どうだ」


「二人だけの戦い方は、もうできてるね」


 エーテルの言葉に、ハヤセが弓を下ろした。


「俺達だけならな」


「うん。次は、私たちの戦い方みててね」



 次に現れたのは、ミズカマス二体、キリタマ一体、ナガレヘビ一体だった。


 マッチーが前へ出る。エーテルは少し外へ開いた。


「紫電よ、宿れ! 刃に奔れ、雷鳴よ! ――《ヴォルトエッジ》!」


 斧へ紫電が走る。ミズカマスが跳ねた瞬間、マッチーが横から叩き、水際へ弾いた。


「帯電、収束、穿て、連なれ。――《スパークボルト》」


 エーテルの雷が別側のナガレヘビを打つ。濡れた鱗の上で白く弾け、首の動きが止まる。その一拍でエーテルが踏み込み、刃で頭の向きを足場の外へ流した。


 マッチーは弾いた一体を追わない。二体目の飛び込みへ振り向き、柄で軌道を崩し、足場の縁へ押しやる。


「収束、硬化、鋭化。――《シャープエッジ》」


 戻りざま、エーテルの刃がキリタマの核を断つ。そのまま水際へ寄せられたミズカマスの首元へ一閃を通した。マッチーは残った一体を押し切る。


 ハヤセが息を吐いた。


「速ぇ」


 レンジが低く言う。


「同じ一体にこだわってねぇのに、手が止まらねぇのか」


「ちゃんと見てていいね~。次は四人で戦ってみるよ~」



 四人での初戦闘。その戦闘で、その差がそのまま出た。


 相手はミズカマス、ナガレヘビ、キリタマ、コオリスライム。手前の水際からミズカマスが出る。マッチーがそこへ踏み込む。レンジも動いた。


 だが、レンジが入ったのはミズカマスの正面ではなく、マッチーが斧を振り込む側だった。同じ一体へ、ほぼ同じ横合いから入る形になる。


「レンジ、そっち――」


 エーテルが言いかける。だが、もう遅い。マッチーは止められない。斧の軌道を浅く変えるしかなく、刃先だけが魚体を掠める。ミズカマスが水面すれすれを抜けた。


 ハヤセがそれを見る。このままではレンジの背へ矢が当たる。それを避ける為に、右へずれる。


「枝分かれろ、逃がすな。――《スプリットアロー》」


 放たれた矢の軌道がわずかに散る。だが、右へずれたせいで、さっきまでナガレヘビへ通っていた射線が切れた。矢はキリタマの逃げ先を縛っただけで、蛇には届かない。


 空いた左から、もう一体のミズカマスが跳ねた。牙がレンジの脇腹をかすめる。


 噛んだ直後、魚体のくねりが変わった。胴の振りが一段大きい。水を切る勢いが増し、次の飛び込みで足場を跨ぐ幅まで伸びる。


「エーテルちゃん!」


「集水、球成、包囲、滞留。――《ウォータースフィア》」


 水球が魚体を包み、勢いを削る。


「紫電よ、集まれ! この一撃に、電衝を! ――《ヴォルトインパクト》!」


 マッチーの斧が雷をまとって叩き落とす。叩き落されたミズカマスへ、エーテルが滑り込み、喉元へ刃を走らせた。


 その間に、ハヤセが一歩下がって射線を戻す。


「火よ、散れ。視線を焼け。――《グリムフレア》」


 蛇の前で火光が散り、ナガレヘビの首がぶれる。そこへ矢が通った。レンジもコオリスライムの前へ回って進路を塞ぐ。


「火よ、結べ。種火を弾け。――《ブラストシード》」


 拳大の火塊が短く走り、コオリスライムの前で弾けた。流体の体が揺れ、進む向きがずれる。そこへ短剣が入る。


 勝ちはした。だが、水音だけが残った足場で、レンジが短く吐き捨てた。


「……やっちまったな」


 ハヤセも弓を下ろしたまま言う。


「俺も位置、変えすぎた」


 エーテルは二人を見た。


「二人だけでやる時の動き、そのまま持ってきたよね?」


 レンジは否定しなかった。


「……ああ」


「レンジが、マッチーが斧を振る相手の横へ入ると、マッチーの攻撃が浅くなる。それを見てハヤセが右にずれたんだろうけど、今度はナガレヘビへの射線が切れてたよね」


 ハヤセが小さく息を漏らす。


「見えてた。けど、遅れた」


「うん。後ろに残ってた時は、ナガレヘビにちゃんと射線が通ってたから、動く必要がなかったね」


 マッチーも頷く。


「レンジも、戦う相手を決めたら、その一体だけ見ててよかったよ~。こっちの攻撃範囲まで入ってくると、わたしも位置を変えなきゃいけなくなるからさ」


 レンジが眉間を押さえた。


「四人戦なのに、二人でやる時みたいに詰めたから、お互いの邪魔になったのか」


「そうだね。二人とも動けてないわけじゃないからさ。同じ一体の近くへ前衛の二人で寄ったのがまずかっただけだよ。パーティメンバーを信じて任せる、それだけ意識してみよ」


「ああ」



 次の戦闘では、その意識がそのまま動きに出た。


 レンジは最初に抑える相手をミズカマス一体へ決めて、そこから視線を切らない。ハヤセは足場の後ろ側に残り、レンジの肩越しにナガレヘビへ通る射線をそのまま使う。


 ミズカマスが前へ出る。


「火よ、押せ。踏み込みを裂け。――《フレアステップ》」


 レンジの初速が一段伸びる。短い一歩で魚体の横へ入る。


 ナガレヘビが首を持ち上げる。


「絡め、縫え、足を止めろ。――《ヴァインスナップ》」


 足場の縁から走った蔓が蛇の胴へ絡み、一拍だけ滑りを止める。


「枝分かれろ、逃がすな。――《スプリットアロー》」


 ハヤセの矢が散り、蛇が避ける先を狭める。そこへエーテルの刃が走り、キリタマの核が割れる。マッチーはコオリスライムを足場の端へ押し、残ったミズカマスへ斧を振り下ろした。前の戦闘より短く終わる。


 ハヤセが息を吐く。


「……今の方が戦いやすかったな」


「うん。さっきよりずっとやりやすかった~」


 マッチーが返す。


 そのあとも、四人は足場を移しながら何戦か重ねた。


 次に戦ったのは、ミズカマスとキリタマ、ナガレヘビの三体だった。レンジはナガレヘビを無視して、手前へ出たミズカマスだけを追う。


「火よ、刃に宿れ。焼いて通せ。――《スコーチダガー》」


 短剣が魚体の脇を裂き、焼けた匂いが立つ。同時に、ハヤセが後ろに残ったまま弓を引く。


「火よ、散れ。視線を焼け。――《グリムフレア》」


 キリタマの前で散った火光に霧体が揺れる。そのぶれた核へ矢が通り、視界が開く。エーテルが残ったナガレヘビの首を外へ流し、マッチーの斧がそこへ落ちた。



 さらにもう一戦。今度はミズカマス二体とコオリスライム。水際を走る影が増え、足場の狭さが目立つ。レンジは前へ出た一体へ短剣を入れたあと、もう一体を追わずに引く。


「火よ、結べ。種火を弾け。――《ブラストシード》」


 圧縮火塊が二体目の前で弾け、水面の上で視界が揺らぐ。足運びの止まった一拍へ、マッチーが前へ出て斧で押し返す。ハヤセの矢が、足場の縁で跳ね返ろうとしたミズカマスの腹を貫いた。



 もう一戦では、キリタマ二体にナガレヘビ一体。霧が足場の高さまで膨らみ、視界が白く濁る。エーテルが雷で手前の霧核を潰し、ハヤセが奥の核へ矢を重ねる。レンジは蛇の前へ出て短剣を低く構え、首が伸びたところだけを弾く。無理に倒しへは行かない。そこへマッチーが踏み込み、雷をまとった斧で蛇の胴を叩き切った。



 戦うたび、少しずつ形が揃っていった。レンジは誰の刃の前へ入ると止まるかを覚え、ハヤセはどこにいれば射線が切れないかを外さなくなる。エーテルとマッチーも、その二人が空ける場所へ自然に入るようになった。


 五戦目を終えた頃には、最初のぎこちなさはだいぶ薄れていた。



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