王国最強
翌日、俺はミルグリア王の厚意で騎士団長に戦闘稽古を付けてもらうために王宮の練兵場に足を運んでいた。今日俺が稽古を付けてもらうのは近衛騎士団長で名実共に王国最強の人物だ。余談だが近衛騎士団と王国騎士団は別の組織である。何が違うのかというと近衛騎士団は国王直属、王国騎士団は軍務卿の指揮下にある。
話が長くなった。何はともあれ王国最強と名高い騎士団長を待たせるわけにはいかないので指定された時間より早めに来てストレッチをしているというわけだ。
弓なりに身体をググッと伸ばしていると練兵場の上に取り付けられている座席に誰か座っているのが見えた。
「お、ようやく気付いたかい?」
「初めまして、騎士団長。冴島湊と申します」
「へぇ、僕が誰か分かったんだ。思いの外見込みがありそうだ」
彼はクックッと笑うとその場から跳躍しこちらに降りてきた。
俺は子供の頃、柔道を習っていたことがある。
そこの師範代や上の段位持ちは動きが自然というか、動作一つ取っても滑らかだ。
目の前の彼もそう見える。
決して身長が高いともガタイが良いとも言えない。
それに若く見える上にその気怠げな表情は強者特有の覇気を全く感じさせない。
しかし彼は今まで見た誰よりも大きく見えた。
「そんなに緊張しないでよ、僕は近衛騎士団長のリベルトだ。よろしく、ミナト」
握手を求められたのでそれに応じる。すると手を捻られてバランスを崩された。
「咄嗟のことにしては上手く受身を取ってたね、もしかして武術の経験でもあるのかな?」
「ってて、ええまぁ…子供の頃に少々…とはいえこの様子ではガキのお遊びレベルでしょうが」
「アッハハ、伊達に王国最強を名乗ってないよ。近衛騎士団長としてはぽっと出の勇者様には負けたとあっては酒場で笑いのタネだ。僕は君みたいに強い異能を持ってるわけではないからね」
「…なぜそれを?私の異能は誰にも話していないはずですが」
「カマをかけただけだよ。ミナト、君は嘘を付くのが下手だね。詐欺師になれとは言わないけど少しは惚けたり取り繕う術を学んだほうがいい。本当はエカテリーナ王女がこういうことを言うべきなんだろうけど、彼女の性格を考えると陛下も難しいと感じたのかもね。どうりで僕に君の教育係を任せるわけだ」
この人は俺を煽りに来たのだろうか?さっきから散々な物言いに沸々と怒りが湧いてくる。
「おっと、勘違いしないでくれ。僕は君を煽りに来たつもりは…半分くらいはそのつもりだったけど、もう半分は真剣な忠告だよ。君は勇者だ。当然、国のお偉いさんと話す機会は多い。その中には君を取り込んだり、利用したり、あるいは排除しようとするものもいるだろう。そんな時に君がその様子なら食い物にされて終わるだけだ。」
「それは理解しました。ですがなぜあなたがそこまで私の世話を焼くのですか?」
リベルトはうーんと顎に手を当てて口を開いた。
「昔の僕と似ているから、かな?僕は平民の出でね。歴代の近衛騎士は貴族ばかりだったから、平民出の僕には周囲からあまりよく思われていなくてね。当時の軍務卿が貴族相手のやり過ごし方を教えてくれたんだよ。5年ほど前に病でこの世を去ってしまったけれどね今でも時折、墓参りに行くよ」
「大切に思われているのですね」
「あぁ、カルティエ伯は僕にとっては大恩人だ。その恩を返す機会が巡って来なかったのが残念でならないよ」
俺は地球にいる社長を思い出した。大学を退学し途方に暮れていた俺を拾ってくれた。金がない時はよく飯を奢ってもらっていたし、何か悩み事があれば相談にも乗ってくれた社長。俺はリベルトの話を聞きより一層、帰還への意欲を高めた。
「しんみりした話はこれでおしまいだ!さっきのお詫びと言ってはなんだけど僕の先天異能を見せてあげるよ。先天異能の中では下から数えた方が早いくらいには地味だけどね」
王国最強の男の先天異能、気にならないと言えば嘘になる。どれだけ強力なものなのか、想像するだけで胸が躍る。
「剣戦血界」
…何も起こらない?不発…ではなさそうだ、リベルトの様子を見る限り異能は発動している。
「異能を使ってみてよ」
俺は自身の重力エネルギーを奪う————————
「!?」
強奪が発動しない!?これがリベルトの異能…どこが下から数えた方が早いだ、無茶苦茶じゃねぇか
「理解したみたいだね?この異能の効果は自身を中心とした一定範囲内の異能と魔術の強制解除と行使の禁止だよ」
「下から数えた方が早いって嘘でしょう、そこから魔術を撃ってるだけで大抵の相手には勝てるじゃないですか」
リベルトは首を振る。
「いや、嘘じゃないよ。だってこの異能を使ってる時は僕も魔術と異能を禁じられるからね」
それでも、と続ける。
「僕が王国最強なのは、魔術なんて玩具を使わなくても圧倒的に強いからだ。それじゃあミナト、やろうか?」
この後めちゃくちゃボコボコにされた。
というわけで新キャラのリベルト君の登場でした。作者の中では1、2を争うお気に入りキャラだったりします。
《結芽ちゃんからのお願い》
どくしゃさん!よんでくれてありがとうございます!さくひんのひょうかとぶっくまーくをおねがいします!