まずは聞き込み
その後会議では、冒険者ギルドの魔物討伐依頼が減少していること、商業ギルドでは物の流通が減っていること、貴族街ではやっぱり新政権が求められていることなどが、報告された。
予想の範囲内だ。
政変推進派の主張である、王が王の座につかないから頼りない、というのは建前でしかない。自分たちが権勢を拡大するために、政変推進派が勢いづいているんだ。
だから、俺たちは全員身を隠している。旗頭にされないために。
そうしたら、親父の更に弟、精霊の悪戯と言われているがなぜか忽然と姿を消した、もうひとりの王弟を探し出す動きが最近になって出てきた。
いや、どこにいるかは把握してるよ。どうやら向こうにもバレてそうだけどな。
もめてる場合じゃないのに。
はぁ、と、おじさんはため息をついた。
「やはり、精霊の力の減少と、他国とのやりとりができないことが影響しているようだ。今のところ適当な理由をつけて国境の門を閉鎖しているが、それがいけないのだろう」
ふぅ、と、親父も息を吐いて続ける。
「解除するわけにもいかんだろう。門を開けても、その先には……わかるよな。人々が自棄になってもおかしくないんだ。少しずつ対策していくしかない」
下の姉、ペルラ姉さんが身を乗り出した。
「せめて、王都周辺の魔物達がもう少し増えたら、魔物肉を主食にしている平民は落ち着くと思うのですが。貴族が食べる家畜の肉も、平民の需要により高騰しています。やはり、精霊様は、まだ……」
しん、と、室内が静まりかえる。
「生誕祭で、神事を行う。その際に、ニムルスを連れて行こうと思っている。俺たちでは無理だったが、ニムルスはまだ会っていないからな」
親父の声が響いた。まだあるのか、俺の仕事。
その後、大した報告はなく、現状維持で会議は収束した。ハルデンツェルト家には、おじさんからさりげなく、やりすぎないように言ってくれることになった。
そうして次の日。俺は学校が終わるとすぐに、着替えて炭と灰の袋を大量に背負った。
そっと、狙いの井戸のそばに近づく。
「あの、炭や灰、いりませんか?引き取りも高額でしますよ!!」
数人のおばちゃんやおばあちゃんが振り向く。中にはお手伝いらしき小さな女の子もいる。
「残念だけど、間に合ってるねぇ。お兄ちゃん、行商かい?大変だね」
ふぅ、と、腰を下ろして俺は休む態勢を取る。
「……やっぱり、このへんは炭は足りてる?みんな薪もたくさん使えるから、灰もたくさんあるよね。あんまり必要ないのかなぁ……全然売れないよ。どうしたらいい?」
古くてぼろぼろの帽子を深くかぶったまま、俺はいつもより3割り増しくらいのボロボロでぶかぶかの古着をばっさばっさと翻して風を入れた。荷物をたくさん背負って歩いて、ちょっと暑い。
おばさん達は、ふふっと笑って、まだ子供の俺の商売を褒める。こうして抱えられる程度のものなら、売ってもギルドに報告は不要だ。
父ちゃんが最近稼げなくてさ、って、愚痴を言ってみた。
そうしたら、親切なひとたちが近所の話題を提供してくれた。よしよし、いい調子。
俺の初仕事は、アリスの誘拐犯かつ協力者探し。
あいつは慎重な性格だった。何事も様子見だ。
その警戒心の高さがどうしてだったのか、俺は今回初めて知ったわけだが。
初対面の相手を、信用するような奴じゃない。
だから、近所に知り合いがいて、そいつが手引きしたんじゃないかって、あたりをつけた。
だったら、あいつが親しかったやつを見つけたらいい。そう思った。
「少し前なら、ほとんど一人暮らしの小さな女の子がいたんだけどね。急に引っ越して行っちゃったんだよ。荷物もほぼそのままだったそうだよ。ここらは治安がいい方だけど、あんたも気をつけな」
「え、なにそれ怖い」
「それがね、いつも薪を運んでくる、額に傷があるガタイのいい男がいたのさ。そいつが怪しいって、みんな言ってる。あんたも見かけたらすぐ逃げるんだよ」
……あたりだ。よし、このまま。
「ほんとに!?怖っ!仲間にも言っておかなきゃ!詳しく教えて!炭、あげるからさ!」
親切な人はいるもんだ。とりあえず、一歩前進。
話は大体わかってきた。
名前は姉ちゃんが記録から調べたからわかってる。
ダルク。中年の冒険者で、王都の細々とした仕事をしている。
という建前の、便利屋だ。
王都には一定数いる。
依頼を出すくらい金のある人間の中から、後ろ暗い依頼を、ギルドも介さず受ける闇業者。
冒険者ギルドには、そういうやつは滅多に顔を出さない。だから、風貌や髪の色なんかは重要な情報だ。
深緑の髪、少し長めで後ろに結わえている。額に傷。体は大きめ。声は低く、荒っぽい話し方をする。あと、特徴的なのは、肩を揺らして歩く歩き方。
おばちゃん、ありがとう!
俺は家に帰って、少し身ぎれいな格好をして、とりあえずリーナの家で食事中の親父に報告に行った。
「おお、来たか。座れ」
カウンターの隣の席を勧められる。高さがあるから、ちょっとよじ登る形でなんとか座った。
「あら、ニムルス?珍しいわね。あなたも食事?」
カイルはもう帰っている時間。リーナはまだ降りてきていない。ロザリーがだいぶ慣れてきたので、リーナは少し自由時間をとってから仕事を始める。
「うん、ちょっとね。焼きたての肉が食べたくて」
「オーク肉の串焼きだな。ちょっと待ってろ。ロザリー、ここから直接渡すから、構わなくていいぞ」
はーい、と言って、ロザリーは他のテーブルへ接客に向かった。
ずいぶん慣れたもんだ。あのロザリーが。
「人間、何が合ってるかわかんねぇもんだな。楽しそうだ」
少し嬉しそうに親父が言う。
うん、親父と同類かもな。貴族の生活より、平民街で気楽に過ごすのが、肌に合うのかもしれない。ロザリーの顔は、以前より穏やかになった。
「……貴族ってなんなんだろう。わかんなくなるよ」
ぽつりと本音が出た。本当に、何してるんだ俺たちは。王族なんかじゃなかったら、目立ってもよかったなら、もっと思いっきり生きられるのに。
がしがしと頭を撫でられる。うう、それやめろよ。俺もう11才なんだぞ。
「……すまんな。自由にならなくてよ」
親父。どうした。らしくねぇよ。
「別に。まあ、今日も、面白かったよ。やつの背格好がわかった。いつものとこに書いてあるから。これから下町に行ってみる」
大丈夫だよ。どうにもなんないのも知ってる。平民だって貴族だって、みんなその中でちゃんと生きてるんだもんな。
ちょっと両方知ってるから、へんな気持ちになるだけだ。目の前のこと、まずはやんなきゃ。
「……なんで下町なんだ」
カウンターの向こうから、ずいっとオーク肉の串焼きが差し出される。
リーナんちは、肉の値段が上がっても、変わんないな。おいしそうだ。
皿を受け取って、肉にかぶりついて、親父を見る。親父は、頷いた。おい、またディアスさんにしゃべってんのか。元パーティメンバーだからって喋りすぎじゃ。
負担にならないか心配になるけど、もう知ってるならしょうがない。
「半年、逃げてるんだ。人の少ない王都外の村なんかにいたら、目立ってしょうがないだろ。森に潜伏するにしても、ひとりで森の深いところまでは行けない。森の入り口近辺を半年もうろうろしてたら不審者まるだしだ。額に傷があるらしいから余計に目立つ。だから」
「木を隠すなら森の中、か。考えたな」
にやりと笑い、ディアスさんが肉を追加してくれた。かぶりつく。うまい。ほんとにうまい。
がっつきながら、へへ、と、ちょっとガキっぽい声が漏れてしまう。
初仕事。成功させるんだ。俺だって、役に立ってやる。




