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ハンカチ会議


「だから、見たのよ!馬車の中に、アリスを!間違いないわ。あれはアリスよ!この街にいたのよ!」



……店に入った瞬間、両肩を掴まれてぐらんぐらんに揺らされた。

ロザリーも、力ついてきたなぁ。


親父を見る。にやっと笑ってくる。そうだな。考えすぎだった。そんな一気に情報が集まるわけ



「わたくし、独自に調べましたの。あの家は、カーライル家と言って、今の王を交替させようとしている一派よ。なぜか正妻との実子として、戸籍に記載されているのよ。これは戸籍係を買収したわね。

アリスはあの家に利用されようとしているわ。助けなければならないのよ!そうよね、カイル!」


「そうだ!あいつ、人のことしか考えないから、自分が利用されるって気づいてないんだよきっと!なんか難しいなんかにまきこまれている……んだよな?止めなきゃ、辛い目にあうんだよな?だって、こんなに近くにいるのに、一回も遊びに来ないんだぜ!!」



……予想の斜め上だった。


ロザリーが早すぎる。カイルは落ち着け。


いや合ってるんだけどちょっと無理っていうかロザリーが動いたらそれこそロザリーの家が破滅するっていうか。

本当に実子だからな。母親違うけどさ。



あー、どうしたらいいんだろう。



ちょっと、けんせい、してみるか。


「……なあ、アリスの父親、みたことあるやつ、いるか?」



しいん。一気に場が静まった。


「……ない」


「ないわね」


「うん、お父さんいないって言ってたよー」



……ん?


「物心ついたときにはいなかったって。お母さんも帰ってこないし、ほぼ一人暮らしだって言ってたな、こないだ医務室で」



上から降りてきた、リーナの声だ。



「それは、もしかしたら、もしかするな」


カウンターから、ディアスさんが話しかけてきた。


「ちょっと、今日は休業にしましょうか。聞かれたらまずい話になりそうだわ」






エリサさんが、休業の看板を立てに行く。腰のところまでの扉じゃなく、反対がわにある本当のちゃんとした扉を、しっかりと閉めた。


「エリサ、対策は」


「ばっちりよ」


「さすがだな。勘がいい」


親父がエリサさんをほめる。

ディアスさんもまんざらでもなさそうだ。


この三人は、あと俺の母さんも含めて過去、パーティを組んでいたことがある。親父が家出……もといがいゆう、していた頃の話だ。


信頼してるんだな。そういうの、いいよな。



「えーと、仮定のお話になるのだけど、もしアリスの父親が本当にカーライル家当主だった場合、やっぱり面倒なことになるわね」



そう。気づけ。ロザリーは手を出しちゃいけない。だからアリスはロザリーに魔石を返した。わかってたから、俺たちを頼らなかったんだ。

誰かが説明したんだろうな。どこまでバレてるかが問題だけど。



「え、でも、アリスの母ちゃんは侍女だぞ。侍女とお貴族様は結婚しないんじゃないのか」



カイル。君はそのままでいてくれ。

うーん、できれば説明したくないな。そういうわけにもいかないけど。



「低位の貴族は、侍女を第二夫人のように扱うことが、あるのよ。おてつきというの。

高位の貴族になると使用人も貴族家の出の方が多くなるから、きっちり娶るのですけれどね」


うん、そうなんだ。平民が侍女をしている時に、たまに起こる問題だ。



「多くは、平民と貴族は結婚しないわ。手をつけて、子供ができたら、お腹が目立つ前にある程度の金額を渡してさようなら、よ。ひどいものね。

お父さまが本当にいなかったのなら、アリスはその例なのでしょう。……知らなかったわ」



侍女は、女性の仕事としては人気だけど、危険もつきまとう。お手つきになって更に捨てられたら、仕事がなくて食いぶちを稼ぐことに苦労するだけじゃない。

その家の妻に、子供の命を狙われることすらある。



それでも、女性の仕事の口は多くない。

政争なんてしていないで、こういうことを解決しないといけないのに。



「半分実子なのなら、ちょっと手を出しにくいわね……。肝心の伯爵家の血は、ちゃんと入っているのだから。

そこを攻めようと思ったのだけど、どうしようかしら」


いやだから攻めないでくれ。今はまずい。頼むからおうちの人に相談してくれロザリー。




ふぅ、と、カイルがため息をついた。


「そんな苦労してるなんて知らなかった。ハンカチ作るとき、ずっと部屋で一人だったんだな、あいつ」


やけにいっぱい持ってると思ってたんだ。

その発言に、みんながしんみりした。


カイルのいいところは、こういう、すれてないところだ。

なんだかこころが和らいでいた。

だからだったのか。ん


その後の爆弾発言を、俺は予想できなかった。



「狙われるから、アリスの母ちゃんはわざと太ってたのかな。一回見たことあるんだけどさ、すごい丸かったぜ、アリスの母ちゃん」



……丸い?


まずい。カイルがアリスの母親を見たことがあるなんて知らなかった。気づかれませんように。



「そういえば最近、ころころした体型のひとが教会をうろうろしてるよね?アリスがいなくなったのとおんなじくらいのときだったかなぁ」



リーナ!頼むから気づかないでいてくれ!!


カイルの目がきらきらしてきた。まずい。どうしよう。



「リーナ、カイルも。教会で働く方のことを、あれこれ詮索するものではありませんよ。大体、複雑な事情を抱えているものなの。聞かれるだけで、とても心の辛い思い出がある方もいらっしゃるのよ」



……エリサさん、ナイス!


こっちをちらと見て、エリサさんは小さく頷いた。

あ、これ、親父、エリサさんとディアスさんには多分話してるな。強い味方ができた。


ほっとした俺は、でも、甘かった。



「人の秘密を知りたい時、正面から聞いてもまず教えてくれないわ。まずは、少しずつ毎日の積み重ねで仲良くならなければ。ふふ、私もたまに教会にお祈りに行ってみようかしら」


……一枚噛んできたよエリサさん!!



「ああ、そうだな。俺も行こう。教会は……手は出しにくいが、人の出入りは多いからな。逃げ場所としても思いつきやすい。俺は、司祭と少し話がしてみたい」


……二枚目噛んできたよディアスさん!?



「はっはっは。そうか、リーナは、ころころしてるその人が気になるのか。かわいいリーナのためなら、ひと肌脱がねばならんな。なぁ、ニムルス?」



……三枚目噛んできたけど目立つなって言ってたよな親父??



「まあ、そういうわけで、大人にとりあえず任せなさい。あなた達はできるだけ今まで通りに過ごすこと。ロザリーは、よくよくご実家と相談なさいね」



あ。そういうことか。俺らがへましないように、出てきてくれるんだ。

申し訳ない。ありがたい。ちょっと肩の荷が下りた。



リーナと、ふと目が合う。にやにやしている。

あ、こいつ、俺がはらはらしてるの、気づいてたな。くそ。かっこわるいとこ見せたくないのに。



「多分、全く会えないわけではないわ。まだわからないけれど、直接本人に会える日を、なんとか探してみますからね。みんな安心してちょうだい」



とりあえず、それで今日の会議はおしまいになった。


エリサさんは、そのあとちゃっかりしっかり、お店を開店させていた。



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