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本編開始前に悪役令嬢を断罪したらうちでバイト始めた  作者: 作者
第四章 ハンカチ屋の様子見
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強制イベント発生 前編

私の家の前に立ちはだかる、大きな体のひげのおじさん。

緑の髪をひとつにまとめて、額の傷を隠そうともしない。勲章だとでもいいたげだ。


どうしよう。家にすら入れない。

何しにきたの。


こわい。こわいよ。



「……今日、依頼はないはずですよね」


精一杯強がった。声は、ふるえていた。


にやり、ダルクさんは笑う。


「ああ、ねぇな。お宅のは、ね」


つかつかと、ダルクさんは近づいて来る。私は同じくらい後ずさって、距離を取る。



「こっ……来ないで!!」


さっと、さっきもらった赤い魔石を突きつける。

これがあれば、ダルクさんを吹き飛ばすことだって、きっとできる。


「うわ、物騒なもん持ってるなー。誰にもらった?それも調べなきゃなんねぇか……めんどくせぇ」


くっ、あんまり効いてない。


「帰ってください。でないと、怪我しますよ」


ダルクさんは、目を丸くして。

ぶははっ、と、大声で笑われた。何よ。

何やら、満足げにこちらを見ている。なんなの、なんか違う。



「こんなとこでそれ使うのか?ここ半壊するぞ。怪我人がたくさん出るだろうなぁ。お前のせいで」



つかつかと距離を詰めて、狭い石造りのつ階段を降りて来る。階段の踊り場に、私の背が、つく。


「大丈夫だよ。あんたを可愛がってくれる高貴な方に、会わせてやりたいだけだ」


一歩、一歩、そっとダルクさんは近づいて来る。

魔石を、ぎゅっと握りしめた。



「俺はここにはもう来ない。用が済んだら、他の街にずらかるからな。それも持ってていい。それならどうだ?」


とうとう、私の目の前まで、来てしまった。

すっ、と、しゃがんで私と目線を合わせ、ダルクさんは話す。


「言っとくが、貴族なんて関わるもんじゃねえぞ。あいつら子供すら駒としか思ってねぇ。だけどよ、お前の母ちゃんは、救ってやれる」



え、なんて?お母さんがどうしたって?


「知らねえのか?まあ、知らねえよな。

お前の母ちゃんはバレてないと思ってるが、ノーリス男爵家は、お前の父親の息がかかってる家だ。最初から逃げられてなんかなかったんだよ」


かたかた。どこかから、音がする。なんだろう。


「おとう、さん?」



ふっ、と、ダルクさんは、なんだか寂しげな笑い方をした。


「ちょっと場所変えるぞ。家は嫌なんだな?じゃあ、どこか誰かに聞かれないような、小さな公園なんかいいんだが、どこがいい?」


……譲歩してきた。あんなに図々しかったのに。



様子見は、得意だ。このひとは悪いひとだけど、今だけは、なんだか正直になっている気がする。


話は、聞いておくか。



「ある。教会の、裏庭が、近い」


街灯があるから明るいし、人通りもそれなりにある。見通しも悪くない。あそこなら。


ははっ、と、ダルクさんは笑った。


「さすが高級住宅街だな。……それだけの給金をもらえる仕事にありつけたことを、お前の母親には怪しんでもらいたかったもんだが。

今言っても始まらねえ。行くぞ」



ダルクさんは、私を素通りして、階段を先に降りだした。


ふっと、腰が抜けそうになるのを必死に我慢する。

震える手で、手すりをつかみ、できるだけ堂々と、歩く。

様子見は、得意だ。この人は、舐められると対応を変えるみたいだ。魔石だけでこんなに対応が変わった。

舐められなければ、ちゃんとした話が聞ける。



お母さんが危ない。お父さんは、悪いひとなんだ。


やっぱり、お母さんは、おてつき、だったんだ。


しっかり、しなきゃ。




少し歩くと、教会の北側のお庭に着いた。

緑がたくさんあって、湧き水も流れて小川になっている。

通りから見えない、でも大声を出せば聞こえる程度の位置のガゼボを選んで、ダルクさんと二人で座った。


心臓がばくばく言ってる。落ち着け。落ち着け私。



ダルクが、私を見ながらぼりぼり頭を掻いて話し出した。


「さて。ちょっと話すか。お前、この後予定なんかないよな?ずいぶん走り回ってたみたいじゃねえか」


くっ。恥ずかしいけど、私の服は汗と涙でぐしゃぐしゃだ。バレバレだったか。


「魔石、あれだろ。同じクラスの、ピンクの髪か金髪からもらったろ」



ぴく。なんで?なんで二人のこと知ってるの?


「……多分こうやって話せるのは最後だから言うが、俺は最初から、お前を監視兼、護衛してた」


「監視と、護衛?でも、薪が……」



ふっ、と、またダルクさんは笑った。

その顔は、ちょっと優しいと思うくらいだ。あんなに嫌なやつなのに。


「なんかお前見てるといらいらしてよ。反抗させたかったんだよ。一つケンカでもして、仲直りしたら警戒も薄れるし護衛しやすいだろ?子供とは思えねぇお前の態度で、失敗続きだったが」



ぽん、と、頭に手を置かれる。

あ、なんだろう。こういうの、すごく、久しぶりだ。


「ごめんな。怖かったろ。よく考えたら、家に一人きりだったもんな。他のやつみたいに、素直になれねぇんだよな」



がしがしがし。頭を撫でられる。三つ編みの髪がほぐれてぼさぼさになる。でも、気にならない。



「お前の父ちゃんは、カーライル伯爵家当主の、バートラムってやつだ。本当の俺の雇い主はそいつなんだよ」


伯爵家。ええと、ロザリーは公爵令嬢だから、それよりは下か。まあ、上の貴族ほどお家争いを怖がって、庶子なんか作らないからね。ぎりぎり本当っぽい。



「ちょうどお前の年の子供が欲しくなったらしい。多分貴族の学校で何かやらせる気だろうな。気をつけろ。政変がらみだぞ」


ん?わかんないことが出てきたぞ。


「政変って、なに?」



「お前本当に学校でぼんやり過ごしてたのな。

身近に怪しいやつ、何人もいたろうに。……まぁ、子供だしな」


ぽんぽん。頭をまた、撫でられる。



「今の王は、玉座に座らないって話、知ってるか?」


こくり。頷く。ロザリーも読んでた英雄譚だ。



「その英雄は、国の基礎を守る精霊を、鎮めたらしい。戦ったとかそんなかっこいい話じゃなくてよ。

ただ話して、意気投合して、説得した。それだけだ。 まあ、強くねぇと精霊となんかしゃべれねぇけどな」


ほえ。そうなんだ。なんか龍とかと戦ったのかと思ってた。



「王家は、代々精霊と話ができる血筋だから王家でいられた。だが、今の王にはなぜかそれができない。この国のどこかに隠れてる英雄か、王弟が代行しているらしいな」


こくこく。頷く。

そう、それでこのゲームの世界の題名に、隠された王国って、ついてるんだ。それは突き止めてた。



「大丈夫か?ちゃんと話、ついてきてんのか?

……ははっ、大丈夫か。あれだけ用心深いんだもんな。頭はいいよな」


ふっと、笑って、ダルクさんは続ける。


「最近になって、精霊は誰の呼びかけにも応えなくなった。王弟すらダメらしい。

だから、王位を他の王の血族に譲るべきだ、という一派がいる。それがお前の父ちゃんがいる一派だ。お前のクラスの金髪ちゃんとは、逆の派閥だな」


政変。ロザリーと、逆。つまりは。


「お前はあの金髪ちゃんと戦うことになるが、もう避けられねぇ。お前、昔からとっくに、父ちゃんの手中にいるからな」



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