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本編開始前に悪役令嬢を断罪したらうちでバイト始めた  作者: 作者
第四章 ハンカチ屋の様子見
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失意の帰宅


「……わかりました。司祭様がそうおっしゃるなら、しょうがないですよね。ごめんなさい、おじかんを、いただいて」


足が震える。私は、このひとたちの敵なんだ。

黒い絶望感が、湧き上がって私を満たす。


目眩がする。頭が真っ白になった。


何かが、聞こえる。私のこえだ。うん、何か言い訳でもしてるんだろう、私のことだから。

そのまま、自分の口から無難な言葉が滑り落ちるのに身を任せた。多分うまくやっているだろう。私はそういう奴だ。



様子見をするべきだった。少なくとも、いきなりこうして突っ込んでいくべきじゃなかった。



……早めに立ち去ろう。


ぺこりと頭を下げると、ロザリーから投げつけられたものがあった。


反射的に受け取る。それは真っ赤な魔石だった。



「それ、あげるから。危ないときは使って。よく、考えてね」



「……ありがとう」



どうして?


普通は渡さないよね。私が怪しいと思ってるなら。

ロザリーの顔は、複雑に歪んでいる。何か言いたげで、でも、押し殺しているような。


これは、私自身が疑われているわけではない様子だ。

ちょっとだけ気持ちが楽になって、はたと気づいた。



魔石が必要な状況だっていうことも、わかっているってこと、だよね。



それでも教えられないって。ああ、これは無理だわ。





リーナは、無表情でこっちを見ている。何も言わない。なにも、うごかない。


様子見だ。リーナが様子見をしている。うそ。こんな子だったっけ?

……わざとか。そうか。そうかも。


リーナなりの、報復なのだろうか。

医務室で楽しく話したリーナは、嘘だったんだろうか。




そんな中、カイルはおろおろするばかり。

話ぐらい聞いてやれよ、何でそんなに機嫌わるいんだよ、けんかしてたのか?どうしたんだ?


うん、空気が読めていない。それでこそカイル。


かわいそうね。巻き込んでもいけないし。もう行こう。魔法を教えてもらえないことは、よくわかった。



「ごめん。ありがとう。さようなら」




みんなに背を向けて駆け出す。絶望感でいっぱいだった。

私は貴族に関わりのある家の子供だ。スパイだと思われているんだ。私は関係ないのに。何もしてないのに。


ただ、家でひとりだから怖くて強くなりたかった。

それだけだ。



通り過ぎる家々から、美味しそうな匂いがする。

子供達の笑い声、共に笑い、時にしかり飛ばす母親の声。



遠い、遠い憧れの世界は、私の周りに満ちている。

私だけが置いてけぼりだ。いつもひとりで、ナイフを隠して震えている。


何かが、頬を伝う。せめて、せめてつよく、なりたいのに。



どこを走っていたんだろうか。どうやって辿り着いたのかは思い出せない。気がついたら、教会にいた。


はっと思いついた。そうだ。元々は、司祭様と話してからロザリーはあんな風になったんじゃない。


司祭様に話したい。私には私の事情があって、強くなりたいのだと。説得できれば、あるいは。



ねえ、司祭様。



どうして、私は魔法を覚えてはいけないの?


どうして、強くなってはいけないの?


どうして、しらないひとのいいなりにならなきゃいけないの?



調節ができない。走り続ける私の息は上がったままで、空気を求めて活動する肺に応える喉は、痛みを増してきていた。




司祭様は、ご自身のお部屋にいなかった。

だったら、礼拝堂だ。


礼拝堂のドアは、うっすら空いていた。

誰か、いる。



「ですから。ここに、栗色の髪の毛と栗色の目の色の女の子が、入学しているはずなんです。今年の秋で11才なんですが。あなたなら、ご存知ですよね?」


後ろしか見えないけど、高そうな服を着た白髪のおじいちゃん。高位の貴族の使用人らしい。立ち振る舞いが、貴族のそれだ。


司祭様は、ふるふると首を振る。


「残念ながら、生徒が多いもので、心当たりが……。申し訳ありません」


おじいちゃんは、更に司祭様に詰め寄る。


「ならば、授業を見学させて頂きたい。必ずいるはずなのです。彼女がどれだけ危険な立場にあるのか、あなたはご存じない。今のうちに話しておいた方が、彼女の身と、あなたのためですよ」



……脅しだ。いけない、ことだ。


様子見は、得意だ。

怖い。このひとは、怖いひとだ。



どうしよう。教会もダメだ。お母さんに会いたい。でも、お母さんがいる貴族街には、門を潜らないと行けない。通行証を、私はもっていない。



結局、とぼとぼと、家に帰ることになった。


うちは、大通の北側、比較的治安のいいところにある。お母さんが帰りやすいように、貴族街に近いところに住んでいるんだ。あんまり意味はないけど。

下町みたいに、地域のつながりがたくさんはないから、うちみたいな事情のひとは住みやすい。


教会からも近いから、すぐに着いた。



そうして、長い階段を上がって、部屋にやって来ると。


「よう。遅かったじゃねえか」



……依頼もないのに、ダルクさんが、いた。

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