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本編開始前に悪役令嬢を断罪したらうちでバイト始めた  作者: 作者
第三章 わんわん君の断罪は遅れてやってくる
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わんわん君 卒業の試練 中編


教室に入ると、5人が前に出て待っていた。


ザムと、木工職人の息子イリオ、ニムルス、リーナ、司祭様。



……司祭様!?



司祭様は、その長い白髪をかき上げて、ふっ、と嗤った。


「私も昔は、教会の職務でよく……ふふ、この先は神の怒りに触れますから秘密です」


ああ、正義の戦いとは、心躍るものですね、と、力こぶを見せつけてこちらを見やる。



……ちょっと待って参加するな見届け役!!



「さあ、最初の試合はイリオとよ!位置について!レディー!!」


リーナまてまてまだ座ってねえ!!


急いでイリオと俺は椅子に座って身構える。


「ゴー!!」


合図と共にやっと手を握った。あ、まずいちょっと肘の位置が悪


がん!!



……あれ。


「勝者、カイル!!」



わあぁぁ!ぱちぱちぱち。

周りから拍手が聞こえる。え、あ、あれ、勝ったのか。

俺の右手の下になったイリオの手は、赤く腫れてきていた。

え、うそ。まだ力入れたつもりねぇのに。



「いってぇぇぇ!!わ……カイル!なんだよそれ。どうやったんだよ!!」


真っ赤になって手を押さえるイリオ。いやそれ俺が聞きたい。


「え、と、わざとじゃないんだ。ごめん」


そこに、すっとロザリーがやってきた。


「カイルはリーナの家で、特訓を受けているのよ。お手伝いを兼ねて、ね。本当にわざとではないと思うわ。許してあげてくださらない?」


すっ、と、イリオの手にその擦り傷だらけの細い指を添える。

ふわっと緑色の光がにじんで、イリオの傷は治っていった。


……ちょっと待ってそれ最終学年で覚えるやつ。


ロザリー、もしかして、リーナんちに泊まり込んでるのって。そうなのか?勉強、してるのか?



なんか、また、ロザリーが遠く感じた。


ちょっと、なんか、もやもやする。



「次は俺だ!犬っころめ、早くやるぞ!!」


腕をぶんぶん振り回してきたザムの声が、うざい。


「いっつも勝負じゃ互角だったからな。俺が上だって、証明してやる!」


いや今ちょっと忙しいんだよね。


「さあ、ほら、おすわりって言わねえと分かんねえか?」


俺もう座ってるけど?


「ほら早くやるよ!レディー…」


「一生俺の犬として飼ってやるよ!」


なぁ、さっきからさ。


「ゴー!!」



「うるせえんだよ」



どん!!



一瞬で、勝負はついた。


ザムの手は、机にめりこんでいた。



いてぇぇぇ、とか、周りの歓声とか、色々聞こえてきたけど、なんか遠かった。


こいつこんな奴だったか?


なんかちがう。ちがう。ちがう。



うまく言えないぐるぐるしたものが、喉の奥につっかえて、すごく気持ちがわるい。



金色の巻き髪が、また、魔法を使うのを、俺はただ、呆然と見ていた。




わぁぁぁぁ!ぱちぱちぱち。

みんなは拍手喝采で祝ってくれる。カーイール!カーイール!と、俺の名前を呼ぶ声も、聞こえる。


その中に、ハンカチ屋の声が混じる。

はっと、我に返った。


ザム。お前、ほんとにやばいぞ。



「ちくしょう!どんなズルしたんだ!俺とお前はおんなじくらいだったじゃんか!」



がたんと椅子を倒しながら立ちあがり、ザムは俺の前に来て胸ぐらをつかんだ。

その手を、ぐっとつかんで、ひねりあげる。


ザムの、悲鳴が聞こえた。あれ、これ、どんくらい加減すればいいんだ?

ちょっと弱めておいた。それで充分、だった。



「……なぁ。お前、言わなきゃなんねぇこと、あるだろ」


たのむ。ザム。俺になるな。ならないでくれ。



「なんだよ!犬じゃなきゃ、たぬきだ!今まで俺を見下してたのか!?本気でやってなかったのか!」



はぁ。ため息をつく。


「ちゃんと本気だったよ。力がついたのはほんとに最近になってからだ」


ぐっ、と、ザムの口がへの字に曲がって、ぷるぷる、ふるえ出してきた。

いやダメだろ。男が泣くなよこんなとこで。



「それよりさ。お前、俺みたいになんの?言わなきゃなんねぇことも言わねぇでさ。お前は何の動物になるんだろうな?」



どん、と、突き飛ばす。その先には、ハンカチ屋こと、アリス。



「……あ」



よろめいたザムは、アリスにぶつかりそうになった。

アリスは、ちゃんと、ザムを支えた。



「……なに?」


ザムは、無言でじっと、下を見ていた。

俺は、後ろに立って、ザムに言った。


「友達だと思ってたから、言うんだぞ。俺は、まだリーナに言えてないことがある。だいじなことだ。わんわん言われる原因になったことだ。お前に落書きされた内容だ」



ザムの肩を抱いた。ザムは、まだ下を向いていた。



「なぁ、お前はほんとに、あんなことして、そのままにするやつなのか?俺が言えることじゃないけどさ」



下を見ていて、ザムの顔は見えない。


ぐっ、と、拳を握ったのがわかる。



ダメか。ダメなのか。俺もできてないもんな。こんな風に、えらそうに、ほんとは言えないもんな。



「ふふ、そういえば、初対面で髪も引っ張られたわ。あれは痛かったなー。あれも、言われてないこと、あるなー。未来の兵士のライバルは、何にも言わないのかなー」



ハンカチ屋が、ザムをのぞき込む。その顔は、晴れ晴れとした、笑顔だった。


いいやつなんだな。根に持ってない。ただ、促してるだけだ。ひどく強く殴られたのに。

誰かさんが傷をきれいに治してくれているおかげも、あるかもしれない。けど、それでも。


それが、こいつにまっすぐに届くのか。



教室は、しんと静まり返った。




「…………ごめん」




ザムの、一言が。聞こえた。


ぱち。ぱち。ぱちぱち。

司祭様が最初に。みんなが続く形で。

少し、拍手が聞こえた。


ぽた、ぽたと、室内なのにザムの足元に、水が落ちる。



ハンカチ屋は、やっぱり、ハンカチを取り出した。


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