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本編開始前に悪役令嬢を断罪したらうちでバイト始めた  作者: 作者
第三章 わんわん君の断罪は遅れてやってくる
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わんわん君 卒業の試練 前編


教室に入ると、みんながもう集まっていた。

そこにアリスも紛れていた。

いつもぎりぎりの時間に来るリーナも、今日は来ている。


なんだ、俺、早めに来たのに。全員いる?

今日なんかあったっけ?



机が、教室のわきに片付けられて広くなってる。


ぽつんと、ひとつだけ真ん中に置かれた机と、それを挟むように並べられた、二つの椅子。



ちら、と、リーナを見る。

にやりと、いつもより一段と悪い顔で、リーナは嗤った。


ぞっとした。

なにが、始まるんだ。



ぱん!と、リーナが手をひとつ叩いた。



「さて、今日は、カイル君のわんわん卒業式、腕ずもう大会を開催します!!」



ぱちぱちぱち。みんなが拍手している。

え、なんだよちょっとそれ聞いてねぇ。



「ルールは簡単。みんなで腕ずもうして、勝った5人、カイル君に挑戦してもらいます!男子は強制出場、女子はエントリー制!

勝った人は、カイル君をわんわんって言っていい権利を獲得しまーーーす!!」


ぱち、ぱち。

まばらな拍手が響く。



そうだよな。微妙すぎるだろこれ。

昨日の今日だぞ。なに考えてんだ。



「ちなみに、権利を獲得したひとには、うちのご飯を一回無料で御招待!みんな、うちのごはん、おいしいかーーー!!」



ぱちぱちぱち!!おおおおお!

今度は威勢のいい返事が返ってきた。


「みんな、わんわん君のこと、すきかーーーー!!」


ぱちぱちぱち!!ばーかばーか!



……最後!お前だろザム!!


「さぁて、最初のカードは、くじ引きで決めます!この箱の中の木札を取って!わんわん君……間違えたカイルは、5人の挑戦者が決まってから勝負ね!」


「見届け人は、司祭様だ。いいな、カイル!」



ん?ニムルス、まさか。


教壇を、ちらと見る。司祭様がちょうど教室に入ってきて、教壇に座った。

すごく、穏やかな笑顔で。

公式イベントかよ!!いいのか神の教え!



ニムルスが、こっちを見てにやにやしている。

黒幕が誰なのか、ちょっと察した。

そうだよな、リーナはこんなこと思いつかないよな。



「あくまでも、カイル君の了承があればですが。平和的に解決できるのなら、それもよいでしょう。あなたなら大半の子に勝てると、私は思っておりますのでね」


……司祭様の頭が意外と、お貴族様のふわふわパンみたいに柔らかい。

こんな人だったのか。知らなかった。



「カイル!最後の戦いは私とよ!覚悟はいい?」



リーナの、声だ。

何回も負けた。そのたびに、言えなかった。



わかったよ。やってやる。


「いいぜ。今度こそ、勝ってやる!」




俺は、教室を出された。

予選は時間がかかるから、外に出て何かやってて、と、リーナに雑に追い払われたんだ。


そういうとこだぞ、リーナ。



はぁ、と、ため息をついて、教会の花壇のところにやってきた。


エントリーしていない女子達も、庭に出て花を摘んで冠を作ったりして遊び始めている。



わんわん卒業か。

なんにも、言えないままに、終わるのか。


右手が、ぴりぴりと痛む。



たっぷりと水を吸った花達は、とても元気だ。



「カイル。ここにいたのね」


金髪の縦ロール。

話しかけてきたのは、ロザリーだった。


「ロザリー、参加しないのか?」


たぶん、あの店で働いてる時間が長い分、ロザリーの方が力があると思う。俺でも負けるんじゃねえかと思ってる。



くす、と、色の薄いベージュの瞳を細めて、ロザリーは続ける。


「わたくしには、そもそもあなたを、あのような呼び名で呼ぶ権利などないのです。主犯はわたくしですから。

そもそもあなたは巻き込まれただけなのに、このようなことになって、ごめんなさい」


……それは。違う。


この、右手の痛みは。巻き込まれたなんて言い訳でごまかせるものじゃない。

女の子を、思いっきり殴ったんだ。


みんなを守る立場になりたい、俺が。



「贖罪ならば、もう充分行っていると思いますわ。

あの後、あなたが繰り返しリーナに突っかかっている時。なにも言わせてもらえなかったのも、みんなわかっているわよ。

だから、わんわん君と、親しみを込めて呼ぶのです。

その呼び名が、罪を認めている証なのだから。

途中までは、その言葉に嫌らしい意味はなかったでしょう?」



……うん。たぶん。男連中が騒ぎ始める前は、別に気にならなかった。ちょっとはネタになったけどさ。



「あなたに嫌な感情を持っている人は、そこまで多くはないということです。

思い切って、挑戦して、リーナにだって、勝ってみなさいな。

無理かもしれませんけどね。」



ふふっ、と、笑いながら、ロザリーは、俺の背をぽんと叩いた。

押されたその先には、ハンカチ屋もといアリスがいた。


用事があるのか、ロザリーは、立ち去って行った。



「あ、あの!頑張ってね!」


ハンカチ屋もといアリスは、なんだか緊張しながらこっちにやってくる。

ちくっと、心が痛んだ。こいつ、俺に巻き込まれて、殴られたんだよな。こんなに細っこいのに。


「ああ。……ザムのやつ、絶対後悔させてやる」



ふふっ、と、アリスが笑う。


「ねえ、私と初めて話した時のこと、覚えてる?」



……いや。いつだったかな。

ハンカチ借りた記憶しかねえんだけど。



「ザムに、入学初日に髪の毛引っ張られたりしてからかわれたんだよ。それを、止めてくれたでしょ?確かそれが、カイルとザムがしゃべるきっかけだったと思う」


あんなに仲良くなるとは思わなかったけど、と、くすくすハンカチ屋が笑う。


全然思い出せねぇ。



「なんか言いそびれててさ。

ずっと、言いたかったの。……ありがとう」



うっ。やっぱり思い出せねぇんだけど。


でも、そっか。俺以外にもいるんだな。

言いそびれてた、か。そっか。そうだな。



「いや、俺の方こそ、ハンカチいっぱい、ありがとうな」



遠くで、リーナが俺を呼んでる。


よし、勝負だ。俺は教室に、なぜか全力で走った。


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