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本編開始前に悪役令嬢を断罪したらうちでバイト始めた  作者: 作者
第三章 わんわん君の断罪は遅れてやってくる
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断罪は終わらない、けど


次の日、学校に来てみると。

俺の机に、石筆で、犬っころ、ばか、わんわん、尻尾振ってんじゃねぇ、って、書いてあった。



なんだよ。なんだよこれ。なんで俺なんだよ。


誰がやったんだ。予想はつくけどな。



近くの机に座ってにやにやしてるザムに真っ先に話しかけた。


「なあ、ザム。なんか落書きされてんだけどさ、なんか知らねえ?」


話しかけてみた。


「んー?なんだって?俺人間だから犬の言葉わかんねぇんだよな。人語でしゃべってくんね?」



……やっぱりおまえか!!

にやにやにや。嫌らしい、顔。こんな、奴だったのか。



周りにもいちいち聞いて回る。


「なあ、あれ、だれがやったの?」


「わんわんわんわん!ははっ、つうじねえか。俺、人間だもんな。悪いけど犬とはしゃべれねぇわ」


「……悪いけど知らない。ちょっとやりすぎだったんじゃねお前」


「えー、きこえなーい。犬がなんで学校にきてるの?」


「かわいいー。わんわん君、お手できるー?」



女子もか。

まともに話せる奴もいるけど、ほとんどダメだな。



なんなんだよ、なんでだよ。俺、謝ろうとしてただけじゃん。


ねえ、カラムさん。これ、やりあってもいいの?

誰からも証拠が出ねぇんだけど。いや多分ザムなんだけど。明らかにザムの字だし。

でも、確証もないのに殴ったら、またただの暴力になんねぇ?


わかんねぇよ。リーナはどうやって切り抜けてたっけ。



しんと静まりかえる教室。小さく、くすくす、くすくす、と、笑い声が聞こえる。


これが、俺の断罪か。やったことが、そのままこれから、俺に返ってくるのか。


ぐるぐるぐる。悪意が、周り中に渦巻いてる。

わんわん、わんわん、と、声が聞こえる。



ぐっと拳を握りしめ、でも、引っ込めようとした。

受け入れなきゃ、と、思った。

ロザリーは黙って耐えたんだ。ちょっと遅れて順番が回ってきただけだ。



机に座ろうと、ザムに背を向けた時。


ぴしゃん、と、濡れた布が俺の机に置かれた。




ごしごしごし。


茶色い髪の三つ編み、目立たないハンカチ屋もといアリスが、机を擦っている。


え、なにやってんの。



「あー、大丈夫だねぇ。消える消える。

いいんじゃない?犬になっちゃったザムやイリオやトムは、先生に言って退学にしてもらおう。

だって人間のカイルの言葉がわかんないみたいだからね。しょうがないよね。人間やめちゃったんだもんね、かわいそうに」



しん、と、教室が静まりかえる。


こいつ。さらっと、すごいこと言った。


おまえ、まずいぞ。まきこまれるぞ。



「なんだと!!アリス、俺をなんだと」


「わんわん?わんわんわん!!」


「お前めっちゃ弱いくせに」


「わんわんわーーーーん」



アリスは更に煽る。


ザムは、ぶるぶる拳を震わせて、向かってきた。



……ダメだ!ザム、俺とおんなじだそれ!



「つうじないなー?わんわんわーん?わんわんわ」


「おい、やめ」



ばきっ!!



がたがたがたん、どさっ。



アリスは、かなり飛ばされて机を何個もなぎ倒し、下に倒れた。



俺の、何かが切れた。


「ふざけんな!!」



ぶん、拳を振り上げた、その時。



ぱしっ。


それを受け止める存在があった。


青い髪。紫のタレ目。カラムの息子、ニムルスだ。




ニムルス。めったに、表に出てこないやつ。


リーナの近くにはいつもいて、俺が近づくとさりげなく遠ざけるけど、それだけ。いつも、静かにしてるタイプのやつだ。


こんな風に、目立つところに出るやつじゃない。



2回目だな。リーナんときと、今と。



ニムルスは、カラムとよく似た顔をくしゃっと綻ばせた。


「ダメだよ。ザムはどうでもいいけど、それは、カイルにとってよくない。やり返しちゃ、ダメだ」


何も、言い返せなかった。



「でも、俺には確証がある。だって、これ、ザムの字だもんね?ほら、手も石筆の白い汚れで汚れてる。

君は、俺の友達を、傷つけたんだ。これは立派な、報復の理由だよ。いいね?」


くるっと、ザムに向き直る。


「え、いや。おれじゃな」


「みんな見てたよ?きみが書いてるの。ついでに書いてるとこ、司祭様にも来てもらって確認してもらってる。今も教室の外で待っててもらってるからな。

だから、おれ、全力できみを殴ろうと思う」


「いや、それは、誤解で」


ニムルスは、迷いなく歩いていく。

ザムは後ずさりしだした。確かにあれは怖い。


「あとね、言っておきたいことがあるんだけど」



ザムの首根っこを捕まえて、顔をぐっと引き寄せて、ニムルスは、宣言した。



「リーナの婚約者は、俺だ。気に入らないなら俺にかかってくるんだな」



そう、言った瞬間。


ごうっ、と、音がして。


ニムルスの拳が、ザムの顔の直前で止まった。



止まったのに、ぱあん、という音がして、ザムは倒れた。



「……ちょっとニムルス。私、りょうしょう、してないんだけど?」


いつの間にか、アリスを抱き起こしていたリーナが、机の下から声をかけた。



「時間の問題だろ。リーナの攻撃を受け止められるの、俺以外にいるか?いないよな?それすらできない奴らに、リーナに近づく権利があると思うか?」



なぁ、と、教室内を見回す。


しん、と、静まり返った室内で、言葉を発するやつは、いなかった。



「……私に、勝てたらね」


「え?」


「なんでもない!」



リーナは、アリスを乱暴に担いで、どこかに行ってしまった。


医務室だよな?大丈夫?リーナだからな、大丈夫かな。

まあ、魔法でアリスの傷は治ってたし、大丈夫だろ。うん、そういうことにしよう。

ありがとう、ハンカチ屋。後でお礼言わなきゃな。痛かったよな。



ニムルスは、さっきの勢いはどこへやら、顔を真っ赤にして立ち尽くしていた。




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