クラスに戻ると
アリスと、少しの間無言で見つめ合った。
茶色の髪に、薄い茶色の瞳。それは大きく見開かれていた。
ああ、初めてまともに顔を見た。あんまり話してない子だったからな。
目立たないけど、親しみやすい顔をしている。
その小さな口が、見開かれた目が、ふっ、と、綻んだ。
「本当に、反省してたんだね。私、あの後ロザリーがずっと誰とも話さないから、意地になってるとばっかり思ってた。
それなら、みんな行っても大丈夫だよね?さりげなく止めようかと思ったけど、やめておくよ。いいのね?」
……止めようとしてくれてたのか。
どうして。あなたはずっと遠くから見てるだけで、私と仲良くもなかったよね。
なんで。この世界には、ニムルスといいこの子といい、なんでこんな変な人がいるの。
あったかいよ。
「……私、親を説得できたら、早めに行くから!頑張ってね、ロザリー!」
なんだか慌てたアリスが、私にハンカチを押し付けて早足で図書館を出て行った。
頰を伝うお水に気づいたのは、持っていたハンカチにしみが沢山できてからだった。
教室に戻って、いつも通りに置物として、席に着いた。
かたっと、前の席に座った人がいた。
わんわんく…カイルだ。
「なあ、お前、あれからずっとリーナんとこで働いてたんだって?」
お前って。前はロザリー、ロザリーって、親しげに話しかけてきたわん…カイルの言葉の違いに、やっぱりちょっと心が痛くなった。
こくん。頷くのが精一杯。また、目から水が出そうになった。
「なんだよ、言えよ。俺だって行かなきゃいけないんじゃんよ、あいつのこと殴ったの俺なんだから」
ぺしっと、頭を叩かれた。
むぅ。違うのに。なんか抜け駆けしたみたいじゃない。
だって私が主犯で、あなたはその流れでみんなに煽られただけなんだもの。ばかだから。
主犯は私なのに。なんで、なんで叩かれるのよ。
あなたが私とおんなじなわけがないでしょう。
「あ、あれ?違うぞ?あの、そうだな、ああ、うん、俺が思いつかなかったからな!うん、そう!お前はわるくないぞ!な、だから落ち着けよ」
え、何よ。
落ち着いてるわよ。
あんたなんかに慰められる理由も、……資格も、私にはないのよ。
「あーーーわんわん君、女の子を泣かせたぁー!
いぃっけないんだぁーいけないんだぁーーー」
リーナの途中から節のついた声が聞こえる。
どっと、クラスに笑いが起きる。
え、泣いてる?誰が?
「あ、いや、これはだな、その」
「カイル!謝りなよ。また考えなしにひどいこと言ったんでしょう」
あ、アリスだ。
いや、違うよ。ひどいことなんて。
私が悲しいのはそこじゃなくて。
「あ、うん、ごめん、俺もちゃんと謝ってなんか手伝うよ。うちのご飯の手伝いもあるから、あんまり行けないけど。なんか、ごめん。そんな泣くなよ」
だから、別に泣いてなんか。
「だっで、わだじが、がんぢがいじで、ひっく、べんなごどいっだから、ひっく、だがら、わだじが、わるぐで」
あれ。なんだ。うまくしゃべれない。
「ああもう、こりゃダメだな。カイル、責任持ってロザリーを医務室に連れて行けよ」
……ニムルスだ。
わたしの、なまえ。久しぶりに呼ばれた。わたしに話しかけたんじゃないけど。
「あ、うん、ほら、いくぞ。えーと、あの、その、なんだ、おぶさるか?」
「私も行くわ。ロザリー、もう、そんなに我慢してたのね。リーナ、いいよね?」
アリスが話に割って入ってきた。
ぼやけた視界には何も映らない。リーナがどう返事をしたのかは、わからなかった。
そのまま、私はカイルに背負われて医務室に連れて行かれた。なんでかカイルの背中がぐしょぐしょに濡れた。
その日はそのまま帰った。
医務室に来たリーナに、今日だけはおしごと休んでいいよ、と、言われた。




