私の一日は、夕方に終わる
ロザリー視点開始します。
私の一日は、夕方に終わる。
別に朝が早いんじゃない。夜に地獄のバイトがあるからだ。
「おい、ロザリー!こっち上がったぞ」
「はい!」
「ロザリーちゃん、ちょっとお塩取ってきてー」
「はい!!」
「ロザリーちゃあん、ここに埃残ってるよー?」
「……はい」
最後のはさすがにちょっと嫌だったわ。
つーっと窓の桟を指で撫でるな!
ふってするなふって!!
この忙しい時間帯に言うこと!?いや悪いの私よ?私だけどね?
乙女ゲームの主人公らしい、サラサラのピンクベージュの髪の毛。
きれいな緑色の大きな瞳。
恐ろしいまでに整った顔立ち。
リーナ。私のライバルたるべき存在だ。
やっぱり、この仕草は。
日本の昼ドラに出てくる姑のようないびりは。
私の中で、疑惑は確信に変わりつつある。
ねえ、まだ、あなた10才よね。おかしいよね?
私は、ひとつに束ねても頑固に縦ロールを貫く己の金髪をぶんと揺らし、あちらこちらと走り回る。
注文を取ったりお会計したりは、私にはまだむずかしくてできない。そこはリーナがやってくれている。
私はそれ以外の、開店前のお掃除や、料理やお酒を運んだり片付けをしたり、洗い物をしたり食料庫に何か取りに行ったりなど、雑用係だ。
はぁ、まさか本当に、まじめに働いていただけだったなんて。
心配して損した。ものすごく健全じゃないの、ここ。うちの居酒屋みたいに、ばか騒ぎするお客さんがいない分、雰囲気が落ち着いていて安心できるくらいだ。悔しいけど。
さあ、料理を運ばなきゃ。
うっ、オーク肉の串焼き……重い……。
手をぷるぷるさせる私を、リーナがにやにやしながら見ている。くそう、あいつめ。
本当にヒロインなの?意地悪なんですけど?
いや、私が悪い。がまん、がまん。
コペランディ王国、首都、ハーツィラム。
この街は、いつも冒険者や商人で溢れている。
大通りにはいつも沢山の人が行き交い、ダンジョンを攻略した後の祝勝会や、大口の取引が決まった祝いの席など、外食のきっかけには事欠かない。
でも、私の考案した居酒屋は。
この大通りから外れた目立たない場所にある小さな酒場に、ここに住むヒロインに、完敗した。
私が悪い。誤解していたんだ。
昔、リーナのことを信頼する侍女に調べてもらったことがあった。そして、リーナが実家の酒場で給仕をしていると知った。
酒場の給仕の女性は、客への性的なサービス要員。酒場は危険だ。近付いてはならないと、侍女から教えられた。
私は、怒りに震えた。
彼女はまだ幼女なのよ!?現代日本的感覚で犯罪よ?
あの、ゲームの中の、素直で純粋なヒロインが。
そんなひどい環境で生きているなんて、許せない。
ヒロインの素直な心が、登場人物のトラウマを次々と癒していくのを、私は涙を流しながら見ていたのだから。
ここは、私が前世でプレイしていた乙女ゲーム、「貴族魔法学園と隠された王国」の世界。
日本で私が我を忘れて、どハマりしたゲームだ。
前世で私は、高校から引きこもりになった。
殆ど部屋から出ずにやり込んでいたのがこのゲームだ。
登場人物が何らかの心の傷を抱えているところが、私の心にど直球で響いた。
今思えば、悪役令嬢自身も、そうだったね。
このままじゃいけないと、栄養失調の体で意を決してコンビニに行った。そして道端で倒れ、あっけなく人生が終わった。その時にちょっとした出会いがあり、気がついたらこの世界で赤ちゃんになっていた。
私はシナリオ通りに平民の学校に隠れている時代にいじめに遭い、設定通り心に傷を負う予定だったんだ。
リーナはゲームのヒロインで、私は邪魔者の悪役令嬢。
私はリーナの本命ルートの人物と必ず婚約し、そして最後に婚約破棄に遭ってまぁひどいことになる。
でもそんなの関係ない。シナリオはまだ始まってもいない。
婚約破棄は回避したい。自分の運命も大事だ。
でも、今、幼女がひどい目に遭っている。
どうにかしなければと、私の日本人的感覚がそう言った。いや私も幼女なんだけど。
だから、居酒屋を考案した。同時に、お金持ち向けのバーも作った。でも、居酒屋の利益がどうしても出ない。
居酒屋こそ繁盛させて、早くあの店を潰して、あの子を私の店に。
でも、それは誤解だった。このお店は健全で、本当に個人経営の居酒屋そのものだったんだ。
焦っていた、というのは言い訳だ。
クラスで、私は彼女の窮状、だと思っていたものを訴えた。その話題は、入学早々孤立していた私をクラスに馴染ませてくれた。
噂は広がり、リーナの立場は悪くなって行った。
欲がなかったと言えば嘘になる。
うん、あった。確実に。
自分がいじめられるのは嫌だったから。
私は調子に乗った。
これで……いいんじゃない?
このまま噂が広がれば、彼女のひどい環境も知れ渡る。そこに現れる救世主の私。
きっと彼女は喜んで居酒屋に移籍するだろう。
そう、私は、本編開始前に、ヒロインを味方につけることに成功する!
ついでにクラスの頂点に立ち、君臨することでここで過ごす時のいじめも回避しよう!
……全て、間違いでした。
私が流した噂は、ただのひどい中傷だったんだ。
あのこよるのおしごとでつかれているよね。
つくえがなかったらかえるんじゃない?
あ、それ、いいね。そうだよね、ロザリー。
ねえみんな、てつだって。
私は同意した。彼女が学校からすぐに帰って来たら、両親はきっと事情を聞きに来る。
その時、彼女の夜の仕事のことが、既に噂になっていると気付く。
決定打になると、思った。
本当に、ばかだった。




