表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/51

贖罪の始まり

リーナは、その状況を、力任せで突破した。


教壇に座り、啖呵を切った。

実行犯を炙り出し、わざと殴られた。

先生をしている教会の司祭様にそれを見せつけ、そして、許した。


司祭様は、まっすぐに私を見つめてきた。

君が、やったんだよね?

そう、その目が、言っていた。



いじめを、した。私が。


吐き気がした。



朝一番、机に置かれた一輪挿しの菊の花。


机の中に入っている教科書とノートには、しね、うざい、きえろ、きもい。全てのページにそう書かれていた。

予備で置いていたジャージは切り裂かれ、椅子には瞬間接着剤が塗られていた。


机は、私の一番嫌な記憶そのものだ。


私は、何をしていたんだ。



ふらふらと、家に帰る途中。

荒ぶるリーナを宥めてくれた、ニムルスという男の子が、私を追いかけてきた。


お前、やばいよ。今のうちに、お前の親も連れて、リーナんちに謝りに行こう。

お前も、自分の目で店を見たら、もうちょっと素直になれんじゃねえ?


そうして、見事に私の父親役をしているロダンさんも説得し、自分の父も素早く呼んで、すぐにリーナの家に行った。

対応が素早すぎる。いや今それはいいんだ。


とにかく、私はお店に行って実感した。

リーナのお父さんとお母さんの雰囲気。噂のことを聞いて激怒した表情。

落ち着いて説明する言葉とは裏腹の、震えている手

。今にも殴りかかってきそう。


それでも、私に優しくしてくれた。

話を聞いてくれて、お茶も出してくれた。

リーナがいいならと、居酒屋の改善にも協力してくれるなんて。

底抜けにいい人たちじゃないか。


ヒロインにひどいことなんか、なにひとつしていない。


ああ、本当に誤解だったんだ。

私は、本当に何をしていたんだ。ただの、中傷じゃないか。

私は、実感した。私の、罪を。




次の日一番、まだリーナが来ないタイミングで。

クラスで、みんなに正直に言った。



なんだ。そうだったんだ。よかったね、リーナがたいへんなおしごとをしていなくて。


ねえロザリー、うそはよくないよ。

そうだよ、わたしたち、あなたがあんなこといったから、リーナをごかいしていたんだよ。

ロザリーこそ、いそがしいんじゃない。おうちのおしごとのおべんきょうは、だいじょうぶ?おやすみしなくていいの?



私は、見事に孤立した。わかっていた、ことだった。


これから、私がいじめられる。

シナリオ通りに戻っただけだ。私が、悪い。


今回のクラスのみんなの、私に対する扱いは、正しい。


身から出た錆。

私は、本編開始前に、既にヒロインから断罪されてしまった。




私は、ヒロインを中傷した。

それを、このお店の人たちみんなへ謝った。




で、どうして今、ここで働いているかというと。


「おう、ロザリーちゃん!元気か?うん、元気そうだな!!」


がしがしがしがし。

頭をぐしゃぐしゃに撫でられる。


青の髪に、紫のタレ目。


ニムルスのお父さんでここの常連のカラムが、目尻のシワをたくさん作って、顔をくしゃっとさせてわたしを見つめる。


「あらあら、カラム。ロザリーちゃんの髪が乱れちゃうじゃない。この子、よくやってくれてるわよ?リーナとも仲がよくて。

本当に、提案してよかったわ」



仲良くないわ!!!


カウンターの中で、リーナがまた、人差し指を立ててふっと息を吹き付ける。


ああ、ごめんなさいね掃除もちゃんとできなくて!!

悔しくて口に力がこもる。

いけない。私は怒れない。私が悪いんだから。



そうすると、少しスッキリするのか、リーナはにんまりと笑って作業に戻る。

なんでだ。そんなに面白いか私の顔は。


くう、悔しい。素直にごめんって思えない。



リーナには本当に悪いことをしたのに、ごめんって本当に思っているのに、どうしてこんなにイライラしているの、私。



私がここで働くことになったきっかけは、いじめのお詫びの一環で行った居酒屋の無料試食会だった。


すごい人数になったので、居酒屋は一日無料貸切になった。


その時、カラムとひそひそ何かを話していたリーナのお母さん、エリサさんが、私に話しかけた。


一度接客をうちで学ばないかということだった。

リーナのお父さんのディアスさんも同意した。



リーナは、最初眉間にシワを寄せたけど、ニムルスに何か言われて、笑顔になって頷いた。


そして、私に向かって、にんまりと笑って来た。ぞわっと背筋が凍った。

え、ちょっと、あなたヒロインよね。心がきれいなのよね?あれ?なんかおかしいよ?


リーナは、そっと私に近づくと、握手を求めて来た。私に選択肢はなかった。


そっとその小さな手を握ると、ぐしゃっと潰されるんじゃないかくらいの力で握り返された。



リーナは、すごく、きれいに笑った。

右手が折れるんじゃないかと思った。



あ、これ、ダメなやつだ。



そんなわけで、私の時間は、夜にはなくなった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ